アメリカ医療事情

アメリカで救急車を呼ぶ:その②

実は私、アメリカで救急車を呼んだことが二回あります。第一回はこちらをご覧ください。今回は、「アメリカで救急車を呼ぶ」第二弾です。

二回目の救急車要請

息子の痙攣

オハイオのある寒い冬の日。朝から息子が38℃台の熱を出していました。インフルエンザだろうか。これ以上、熱が上がるようであれば、病院を受診するよう妻に言い残し、私は仕事へ向かいました。

息子の熱が心配で、仕事を早めに終わらせて帰宅途中のことでした。妻から電話がかかってきました。

「〇〇が痙攣してる!」

なんと!いわゆる、熱性痙攣でしょうか。いや。インフルエンザ脳症かもしれないし、髄膜炎かもしれない。こういう時は、医師であるが故に想像力は非常に(そして無駄に)豊かです。

Call 911

帰りの渋滞に巻き込まれていたため、すぐに家に着けそうにありません。

痙攣は継続中。呼吸は?循環は?

自分の目で状況を確認できない以上、仕方ありません。救急車を呼ぼう

二回目ともなれば、救急隊要請も慣れたもんです(泣)。911に電話し、名前と住所、そして現在の状況(妻と息子のみが在宅)を伝えました。

状態は安定しているが、、、

家に到着すると、救急隊は未だ到着していませんでした。息子を見ると、痙攣はおさまっています。数十秒の痙攣だったようです。やや意識は朦朧としているものの、受け答えはできていました。

その時の熱は40℃。やはり熱性痙攣だったのでしょうか。

ちなみに、

・熱性痙攣:発熱とともの痙攣する。幼少期に多く、年齢とともに発作はでなくなる。経過観察のみ。

・インフルエンザ脳症:インフルエンザウイルスが脳に感染、脳症を引き起こし、一症状として痙攣を引き起こす。重症化すると後遺症を残す。

・髄膜炎:脳(の周囲の液)への感染症。早く診断せねばならず、抗生剤など、一刻も早い治療が必要。治療しなければ命に関わる。

・てんかん:脳の一部が異常に興奮し、痙攣を引き起こす。慢性的な病気であり、長期の治療が必要。

など、発熱・痙攣をみたら様々な病気を考えなければなりません。

状況から考えると、熱性痙攣の可能性が最も高いと思いました。しかし、初発ですし、症状だけでは他の疾患を除外することができません。症状が落ち着いている今、救急車である必要はないと思いましたが、今後の方針について医師と相談しなければなりません。

救急隊の到着

私が到着してから遅れること数分。救急隊が到着しました。痙攣も落ち着いており、こんな状況で救急車を呼んでしまって申し訳ないな、と思いつつ、とりあえず症状や状況を伝えました。救急隊員2人で何やらゴニョゴニョ話し合った後、私に向かって言いました。

「熱性痙攣だね。家で休んでたらいいと思うよ」

な・ん・で・す・と!!!?

それまで患者として申し訳ない気持ちでいっぱいだった私の心が、医療従事者として怒りの気持ちに支配されていきました。

何故でしょうか。それは、私が三次救急をやっていた頃に上司から叩き込まれた「救急の基本」を元に考えてしまったからです。どういうことかと申し上げますと、

  • 救急隊員の仕事は、命に関わる疾患の可能性を常に考え、そのような可能性のある症状を呈している患者を搬送することである。実は思い描いた病気でなかったとしても、間違って搬送しても良い。多くの患者から命に関わる可能性のある患者を拾い上げる(rule-in)ことが救急隊員の仕事である。
  • 一方、搬送先の救急医師がすべき仕事はrule-outである。救急外来で必ずしも全てを完璧に診断する必要はない。しかし、命に関わる疾患を除外(rule-out)しなければならず、そのために必要に応じて検査するのだ。

という教えがあったからです。あの場で救急隊員が言った言葉は、医師が言う言葉であって救急隊員の言葉ではないと思いました。

アジア人の逆襲

メチャクチャな英語でまくし立てました。

「私も熱性痙攣だと思う。」

「でも、髄膜炎やインフルエンザ脳症であったらどうするんだ?」

「なぜそれを否定できる?」

「救急隊と医師の仕事を履き違えるな」

どちらの仕事が優れていると言っている訳ではありません。それぞれのspecialistが守るべき持ち場と言うものが存在します。

研修医の頃、救急外来で救急隊からホットラインが鳴った際、バイタルサインとして呼吸数の報告をしなかっただけで、ブチギレていた先輩医師を思い出しました。自分の仕事に誇りを持てと。

先ほどまでペコペコしていたアジア人が突然怒り始めたので、救急隊員はビックリしてました。私を諭そうと、必死で説明します。

「これは、熱性痙攣といってね。子供に多くみられる病気でね。でも安心していいよ、、、」

そんなこと、知っとるわーーー!!!

「怒っているのはそこじゃない!君らが仕事を履き違えていることだ!君らがそういった安易な診断をすることで、患者に何かあったらどうするんだ!!」

アメリカ生活で少なからず差別を受けていたこともあり、一気に不満が爆発してしまいました。

もう埒が明かないと思ったのでしょう。もしくは、病院に連れて行って欲しいが為に叫いていると思ったのでしょう。

「わかったわかった。病院に連れて行くよ。」

全然伝わってないではないですか!

「ちがーーう!そんなことを言っているんではなーーい!!」

「だ・か・ら、お前らの仕事はだな、◯△□×◯!!! □×□×◯△□×!!!!」

・・・

・・・

散々叫いた挙句、結局(もちろん)、救急車は使用せず、家で経過観察を選びました

振り返り

その場では、アメリカ人に言ってやったぞ、医療とは何かを教えてやったぞ、と鼻の穴を膨らませていましたが、本当に自分は正しかったのでしょうか

自分の常識は他人の非常識。私の言っていることは、日本では正しいことかもしれません。しかし、アメリカの医療制度は日本のそれとは全く異なります。救急車を使用するだけでも大変な費用がかかりますし、病院を受診し検査するだけでも多額の医療費を請求されます。無料で救急車が利用でき、医療費も格段に安い日本の常識は通用しません。医療費が払えないため病院を受診しない人が大勢いるのがアメリカです。

あの救急隊員も、しっかりとした医療保険を持っていない移民を沢山みてきたのでしょう。あの程度の状態であれば、救急車を使用する方が生計を圧迫しかねないと思い、親切心で言ってくれていたのかもしれません。

そう考えると、随分と失礼なことをしたと反省しました。しかも、前回は救急隊員に助けてもらったくせに。。

みなさんも、私のような狭い世界での自分の常識のみで判断しないよう、注意してくださいね。

ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です