描出
肺静脈の評価は、経食道心エコー(transesophageal echocardiogram: TEE)の強みの一つである。左房と肺静脈が食道に近接することから、画像評価やドップラーによる流速評価にも優れている。
右肺静脈
ME-4Ch viewからプローべを右に回転させ、少し押し込むことで水平に走る右下肺静脈を描出できる。
プローべをゆっくりと引くことで、垂直方向に走る右上肺静脈が観察できる。
ME AoV SAZ view(25〜45°)またはME RV in-out view(50〜70°)からプローべを右に回転させると、上下の右肺静脈を同時に描出できる。
左肺静脈
左上肺静脈と左下肺静脈の左房への開口部は非常に近い。左房流入前に左上下肺静脈が合流し、開口部が一つであることもある1)。
ME-4Ch viewから左に回転させ、プローべを上下に移動させると、左心耳と下行大動脈の間を走行する左肺静脈が捉えられる。左上肺静脈は垂直に走り、左心耳のすぐ外側から左房へ流入する。プローべを少しだけ左へ回し押し込むと、左下肺静脈が水平に走行し、左上肺静脈のすぐ下で左房へ流入する像を描出できる。
ME-4Ch viewから左に回して角度を90-110°にすると左房と左下肺静脈が(ME LAA view)、さらに左へ回すと左下肺静脈と左上肺静脈の両方が左房に流入している像がみえる(ME Lt Pulm veins view)。もし片方の左肺静脈がみえたらなら、角度を±20〜30°に変化させて調節すると両方の左肺静脈が逆V時に描出できる。
正常波形
肺静脈ドップラー波形を得るには、肺静脈内(開口部より1-2 cm)のところにサンプルボリュームを位置させる1)。適切なカラー画像を得るためには、ナイキストリミットを30-60 cm/sまで下げることが時に必要である。
成人における典型的な肺静脈ドップラー波形は、以下の通りである1,2)。
- S1:収縮早期の順行性の波。左房のreservor phaseであり、左房圧のx谷に一致する。心房の弛緩によって左房圧が低下し、肺静脈血が左房に引き込まれる時の血流。
- S2:収縮中期〜後期の順行性の波。左房のreservor phaseであり、S1と共に左房圧のx谷に一致する。右室の拍出が肺血管に伝わった際の血流。左房のコンプライアンスにも関連。
- D:拡張早期〜中期の順行性の波。左房のconduit phaseであり、左房圧のy谷に一致する。僧帽弁が開放し左房圧が低下した結果の血流。左室の弛緩とコンプライアンスに関連。
- A:拡張後期の逆行性の波。左房のpump phaseであり、左房圧のa波に一致する。左房の収縮によって左房圧が肺静脈圧を超えるため。

小児では、殆どの患者でS1とS2の区別ができず、全体として二相性(S波とD波)の順行性血流となることが一般的である1)。乳児では、S波が優位である1)。
様々な波形
僧帽弁閉鎖不全
僧帽弁の逆流が増えるにつれ、S2が小さくS波全体の流速が低下し、D波の流速が増加する2)。重症MRのある患者の中には、収縮期の順行性のS波が逆行性に置き換わる(systolic reversal: SR)ことがある2)。これは、左室の収縮期圧が左房に伝わり、特に収縮中期〜後期の顕著となった左房のv波を反映している2)。そのため、SRはS2の収縮中期〜後期、またはS1とS2の汎収縮期の逆行性血流として観察できる2)。
接合部調律
接合部調律が逆行性に心房に伝わると、心室収縮期に心房が収縮する。僧帽弁は閉鎖しているため、左房圧は上昇し、収縮早期の著名な逆行性血流(cannon A)と認める2)。汎収縮期または収縮中期〜後期の逆行性血流(SR)の重症MRとは区別される。
肺静脈狭窄
肺静脈狭窄では波形が重要である。正常の二相性は失われ、単相性となることがある1, 2)。肺からの静脈血は狭窄していない肺静脈へ再分布することがあり、流速は必ずしも重症度を反映しない。流速で評価する場合は、複数の心拍周期における平均圧較差で評価すると良い1)。
まとめ
肺静脈ドップラーの波形は、以下のようにまとめられる2)。

References
- Transesophageal Echocardiography for Pediatric and Congenital Heart Disease, 2nd Edition. Pierre C. Wong et al. DOI: https://doi.org/10.1007/978-3-030-57193-1.
- Fadel BM, et al. J Am Soc Echocardiogr. 2021 Mar;34(3):223-236. PMID: 33678222.
コメント