心外導管の適応
右室と肺動脈に連続性がない場合、右室と肺動脈を繋ぐ弁付きまたは弁なし心外導管を用いた再建が選択肢の一つとなる。例えば、肺動脈閉鎖や総動脈幹症といった右室流出路が存在しない疾患や、完全大血管転位/心室中隔欠損/肺動脈狭窄や修正大血管転位/肺動脈狭窄、両大血管右室起始症/肺動脈狭窄、ファロー四徴症といった十分な右室流出路のない疾患は、血行動態や外科的観点から心外導管を用いた修復術が施行されることがある。また、自己肺動脈を用いて大動脈弁を置換するRoss手術でも、右室流出路の再建が必要となる。
心外導管の種類
弁付き心外導管は、①同種移植片(homograft/allograft)、②異種移植片(xenograft/heterograft)、③合成素材に大きく分けられる1)。
- 同種移植片:生物学的に同じ種、すなわちヒト由来のグラフトであり、ドナーからの提供された大動脈弁ホモグラフトや肺動脈弁ホモグラフトが使用される。
- 異種移植片:ヒト以外の生物由来のグラフトであり、Dacronと呼ばれる管にブタ由来の弁を組み合わせたHancockや ウシの内頚静脈を用いたContegraなどが存在する。
- 合成素材:Dacronやpolytetrafluoroethylen (PTFE)のGore-Texが臨床使用されている。弁なし心外導管には、自己心膜や合成素材が存在する。
心外導管の機能不全とその影響
再手術を要するような心外導管の機能不全の代表が、導管に関連した狭窄である。狭窄部位としては、心室内、近位吻合部、弁、導管、遠位吻合部が挙げられる。右室流出路の狭窄は、圧負荷による右室肥大と、それによる左室の局所的な壁運動の変化2)や左室拡張障害を引き起こす3)。一般的に、狭窄病変が原因で右室圧が体血圧に近いと手術適応であるが、右室機能が低下している症例ではより低い右室圧でも再介入を要する4)。
弁なし導管だけでなく、弁付き導管に関しても、逆流が問題となる。導管内の逆流は、慢性的な右室容量負荷による右室の拡大や、心室中隔を左室側へ圧排することによる左心拍出量低下が問題となる。また、右室の拡大は、三尖弁輪を拡大させ、三尖弁閉鎖不全症を増悪させる。
慢性的な右心不全により静脈圧が上昇すると、臓器障害が徐々に進行し、肝硬変や末梢の浮腫、蛋白漏出性胃腸症などの症状を引き起こす。心房間交通がある場合、右房圧の上昇は、右左シャントにより低酸素血症を呈する。
他にも、心外導管に関連した動脈瘤・偽性動脈瘤の形成が問題となることがある。これらは破裂の危険があるため、早期の手術を要する。グラフトが感染し、疣贅が付着することもある。抗生剤加療に反応しなければ、手術が必要となる。
術前評価
基礎心疾患と、右室流出路心外導管を留置した理由を把握する。上述のような心外導管機能不全による影響を踏まえ、心臓超音波検査では、両心室機能や三尖弁の評価が重要である。心臓カテーテル検査は有用であり、狭窄部位や重症度、逆流の重症度が評価可能である。心外導管の存在は再開胸時の損傷の危険因子であり5)、CTやMRIを用いた画像検査により、導管や大動脈と胸骨後面との位置関係を評価する。
右心不全による肝機能低下症例では、末梢血管抵抗の低下や高拍出性心不全、腹水や低アルブミン血症による血管内容量の低下、凝固障害にも注意する。
外科的手技と麻酔管理
再開胸では患者の約5%で心血管損傷が発生したとの報告もあり6)、開胸操作や癒着剥離による大量出血に備える。再開胸による導管や大動脈の損傷の危険がある場合は、大腿動静脈に送脱血管のカニュレーションを行い、先に体外循環を開始し低体温とする。万が一胸骨切開時に導管や大動脈を損傷した場合には、用手的に圧迫止血しつつ大腿動静脈からの体外循環を開始し、場合によっては超低体温による循環停止を行う。導管や心大血管と胸骨に距離がある場合や、前回手術時にGore-Tex等を心膜代わりに留置している場合は、胸骨正中切開によるアプローチも可能である。
術中管理は、それぞれの疾患や病態によって異なる。狭窄病変であれば血管内容量や体血管抵抗の維持が重要であり、過度な血管拡張作用を持つ薬剤は避ける。逆流病変であれば、肺血管抵抗を低下させるために酸素濃度を高めて過換気とし、アシドーシスや浅麻酔を避ける。場合によっては一酸化窒素も有用である。右室や左室機能に応じて、心血管作動薬を使用する。
心内シャントがなければ、手術は大動脈遮断をせずに心拍動下でも施行可能である。術中経食道心エコーでPFOの有無を含め、再度確認する。心拍動下で行う場合には、左心系への空気の混入がないか、手技中も経食道心エコーを用いてモニタリングを続けることが大切である。導管を除去し、心室内や末梢側、肺動脈の狭窄がないかチェックする。導管機能不全に対する再手術としては、新たな心外導管を用いた再置換、導管の一部を残しパッチを用いた右室流出路の形成、流出路への弁挿入が挙げられる4)。新たな導管の再置換であれば、折れ曲がりや捻じれによる乱流や圧較差に注意する。
References
- Congenital Heart Disease in Adults. 3rd Edition. Joseph K. Perloff et al.
- Kurotobi S, et al. Int J Cardiol. 1998 Nov 30;67(1):55-63. PMID: 9880201.
- Gorter TM, et al. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2014 Jul;19(1):95-101. PMID: 24722515.
- Stark J. Pediatr Cardiol. 1998 Jul-Aug;19(4):282-8. PMID: 9636251.
- Yamauchi T, et al. Surg Today. 2006;36(7):596-601. PMID: 16794793.
- Russell JL, et al. Ann Thorac Surg. 1998 Nov;66(5):1575-8. PMID: 9875754.
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