肺動脈閉鎖/心室中隔欠損症に合併することが多い(PA/VSD/MAPCA)1)が、その他の先天性心疾患心疾患にも合併することがあり、以下はMAPCAsの一般論について解説する。
発生・解剖
胎児早期の肺芽は、将来の肺動脈である第6鰓弓動脈の枝だけでなく、背側大動脈から起始したsegmental arteriesとも結合しており、その両方から血液を受けてい2)。胎児期の成長過程で肺動脈の発育が不十分であると、肺血流を補うために動脈管やsegmental arteriesを介した大動脈からの血流が残存する2)。これが、体肺動脈側副血管(major Aortopulmonary collateral arteries)の由来である。
分類
MAPCAsは、その起始や肺動脈との関連、狭窄の有無によって分類すると理解しやすい。
起始
例えば、MAPCAsは胸部の下行大動脈前壁から気管支の高さで起始していることが多いが、大動脈弓部や鎖骨下動脈の枝、肋間動脈、冠動脈、頸動脈、椎骨動脈、腹部大動脈から起始することもある2,3)。起始によって、Type I (気管支動脈から起始)、Type II (大動脈から直接起始)、Type III (鎖骨下動脈や腹腔動脈等の分枝を介した大動脈から間接的に起始)に分類することがある2)。
肺動脈との関係性
肺動脈との結合性からMAPCAsを分類する方法では、ある肺区域をMAPCAsのみで灌流している”essential (non-communicating) MAPCAs”と、末梢肺動脈と結合することにより肺動脈と共に灌流している”redundant (nonessential/communicating) MAPCAs”がある2)。
狭窄
狭窄による影響からMAPCAsを分類する方法では、狭窄がある場合、灌流領域の区域的な肺高血圧は防がれる”nonhypertensive MAPCAs”が、低酸素が問題となることがある2)。2mm未満のMAPCAsであれば狭窄がなくてもnonhypertensiveとなることが多い。一方、狭窄がない場合は体血圧への曝露によって肺高血圧を呈し、動脈瘤や出血の原因となる2)。
併存疾患
PS (PA)/VSDに合併することが多いが、Heterotaxy症候群、房室中隔欠損症、純型肺動脈閉鎖、単心室、両大血管右室起始症などにも合併しうる4)。
病態整理
狭窄のないMAPCAsでは左右シャントにより肺血流が増えるため、体心室の容量負荷による心不全や過剰な肺血流による肺高血圧、長期的には不可逆的な肺血管抵抗上昇による肺高血圧症の原因となる。肺動脈圧が上昇するためGlennやFontan循環には弊害となる。
肺血流が少ない患者においてMAPCAsによる血液供給が十分でない場合は、チアノーゼを呈する。MAPCAsは自然経過で狭窄する傾向にあり、体動脈や肺動脈との結合部位や食道の後面の走行過程が狭窄部位となりうる3)。MAPCAsと肺動脈との結合性や肺動脈のサイズ、MAPCAsの狭窄の有無によって、同一患者であっても肺高血圧部位と肺血流低下部位が共存することがある2)。
Redundant MAPCAsでは、共に血流を供給している本来の肺動脈の発育を阻害する可能性がある3)。
MAPCAsの存在は、開心術の術中にも影響を与える。大きなMAPCAの存在下で人工心肺を開始すると、run-offにより脳を含めた全身が低灌流に陥ってしまう1)。また、肺静脈を介した血液の還流によって手術の視野が悪化し、左室内圧上昇により心筋保護が阻害される。
方針
Unifocalization
MAPCAsを大動脈から切離し肺動脈へ吻合する。MAPCAsの狭窄予防、体循環から肺循環への過剰な肺血流の抑制・容量負荷の減少・肺動脈圧低下、肺血管床の増加(肺心室の後負荷軽減)が期待できる(詳細は『肺動脈閉鎖/心室中隔欠損症/主要体肺側副動脈の周術期管理』参照)。
コイル塞栓・結紮
Nonessential MAPCAsに対し、過剰な肺血流の抑制や容量負荷の減少、肺動脈圧低下、開心術時の術野確保、正常な肺動脈の発育が期待できる2)。
術前チェック項目
MAPCAsの画像評価は、外科医にとっても非常重要である。
- 起始:下行大動脈から起始するMAPCAsは開心術時に見えやすいが、腹腔動脈や腎動脈から起始するMAPCAsのようなType IIIは、胸骨正中切開や側開胸では観察しづらく、血管内治療を要する。
- 走行、分枝:複数の分枝から複数の区域、両側肺に灌流することもある。MAPCAsは後方に位置することが多く、特にサイズが小さいと外科的介入は難しい3)。
- 狭窄:MAPCAsの起始部、肺動脈との結合部、食道後面、分岐部が狭窄部位となりうる2)。MAPCAsの分枝や末梢での狭窄がある場合、unifocalizationでパッチ修復を要することがある2)。狭窄の程度や距離もチェックする。
参考:肺動脈の成長を判断する様々なindex
McGoon ratio5)
- (LPA径 + RPA径)/横隔膜レベルの下行大動脈径
- 1.2未満なら肺動脈は小さい2)、1.5より大きいなら右室後負荷の肺血管床としては十分5)と判断する。
Nakata index
- (LPA断面積 + RPA断面積)/ 体表面積
- 正常値は330±30mm2/m2、150mm2/m2は肺血管床不足から低心拍出の危険あり6)。
術中管理
Unifocalizatioinの麻酔管理については、『肺動脈閉鎖/心室中隔欠損症/主要体肺側副動脈の周術期管理』を参照。
References
- Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
- Alex A, et al. Radiol Cardiothorac Imaging. 2022 Feb 3;4(1):e210157. PMID: 35782757.
- Sharma A, et al. Indian J Radiol Imaging. 2023 Jul 14;33(4):496-507. PMID: 37811182.
- Patrick WL, et al. Ann Thorac Surg. 2017 Sep;104(3):907-916. PMID: 28527961.
- McGoon DC, et al. Circulation. 1975 Jul;52(1):109-18. PMID: 1132113.
- Nakata S, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1984 Oct;88(4):610-9. PMID: 6482493.
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