CRNA:麻酔看護師とは

アメリカでは、麻酔科医だけでなく、看護師も麻酔をすることができます。そのような、麻酔ができる看護師のことを、Certified Registered Nurse Anesthetist (CRNA)と呼びます。日本でも徐々にその必要性が謳われ、独自の麻酔看護師を育成している組織もあります。

ここでは、アメリカのCRNAについて、自分の経験も合わせて書きたいと思います。

目次

AnesthesiologistとAnesthetistの違い

実は、「麻酔をする人」を英語にすると2通りの言い方があり、それぞれ違った意味を持ちます。

Anesthesiologist

いわゆる、麻酔科医のことです。医師免許を持っており、専門性として麻酔を選択した医師のことをanesthesiologistといいます。

Anesthetist

麻酔科医が医師であるのに対し、麻酔をするののことを(医師に限らず)anesthetistと呼びます。似ているようですが、-ologistと-tistの違いがあります。良い日本語訳が見つかりませんが、「麻酔屋」とか「麻酔師」といった感じでしょうか。

CRNAは、Certified Registered Nurse Anesthetist (CRNA)ですので、このanesthetistということになります。

その昔、自分が研修医だった頃の上司が、

麻酔科医(anesthesiologist)でありなさい。麻酔屋さん(anesthetist)では駄目だ!」

とよく言っていました。より麻酔科医として勉学に励み努力をしなさい、という意味だったのでしょうが、このブログで書いているように、CRNAも随分と努力が必要な職業です。

CRNA

CRNAとは

アメリカでライセンスを持っている看護師のことを、Registered Nurse (RN)と呼びます。その中で、ある特定の分野を深く学びmaster’s degreeを取得した看護師のことを、Advanced Practice Registered Nurse (APRN)と呼びます。CRNAは、麻酔を専門としたAPRNの一種です。

どうやってCRNAになるのか

RNがAPRNになるためには、Master of Science Degree in Nursingを取得しなければなりません。プログラムによっては、ICUや救急外来での経験がなければプログラムそのものに申し込むことができないようです。

Accredited nurse anesthesia educational programは、通常2-4年必要となります。アメリカには100以上のCRNAのためのprogramが存在しますので、自分で大学とプログラムを選ぶ必要があります。

学校にかかる費用は様々ですが、public schoolの中央値が約$37,000、private schoolの中央値が$61,000程度。高額ですね〜。

そして、最後に国家試験(National Board of Certification and Recertification for Nursing Anesthetists)に合格することで、晴れてCRNAとして働けるようになります。

給料

CRNAの給料は、RNの中でも最高クラスです。職場や州によって異なりますが、アメリカのBureau of Labor Statisticsによると、2016年のCRNAの年収は$105,400から$242,000、平均で$157,000と発表されています。日本の多くの医師よりも多く稼いでいますね。学校にかかる費用は高額でしたが、その後稼げるであろう給料を考えると納得のいく投資だったんですね。

ちなみに、RNの平均年収が$72,180であることを考えると、如何にCRNAの給料が良いのかがわかります。

立場

CRNAの病院内での立場はどうでしょうか。

まず、レジデントよりは上ですね。ご存知の方もいるかと思いますが、アメリカのレジデントになることは非常に難しく、度重なる競争に勝ち抜いた者のみがアメリカのレジデントとなれます。日本と異なり希望の科に行くには成績が重要であり、麻酔科医の競争率はそれなりに高い科に分類されます。

しかし、臨床は現場であるので、現場で使える人間の方がデカい顔ができます。CRNAは、看護師といえども何年も麻酔ばかりをしているため、これから麻酔を勉強するレジデントよりは遥かに知識も技術も上です。

私が研究者として出入りしていた手術室でも、CRNAがレジデントに教えている光景を何度も目にしました。

仕事内容

基本的に、一人の患者にCRNAが一人つきます。麻酔はCRNAがメインで行い、麻酔科医は複数のCRNAを同時にコントロールする、supervisor的な役回りとなります。

若干マニアックになるので詳細は記述しませんが、CRNAには、日本では考えられない位様々な手技が許され、判断が任されています。挿管もできますし、薬剤投与も勝手に行っていました。

今後の需要

CRNAの需要は今後も増えると予想されています。RNの需要が2014年から2024年に16%増加すると見込まれているのに対し、CRNAは31%増加すると期待されています。麻酔科医は雇用コストが高いですし、CRNAに置き換えようとする組織が増えているようです。

日本での麻酔看護師

日本においても、CRNAならぬ「周麻酔期看護師」なる看護師を育成する働きが、各組織でみられます。麻酔科医が手術の律速段階であるのに対し、その絶対数の少なさから手術が制限されている赤字病院が数多く存在するため、現状を打破する有効策と考えられています。

一方で、そのような特定看護師による麻酔に対する、強い反対意見も存在します。近年の素晴らしい技術の発展・薬剤の安全性・モニターの開発により、麻酔は日々安全になっていますが、麻酔のミスは秒単位で人の死に直結します。そのような事象が起きた場合、看護師で麻酔科医と同等の対応ができるのか、万が一となった場合にその責任を看護師が負えるのか、という意見もあります。

結語

アメリカでのCRNAは、看護師をベースとし、金と労力をかけて取得できる、一歩上の役職です。努力しただけ、将来の見返りがあるアメリカだからこそ、発達してきたのかもしれません。

日本ではまだ議論の最中ですが、アメリカで直に見た印象や日本での現場を考えると、利点も多いシステムだと思います。今後日本でも一般的な職業になるかもしれません。

References

1. https://nurse.org/resources/nurse-anesthetist/

2. https://pdfs.semanticscholar.org/6cf5/d4e70731af5adcf995022977292d7f12e71b.pdf

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