アメリカ医療事情

少し変だよ(?)日本人

アメリカには、臨床医として働くことを夢みて、世界各国の医師が集まってきます。私も留学中、様々な外国人医師と出会う機会がありました。そんな彼らが、同じく臨床医としてアメリカで働く日本人医師の「ある行動」が理解できないようでした。それは、

アメリカに臨床留学にきた日本人の多くが、attending doctorになる前に日本へ帰国する

ことです。

アメリカにおける臨床医は、大きく分けて“Resident”、“Fellow”、”Attending”の3つのポジションに分けられます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

通常、多くの外国人医師はアメリカでまずはresidentとなり、最終的にはattending doctorとなることを夢見ています。なぜなら、attending doctorになって初めて、それまで投資したお金を回収でき、ワークライフバランスのとれた理想的な生活ができるからです。逆に言えば、attendingになるまでは忙しく貧乏な生活を送らなければなりません。

アメリカでresidentになるにはお金がかかる

ご存知の方も多いと思いますが、アメリカで臨床医として働くことは簡単なことではありません(←私はできてません)。特に、residentになるためには、激しい競争に勝ち抜かなければなりません。外国人医師にとってその門は年々狭くなっているだけでなく、多大な時間と労力を使い、お金を費やさなければなりません。USMLEの受験料や予備校、参考書だけでなく、residencyへの出願や採用試験・面接に関しても、高額の費用がかかります(←私は払いました)。ネイティブのアメリカ人でさえ、residentになるまでに数百万円の借金をしている人が少なくありません。

私がオハイオ州に研究留学していた頃、同じラボには世界各国の医師が在籍していました。そして彼らの多くは、アメリカでresidentになることを目標にしていました。

彼らIMG(International Medical Graduate)は、residentのapplicationとして100個程度のprogramに申し込んでおり、interviewを受けれるのはその内2〜3個だけでした。30〜80万円の申請費用がかかり、interviewの交通費や宿泊費も全て自費です。

Interviewを受けられても、その年に無事マッチできるとは限りません。アンマッチであれば毎年同様に費用がかかります。

アメリカでResidentになっても貧乏

やっとの思いでresidentとなっても、その給料は$50,000〜$64,000程度です。

※もちろん年々上がりますし、専門科によっても異なります(2017年は、Family medicineのresidentが最も低く、hematologyが最も高かったようです)。

「結構貰ってるじゃん」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこは物価の高いアメリカです。また、それまでの自分に投資してきた金額も考えなければなりません。アメリカのresidentの60%以上が、$100,000から$300,000の借金を抱えています。そしてなんと、resident期間中もこの借金は増え続けます。

アメリカのFellowもまだまだ貧乏

Subspecialtyを追求するのであれば、fellowになって更なるtrainingを積む必要があります。しかし、fellowといっても、residentと比べそこまで給料は変わりません。年々少しずつ増える程度です。

数百万円貰っていれば、貧乏ではないだろう、と思われる方、やはり多いのではないでしょうか。私もそう思っていました。しかし、例えば、カリフォルニアでは、年収$97,200(約1,000万円)以下は医療保険で政府から補助が出ます。すなわち、年収1,000万円は、補助が必要な「貧乏」に分類されるということなんですね(泣)。

アメリカのAttendingは超リッチ

そんな借金地獄のresidentやfellowと異なり、attendingになると給料は一気に跳ね上がります。2018年の報告を参考にしますと、形成外科や整形外科では$500,000程度、最も低いとされる家庭医であっても$200,000、平均で$299,000とされています。アメリカのresidentやfellow時代と比較しても、日本の指導医(勤務医)と比較しても、3〜7倍程度の給料になっています。

それまで投資した金額を回収できるだけなく、数倍になって返ってくるということですね。だから皆、頑張るんです。だから皆、アメリカに来るんです

このように、アメリカにおける臨床医としての人生は、ResidentからAttendingまで線となって繋がっており、Attendingクラスになって初めてこれまでの努力が報われるといっても過言ではありません。実際、日本人以外の外国人医師が臨床医として渡米する理由の第一に、金銭面が挙げられます。

私がオハイオ州に研究留学していた頃の同僚達の出身国は様々です。例えば、ベネズエラ、エルサルバドル、コロンビア、シリア、ウルグアイ、中国、インド、韓国、、、などなど。そして必ず

「お前の日本での給料はどのくらいなのか」

と質問してきました。彼らの多くは、母国での医師生活が(労働的にも給料的にも)苦しいといった理由で、渡米していました。要するに、彼らはアメリカでresidentとなり、将来attendingとなる「アメリカン・ドリーム」を夢みている訳です。

そのような社会的背景をもつ彼らにしてみれば、「なぜ世界中でもトップレベルの裕福さをもつ国と考えられている日本人が、わざわざアメリカに来るんだ?」ということなんでしょう。

日本人はattendingになる前に帰国する

もちろん、residentやfellowの後も現地に残って奮闘している日本人医師も沢山います。しかし、日本人以外の外国人医師と比べ、多くの日本人医師がresidentやfellowといった研修後に日本に帰国しています。

パートナーの仕事、子供の教育、親の年齢、日本食の魅力、医療を受ける側としての利点など、やはり日本での生活は魅力的な部分が数多くあります。留学当時には自分の目標のみを追い求めることができても、年や状況と共にそれが許されなくなってきます。

しかし、母国での生活が苦しくてアメリカに来ている人たちは、当たり前ですがresidentやfellowが終わってもアメリカに残ります。むしろ、そこで帰ってしまっては、それまで投資してきた多額のお金が無駄になることを意味しています。私が出会った外国人医師達は、やっとこれから、という時に帰国してしまう日本人が理解できないようでした。

おわりに

留学を目指す多くの日本人医師が、「医師としての高みを目指して」海外を経験しようとしています。(そして当時の若い頃は)そこに金銭的な評価基準を持ち合わせない人も数多くいます。ある意味、医師として「高尚な」志望動機をもち、ある意味「ボンボン」な国・家庭で育った日本人ならではの、「ここが変」な点を述べました。

ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。 現在は日本で麻酔・集中治療医として働く一方、マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関わっています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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  1. […] アメリカで働けるようになるまでは給料はありません。運良くフェローになったとしても、給料はたかが知れています。子もいる状況で、妻のキャリアを犠牲にし、私の夢だけを求めて何年もアメリカに居座る勇気も決意もなかったんですね。 […]

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