臨床留学とフェロー

臨床留学を考える際、何となく「フェロー(fellow)」というポジションを思い描いている人も多いのではないでしょうか。「レジデント(resident)」や「レジストラ(registrar)」との違いについては、記事「米国臨床医の階級」や「豪州医師のトレーニング」を参照していただくとして、今回はこの「フェロー」というポジションについてより深く解説していきたいと思います。

目次

基本的概念

「フェロー」とは、そもそもどのように定義されているのでしょうか。Wikipediaには、以下のように書かれています。

“A fellow is a member of an academy/learned society or a group of learned subjects (a fellowship) that works together in pursuing mutual knowledge or practice.”

すなわち、フェローとは何らかの領域について知識を深め実践するための組織や団体の一員、ということができます。

医師の世界であっても、この学ぶべき「領域」には様々なsubjectが含まれますので、例えば、研究について集中的に学ぶためのポジションは、「リサーチフェロー(research fellow)」と呼ばれますし、臨床医としての知識や技術を深めるためのポジションは、「メディカルフェロー(medical fellow)」「クリニカルフェロー(clinical fellow)」と呼ばれます。

今回は、この臨床医としてのフェローがテーマですが、実はこのポジション、国や施設によってその中身は大きく異なります。以下、その例をパターン別にご紹介したいと思います。

パターン①:サブスペシャルティを追求するフェロー

医師としての何かしらの専門性を持ち「専門医」と呼ばれるようになるためには、そのトレーニングを受けなければなりません。例えば、呼吸器内科、救急科、整形外科、循環器内科、耳鼻科、麻酔科、、、というような、比較的大きな分類での専門性を目指すことになります。このような専門医としての最初のトレーニングを受ける医師達は、アメリカでは「レジデント」、オーストラリアでは「レジストラ」と呼ばれ、3年〜10年程度費やします(記事「米国臨床医の階級」や「豪州医師のトレーニング」参照)。

しかし、この専門医としてのトレーニング中は、確かに何らかの領域について学ぶための組織の一員ではありますが、通常「フェロー」とは呼びません。そして、無事にこの専門医としてのトレーニングを修了した上で、サブスペシャルティを追求する人たちのことを、「フェロー」と呼び、これが最も一般的で標準的なフェローの形態(→パターン①)となります。

一般的には上記の表のように考えて頂いて構いませんが、特に日本ではこの目安がかなり曖昧になっています。

例えば、初期研修修了後に専門医トレーニングを開始した医師が、そのままその病院の「スタッフ」になってしまう市中病院もありますし、大学病院であっても卒後3年目から「医員」になる施設もあります。

専門医を取得した上でのサブスペシャルティとは、どのようなものがあるのでしょうか。例えば麻酔科領域で言いますと、心臓麻酔、産科麻酔、移植麻酔、小児麻酔、区域麻酔といったものが該当し、そのようなより専門性の高い麻酔を学びたい人たちが「フェローシッププログラム(fellowship program)」に進み、フェローとなります。

期間は施設によって様々で、1年間という短期間のプログラムも存在します。また、フェローを行うことが必須でない国や施設も存在しますので、その場合にはトレーニングを修了し専門医を取得した時点で、(フェローを経験せずとも)指導医である「アテンディング(米国式呼称)」や「コンサルタント(豪州式呼称)」としての応募・勤務が可能となります。

パターン②:若手としてのフェロー

前述のように、基本的にはフェローとは専門医のためのトレーニングは修了していなければなりませんが、施設によっては専門医取得にフェローというポジションを与える場合があります。

フェローというポジション名であるため、施設内の「レジデント」「レジストラ」と呼ばれる医師たちよりは上のポジションではあり、医師としてのレベルも彼らよりは上です。しかし、専門医取得前ですし、パターン①のフェローと比較すると、医師としてのキャリヤやその知識や技術は劣ります。

例えば、私が勤務しているRoyal Children’s Hospital (RCH)の麻酔科はこのパターンを採用しており、20人近い医師が麻酔専門医を取得するために(専門医ではないにも関わらず)「フェロー」というポジションでトレーニングを受けています。

パターン③:外国人のためのフェロー

次にご紹介するのは、外国籍の医師のためのポジションであるフェローについてです。

アメリカにしてもカナダにしてもオーストラリアにしても、数多くの外国人医師が臨床医として働いています。その中には外国で医学教育や専門医教育を経た後にそれぞれの国へ留学し、臨床医としてのポジションを得て働いている外国籍医師も数多くいます。そのような人たちに最初に与えられるポジションが「フェロー」である、というパターンが存在します。

一般的にどの国でも、医学教育や専門医トレーニングを提供する組織に採用されるためには、厳しい審査と競争を勝ち抜かなければなりません。そして、多くの場合は国内の正規のルートにいるネイティブが勝ち抜くことになりますので、医学部(←医学教育)やレジデント・レジストラ(←専門医トレーニング)といったポジションを外国人が獲得することは比較的難しいとされています。

一方で、フェローに関してはその限りではありません。医学部やレジデント・レジストラのように厳しい受験資格がある訳でもなく、国や施設によっては比較的簡単にフェローとしてのポジションを得ることができます。と言いますのも、既に専門医としてのトレーニングを修了した外国の専門医は安月給の割に即戦力になるため、施設にとってhappyですし、留学したい外国人医師との間にwin-winの関係が成り立つからです。

しかし、このような「競争を勝ち抜いてきていない」背景のためか、フェローよりもポジションとしては格下であるはずのレジデントやレジストラよりも、フェローの立場や給料が低いといった施設も存在します。また、同じフェローであっても、正規のルートで勝ち抜いてきたレジデントやレジストラ上がりのフェローと、外国から中途で飛び込んできたフェローの間に「差別」がある場合もあります。

パターン④:選抜されたフェロー

最後にご紹介するのは、選抜された役職としてのフェローです。ここでは、「フェローというポジションはサブスペシャルティを学ぶ」という一般的な概念からは外れることになります。

このような特殊な形態のフェローというポジションを設けている施設・部門では、そもそも「レジデント」「レジストラ」の概念が変わってきます。例えば専門医のためのトレーニング中の医師だけでなく専門医取得後の医師も「レジストラ」としてまとめ、その中で「ジュニアレジストラ」「シニアレジストラ」といった格付けを行います。そして、レジストラ全体の中から数人がフェローとして選抜される、というものです。

専門医取得後に選抜されるポジションであるフェローに求められることは、何かしらのサブスペシャルティを学ぶことではなく、レジストラの教育やリーダーシップ、マネージメントといった指導医として必要なスキルを学ぶことが主な目的となります。

例えば、Royal Children’s Hospital (RCH)のPICU部門では、国内の専門医試験直前のレジストラと海外の専門医・指導医を集めて「レジストラ」を構成しています。そして、このような「シニア」な医師の中から選抜されるのがフェローということになります(下図参照)。

まとめ

このように、一言で「フェロー」といっても、海外では国や施設によって、そのポジションや仕事内容、待遇などに大きな違いがあります。臨床留学に興味のある方や海外のフェローというポジションを狙っている人は、このような事実を知っておいても損はないでしょう。

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • […] 海外でも評価されている日本の専門医資格を持つことにより、海外でのポジションを得やすいことは大きなメリットの一つです。多少英語が下手であっても、日本人のキャラクターや仕事に対するポジティブな姿勢に加え、専門医資格があればそれなりの即戦力が期待できます。そのため、トレーニーである「レジデント(←米国式)」や「レジストラ(←豪州式)」だけでなく、サブスペシャリティを学ぶ「フェロー」といったポジションであっても、専門医資格があればポジション獲得にプラスに働く可能性があります。 […]

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