米国臨床医の階級

アメリカで活躍している医師と会話をする際、その臨床医としての階級(ポジション)を理解することは、会話をスムーズにする上でとても重要です。そこで今回は、そのアメリカの臨床医の階級を、日本のそれと比較しながら解説したいと思います。

目次

3つの階級に大別

アメリカにおける臨床医は、大きく分けて

Attending

Fellow

Resident

の3つのポジションに分けられます。

日本の大学病院では、スタッフ(教授や助教など)医員レジデントの3つに大別されますので、基本的にはattendingがスタッフ、fellowが医員、residentがレジデントというように考えてもらっても良いかと思います。ただし、それぞれに微妙な違いもあるので注意しましょう。

Resident

Residentとは、専門分野の教育を受ける医師が最初に属するポジションです。アメリカの医学部を卒業し医師国家試験に合格すれば、residentとして初めから専門分野の研修を始めます。科やプログラムにもよりますが、3〜7年間のresident期間があります。Residencyを修了すると、その科を専門にしている医師であると言っても良いことになります。

よく間違われるのですが、residentは、日本の研修医とは違います。研修医のことをresidentと訳している和英辞書もありますが、中身を考えるとその英訳は間違っています。

日本では、医学部を卒業し医師国家試験に合格すると研修医になりますが、2年間の研修期間中は複数の科を数ヶ月ごとにローテートします。そして臨床研修修了後に自分の専門分野を決め、卒後3年目から専門分野の研修を始めます。すなわち、研修医はアメリカでのresident未満であり、卒後3年目からがアメリカにおけるresidentに相当します。日本の大学の中には、専門性を決めた卒後3年目以降の医師を「レジデント」として教育するところもあり、彼らがアメリカのresidentに対応します。

ただし、日本では、市中病院ですと初期研修修了後、そのままその病院の「スタッフ」になってしまうこともありますし、大学病院であっても卒後3年目から「医員」になる施設もあります。もちろん、重要なのは呼び方ではなく中身でしょうが、システムとしての医学教育が遅れ、医師数が不足していた日本では、医師としての資格を持つと同時に、(教育される立場をすっ飛ばして)戦力としても責任としても一医師として頼られ数えられてきました。日本では、システムとして専門教育を受ける立場である「レジデント」という概念自体、比較的新しいものなんですね。

ちなみに、アメリカでは(日本の研修医のような)複数の科のローテーションは、「Intern」として医学生時代に終わらせてしまっています。

では、日本の研修医はどのように訳せばよいのでしょうか。上述のように研修医をResidentと訳すと誤解が生じるため、アメリカ人と会話する際や米国の書類作成する際、研修医をJunior resident卒後3年目以降のレジデントをSenior residentというように訳すこともあります。

Fellow

アメリカでresidencyを修了すると、一応はその科のspecialistというように考えられます。そして、臨床医として次のステップを学ぶ医師が、fellowと呼ばれます。Residentがその科の一般的な事を広く浅く学ぶのに対し、fellowはその科の中でもより特殊な領域に踏み込んでいきます。いわゆる、”subspecialty”というやつですね。

麻酔科領域ですと、residentが麻酔全般を学ぶのに対し、fellowであれば心臓麻酔、産科麻酔、移植麻酔、小児麻酔、ペインクリニック、集中治療などのサブスペシャルが存在します。臨床医として何かの領域をもっと極めたい人が、fellowship programに進みます。

私が勤務する大学でも、レジデントは初期研修医が終了し麻酔科で初めて学ぶ医師のためのポジションであるのに対し、医員は小児心臓や移植、集中治療やペインといったサブスペシャルを学ぶ医師のためのポジションです。ここでは基本的には麻酔専門医でなければ医員になれないため、そういった意味ではアメリカのfellowが日本の医員、アメリカのresidentが日本のレジデント、(アメリカのinternが日本の初期研修医)という対応は間違っていないと思います。

 

Attending

いわゆる、「指導医」的な存在です。日本の大学のスタッフ(教授、准教授、講師、助教)が、アメリカにおけるattendingに対応すると思います。学ぶ立場というよりは、責任を持って病院を管理し若手を指導する立場にあります。また、アメリカのattendingの給料は、residentやfellowとは一線を画します。どのくらい違うのか、それはまた別の記事にしたいと思います。

アメリカにおけるAttendingは、地位も給料も名声も他のポジションとは異なりとても高く、世界各国からこのAttendingを目指して医師が集まります。

 

まとめ

今回は、アメリカの臨床医におけるピラミッドについて、日本と比較しながら解説しました。学会などで海外の医師と会話する際、このような基本的な違いを理解しておくと役に立つと思います。

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コメント

コメント一覧 (5件)

  • […] オーストラリアの医師はまず、インターンを行います。アメリカではインターンを卒業前に終わらせています(詳細は「米国臨床医の階級」参照)が、オーストラリアではインターンを医学部卒業後、すなわち医師免許取得後に行います。 […]

  • […] 例えば、アメリカでは医師としてのスタート地点であるレジデント(「米国臨床医の階級」参照)からやり直さなければならないことが多く(※フェローから開始することも可能は可能のようですが、以前よりもその募集プログラムは少なくなってきています)、留学を目指す人の年齢も比較的若いです。また、アメリカで臨床行為をするためにはECFMG(USMLE Step 1, Step 2CK, and Step 2 CS)を取得していなければなりません。そのため、最も多いのは、学生や初期研修の頃からこれらの試験勉強に励み、日本で初期研修を修了後(または数年間の準備期間の後に)渡米するケースではないでしょうか。 […]

  • […] 臨床留学を考える際、何となく「フェロー(fellow)」というポジションを思い描いている人も多いのではないでしょうか。「レジデント(resident)」や「レジストラ(registrar)」との違いについては、記事「米国臨床医の階級」や「豪州医師のトレーニング」を参照していただくとして、今回はこの「フェロー」というポジションについてより深く解説していきたいと思います。 […]

  • […] 海外でも評価されている日本の専門医資格を持つことにより、海外でのポジションを得やすいことは大きなメリットの一つです。多少英語が下手であっても、日本人のキャラクターや仕事に対するポジティブな姿勢に加え、専門医資格があればそれなりの即戦力が期待できます。そのため、トレーニーである「レジデント(←米国式)」や「レジストラ(←豪州式)」だけでなく、サブスペシャリティを学ぶ「フェロー」といったポジションであっても、専門医資格があればポジション獲得にプラスに働く可能性があります。 […]

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