Brugada症候群と管理

以下、Brugada症候群(Brugada syndrome: BrS)の集中治療室での管理について、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。

目次

遺伝性

これまで様々な遺伝子変異(少なくとも23の遺伝子、300以上の変異型)が原因として見つかっている2)。多くは常染色体優性遺伝であるが、BrS 6はX染色体のKCNE5遺伝子変異が原因となる。多くは家族歴があり、新規発生は1%程度と考えられている2)

最も一般的な型は、SCN5A(Sodium voltage-gated channel alpha subunit 5)遺伝子の変異である2)。この遺伝子は心筋ナトリウムチャネルをコードする遺伝子であり、心筋細胞の活動電位phase 0におけるナトリウム流入に関与する2)

機序

遺伝子変異により、心筋や心外膜のナトリウム・カリウム・カルシウムチャネルに影響を与え、ナトリウムやカルシウムの細胞内流入低下またはカリウムの細胞外流出増加を引き起こす2)

心電図

典型的には、2つのタイプのV1とV2(とV3)のST上昇が存在する2)

Type 1: Coved pattern(上向きに凸のST上昇)

右脚ブロックのQRS(明らかなr’なし)の後、上に凸のST上昇。高いSTの始まり(take-off)>= 2mm。その後のSTの高さは徐々に下降し、陰性T波へ。

Type 2: Saddle-back pattern(下向きに凸のST上昇)

高いr’(take-off)>= 2mmgと、一旦低下してからのST上昇。

同じ患者であっても「type1 ↔︎ type2 ↔︎ 正常」と変化するので注意が必要である。

管理

危険因子の除去

心室性不整脈の危険因子を取り除く。すなわち、解熱剤や冷却によって発熱をコントロールし、電解質(カリウム、カルシウム、マグネシウム)異常を補正し、Burugada症候群と関連のある薬剤は避ける。避けた方が良い薬剤に関しては、頻繁にアップデートされるこちらのサイトが世界的に有名である。例を挙げると

避けるべき薬剤

避けた方が良い薬剤

  • Class I: Evidence and/or general agreement.
  • Class IIa: Conflicting evidence and/or divergence of opinion with favor of potentially arrhythmic effect.
  • Class IIb: Conflicting evidence and/or divergence of opinion with less established potentially arrhythmic effect.
  • Class IIIa: No or very little evidence and/or general agreement.

β刺激薬とキニジン

Isoproterenol/isoprenalineといったβ刺激薬が、一般的なBrugada症候群の治療に用いられる。

ここで注意したいのが、SCN5A遺伝子変異を持つ患者である。この遺伝子変異は、上記の通りBrugada症候群に最も多い遺伝子変異であると同時に、伝導異常(cardiac conduction diease)や家族性心房細動、洞不全症候群といった不整脈疾患を引き起こす遺伝子変異でもある3)。そして、特に小児では、頻脈によってQRS幅が広がる”use-dependent”な伝導異常を引き起こすことが多いと報告されている4,5)。この場合、発熱やβ刺激薬、頻脈によって、心室性不整脈が止まらない”electric storms”が引き起こされる。このような患者では、β刺激薬ではなく、心拍数を抑えるためにβ遮断薬を使用(± ペーシング)すべきである3)

キニジンも、Brugada症候群に対して有効性が期待されている。目標血中濃度は1-3μg/mL (3.5-11μmol/L)3)

心血管作動薬

Brugada症候群では、一般的にはα刺激薬とβ遮断薬が心電図変化を悪化させるとされている6)。一方で、前述のように小児ではconduction disorderが存在することが多いため、心拍数を上昇させるβ刺激薬は逆効果となる。個々によって反応が異なる可能性があるが、一般的には以下のようにまとめられる。

麻酔薬

Propofolの持続投与やneostigmineによるリバースは避けた方がよいかもしれない2)。吸入麻酔薬、麻薬、筋弛緩薬などは「注意して使用」とされている2)。Brugada症候群の麻酔に関しては、Kloeselらの論文が有用である。

Brugada症候群と麻酔に関連する殆どの文献や推奨は、症例報告に基づいたものであり、エビデンスレベルが高いとは言えない。例えば、先に紹介した有名なサイトで”Class IIa”で「使用は避けるべき」とされているpropofolでさえ、多くの症例報告で問題なく使用されている6)

体外循環補助装置

患者によっては、心電図変化から心室性不整脈や心停止となり、遺伝子異常よりペーシングも満足にできない(閾値が高い)ことがある。体外循環補助装置のスタンバイや、緊急時のカニュレーション部位の確認をしておく。

埋め込み型除細動器

心室性不整脈の既往があるBrugada症候群では、埋め込み型除細動器(Implantable cardioverter-defibrillators: ICDs)が装着されていることが多い。手術時にはICDの機能を停止させ、除細動パッチを装着する。

 

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Bissonnette et al. Syndromes: Rapid Recognition and PerioperativeImplications, 2ndedition
  3. https://www.brugadadrugs.org
  4. Chockalingamet al. Pediatrics. 2011 Jan;127(1):e239-44.
  5. Chockalingamet al. Heart Rhythm. 2012 Dex;9(12):1986-92.
  6. Kloeselet al. Can J Anaesth. 2011 Sep;58(9):824-36.
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