左側房室弁閉鎖不全と病態
房室中隔欠損症(Atrioventricular septal defect: AVSD)修復術の周術期生存率は改善しているが、術後の左側房室弁閉鎖不全(left-sided atrioventricular valve regurgitation: LAVVR)は現代でも解決されておらず、時間経過とともに悪化する1)。
術後左側房室弁閉鎖不全の危険因子としては、術前の左側房室弁閉鎖不全、裂隙(cleft)の残存、左側房室弁の重度異形成が挙げられる2,3)。
通常の僧帽弁閉鎖不全症4)と同様、左側房室弁閉鎖不全は徐々に左室拡大と左室収縮力低下を引き起こし、最終的には心不全に至る。左房圧の上昇は肺高血圧症を引き起こす。ただし、僧帽弁閉鎖不全症とは、弁輪や乳頭筋、左室流出路の形態に違いがあり、基本的に術後でもあることから、左室流出路狭窄や不整脈が問題となることがある5) 。また、残存ASDやVSDが存在する場合、左右シャントによる肺血流量増加も肺高血圧症に寄与する。
方針
手術
左側房室弁閉鎖不全はAVSD修復術後再手術の最も多い原因であり、8-19%と報告されている6)。手術は、左房室弁の弁形成術または弁置換術が施行される。弁形成術の術式は、結節縫合による裂隙閉鎖、弁輪縫縮術、edge-to-edge法によるdouble-orificeの作成7)、zone of appositionの接合と両側交連部の縫縮7)、自己心膜パッチによる弁尖拡大8)など、多岐にわたる(図)。
基本的に弁形成術が優先されるが、重度の逆流がある場合や形成が難しい場合は弁置換術が施行される。小児の弁置換術の成績は未だ改善の余地があり9,10)、伝導系の損傷による完全房室ブロックや左室流出路狭窄といった合併症がしばしば問題となる3,6,11)。
適応
AVSDの初回修復術時の逆流は、時間経過とともに改善する症例が存在する2)。また、体格や抗凝固の問題などから、重度な症状が出現するまでは若年での手術は避けられる傾向にある。しかし、手術時期が遅く非代償期に至った患者では、手術による症状や心室サイズの改善が認められないことがある2)。手術適応は僧帽弁閉鎖不全4)を参考にすることができる5)。
術前評価
心臓超音波検査では、以下の項目を評価する。
- 房室弁の形態と房室弁逆流の部位、重症度
- 左室拡張末期容量や収縮機能:左心機能を推定するために重要
- 残存ASDやVSD:部位やシャント方向について評価する
- 三尖弁逆流:逆流圧較差により肺動脈圧を推定
- 大動脈弁下狭窄の有無や重症度:房室弁接合異常や初回手術の影響により大動脈弁下狭窄が進行することがあり12)
- 房室弁狭窄症:初回手術の合併症の一つ
麻酔管理
その他の成人先天性心疾患における再手術と同様、癒着による出血の危険が高く、太い静脈路と輸血の準備が肝要である。麻酔管理は、一般的な僧帽弁閉鎖不全に準じる。すなわち、逆流を増悪させるような後負荷上昇や徐脈、過度な輸液は避ける。ただし、合併症として左側房室弁狭窄症や左室流出路狭窄、残存ASDやVSDがあれば、それぞれに対する管理とのバランスとなる。経食道心エコーを用いて、房室弁の形態や逆流部位、その他残存病変をもう一度評価する。
人工心肺離脱後は、術前の左室機能低下に人工心肺の影響が加わり、低心拍出量症候群を呈することがある。術前肺高血圧症を合併した症例では、術後も肺高血圧症が残存することがある。肺動脈カテーテルを挿入しない症例であっても、経食道心エコーにより三尖弁逆流圧較差を測定し、必要があれば術野で肺動脈圧や右室圧を直接測定する。出血や血行動態の変化、不整脈に注意し、十分な麻酔深度を保つことが肝要である。
References
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