クリオプレシピテートとフィブリノゲン製剤

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クリオプレシピテート

新鮮凍結血漿(FFP)をゆっくり融解すると、沈殿物が析出する。この沈殿物がクリオプレシピテートであり、vWF因子やフィブリノゲン、凝固第VIII因子およびXIII因子といった、分子量が大きな血漿蛋白が含まれる。また、全てが濃縮されるわけではなく、回収率は40-60%程度である。日本では、2020年の診療報酬改訂で同種クリオプレシピテート作製術が承認された。

希釈性凝固障害・止血困難の本態は低フィブリノゲン血症であり、大量出血時には血液凝固因子を速やかに止血可能域の濃度まで上昇させることが重要。その点、クリオプレシピテートやフィブリノゲン製剤は非常に有用である。FFPにもフィブリノゲンが含まれるが、凝固因子補充のためには大量投与が必要であり、FFPはNa濃度が高いことや輸血関連循環過負荷(Transfusion associated circulatory overload: TACO)といった危険がある。

表. クリオプレシピテートとフィブリノゲン製剤の比較

クリオプレシピテートフィブリノゲン製剤
凝固系因子フィブリノゲン、vWF、凝固第VIII因子、XIII因子フィブリノゲン
フィブリノゲン量FFP由来のクリオプレシピテートでは、含まれるフィブリノゲン量が製剤バッグ毎に異なり一定しない。
約0.6-0.7g/4単位(下記参照)
1g / 瓶
ABO血液型物質VIII因子、VWFなどはABO血液型物質をもっている※1ABO血液型物質なし
ウイルス不活化処理FFP製剤と同様、ウイルス不活化処理がされていない。ウイルス不活化処理がされている。
調製時間と設備クリオプレシピテートの調製には2日間を要し、大型冷却遠心機などの設備も必要。常備されていれば使用が可能であるが、溶液に溶かし使用可能となるまでに時間がかかる。
保険適応作製に伴う技術料の請求可先天性低フィブリノゲン血症のみであったが、2021年に産科領域の後天性低フィブリノゲン血症に適応拡大。

※1. ABO異型製剤を使用した場合、抗A抗B抗体価が上昇するため、FFPと同様、ABO同型の使用が望ましい。しかし、調製に時間を要し、緊急性を考慮すると、使用頻度の少ない施設ではAB型のみで調製することもある。

フィブリノゲン含有量

クリオプレシピテート製剤の単位数はFFPの相当単位数とする。すなわち、クリオプレシピテート製剤5単位は、FFP5単位を濃縮したものである。

クリオプレシピテート製剤に含まれるフィブリノゲンは、施設によって大きく異なる。米国赤十字ではfibrinogen >=150 mg/unitとされるが、施設や報告によっては130-796 mg/unitと大きな幅がある1)。海外のcryoprecipitateは、多くは複数のドナーに由来し一つのバッグに”pool”された製剤も多い。例えば、5単位の別々のFFPから調製されたcryoを”5-unit pooled cryo”と呼ぶ。

日本では、1本のFFP4単位製剤(FFP LR-480)から調製されることもあり、この場合はpoolではない4単位製剤、2本のFFP2単位製剤(FFP LR-240)から調製されるとpoolされた4単位製剤である。クリオプレシピテート4単位製剤(約50-60ml)には約0.6-0.7gのフィブリノゲンが含まれているとされるが、バラツキがある。

計算式とクリオプレシピテート投与量

計算式

フィブリノゲン投与による血中フィブリノゲン量の増加量は、以下のように計算できる。

フィブリノゲン予想増加量1)

Fibrinogen increment (mg/dl) = Administered fibrinogen (mg) * 100 / Plasma volume (ml)
Plasma volume = Blood volume * (1-Ht)

症例① 60kg, Fibrinogen 3000mg administered

Plasma volume = 60 (kg) * 70 (ml/kg) * (1-0.3) = 2940 ml
⇒ Increment of fibrinogen = 3000(mg) * 100 / 2940(ml) = 102 mg/dl

症例② 10kg, Fibrinogen 500mg administered

10(kg) * 75 (ml/kg) * (1-0.3) = 525 ml
⇒ Increment of fibrinogen = 500 (mg) * 100 / 525 (ml) = 95 mg/dl

投与量

クリオプレシピテートの推奨量は、国や施設によって異なる1)

  • FDA:0.2 units/kg(60kgで12units)で血中フィブリノゲン〜50-100mg/dl上昇
  • British Society of Hematology: 〜10 unitsで血中フィブリノゲン〜100mg上昇
  • European Trauma Guidelines: 3-4 g or 50 mg/kg投与
  • American Association of Blood Banks: 投与量は計算式により算出(1バッグあたり250mg)

年齢によって血漿量が異なるため一概には言えないが、フィブリノゲン 50mg/kgで血中フィブリノゲンは約100mg/dl上昇する計算になる。これは、FFP-LR 4単位から調製した60mlのクリオプレシピテートがフィブリノゲン 0.6g含んでいるとすると、5ml/kgのクリオプレシピテートを意味する。成人では、3(-4)パック(12-16単位)のクリオプレシピテート(フィブリノゲン 2-3g)で100mg/dlの上昇が期待できる。

 

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References

  1. Nascimento B, et al. Br J Anaesth. 2014 Dec;113(6):922-34. PMID: 24972790.
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