総論
Pharmacokinetics and pharmacodynamics
局所麻酔薬はアミド型とエステル型に分類される。アミド型では、bupivacaine, ropivacaine, levobupivacaineが多く用いられる。Ropivacaineの力価はbupivacaineやlevobupivcacaine他と比べてやや低く、効果持続時間はほぼ同じである1,2)。
アミド型がエステル型と大きく異なる点の一つに、蛋白結合性(95%)が挙げられる。遊離型の局所麻酔薬がクリアランスと毒性に関与する。局所麻酔薬は血中のα-1 acid glycoprotein (AAG)と結合するが、その濃度は1歳未満では低く、新生児では成人の20-40%である。そのため小児では遊離型の割合が高くなる。ちなみに、局所麻酔薬のアルブミンへの親和性は低く、アルブミン濃度は臨床的に関係ない2)。
アミド型の局所麻酔薬は、肝のcytochrome P450によって代謝される。この酵素活性は出生時0-10%程度しかなく、生後1ヶ月で30-40%、1歳を過ぎると成人レベルに近づく2)。例えば、ropivacaineの半減期は、新生児で13時間であるが、1歳では3時間である2)。一方で、成人と同様、neuraxial blockやperipheral nerve blockの単回投与後、30分程度で血中濃度はピークを迎える3,4)(すなわち、投与後30分はモニタリングが必要)が、小児では局所麻酔薬の分布容積は大きく、単回投与後の最高血中濃度は低い。また、持続投与でも24時間後には安定した濃度となり、48-72時間は使用可能である5)。
エステル型の局所麻酔薬は、血漿の偽コリンエステラーゼによって代謝される。通常、作用発現は早く(3-5min)、半減期は短い。代謝は素早く、成人と新生児で臨床的な違いはない2)。
Development and anatomy
髄鞘形成は1-2ヶ月頃までは不完全であり、局所麻酔薬が神経線維に到達しやすい。そのため、薄い濃度(%; mg/ml)の低容量(ml/kg)であっても効果が出やすい2)。また、神経周囲の筋膜組織が粗であり、局所麻酔薬が広がりやすく、ブロックが広がりやすい。一方、広がりやすいため、ブロックの作用時間は短くなる。
用量と容量
薬剤・用量
超音波ガイド下の薬剤投与量(volume and dose)は(ランドマーク方より)少なくて良い。超音波を使用した場合、以下が推奨される。
- 上肢のperipheral nerve blocksの場合、ropivacaine/levobupivacaine/bupivacaine 0.5-1.5mg/kgを推奨する1)。
- 下肢のperipheral nerve blocksの場合、ropivacaine/bupivacaine 0.5-1.5mg/kgを推奨する1)。
- Fascial plane blocksの場合、ropivacaine/bupivacaine 0.25-0.75mg/kgを推奨する。
- 持続のperiopheral/facial plane blocksは、0.2% ropivacaine/bupivacaineを0.1-0.3mg/kg/hとする1)。
- 容量としては、神経や神経叢周囲を直接ブロックする場合には0.1-0.2ml/kgで十分なことが多い2,6)。
最大投与量
Evidenceではなくexpert opinionにはなるが、最大投与量は以下の通り7,8)。
Single injection (mg/kg) | Continuous infusion (mg/kg/h) | Comments | |
Bupivacaine | 2.5 | 0.25 | |
Ropivacaine | 3-4 | 0.4 | 6ヶ月未満は0.2mg/kg/h |
Lidocaine | 7 | 2 (?) | |
Levobupivacaine | 2.5 |
Summary
一つの目安としては8)、
Maximum dose
・0.2% (2mg/ml) ropivacaine 1.5ml/kg
・0.25% (2.5mg/ml) levobupivacaine/bupivacaine 1ml/kg
Peripheral nerve blocks
・0.2% ropivacaine 0.2-0.5ml/kg
・0.25% levobupivacaine/bupivacaine 0.2-0.5ml/kg
Fascial plane blocks
・0.2% ropivacaine 0.2-0.5ml/kg per side
・0.25% levobupivacaine/bupivacaine 0.2-0.5ml/kg per side
合併症
局所麻酔薬中毒(Local anesthetic systemic toxicity)
危険因子
遊離型の局所麻酔薬濃度が高くなると、中枢神経系と心血管系のナトリウムチャネルを遮断することで、局所麻酔薬中毒(local anesthetic systemic toxicity: LAST)を引き起こす2)。すなわち、症状としては、神経毒性(neurotoxicity)や心毒性(cardiotoxicity)として表出する6)。前述のように、小児では局所麻酔薬中毒を引き起こしやすい側面と引き起こしにくい側面が存在するが、これまでの報告では新生児や乳児の発生率の方が成人より高い9,10)。
短時間作用型のアミド型局所麻酔薬(ex. Carbocaine, lidocaine)は、長時間作用型と比較し、 局麻中毒を起こしにくい11)。長時間作用型の中では、心毒性の観点から、bupivacaineよりもropivacaineとlevobupivacaineの方が良い2,11)。Bupivacaineを使用する際には、濃度を薄めて使う施設が多い6)。
肋間神経ブロックは最も再吸収されやすく、局所麻酔薬中毒の危険が最も高い1)。
Management
- 100%酸素で換気。低酸素、高二酸化炭素、アシドーシスは局麻中毒を起こしやすい11)。しかし、過度な呼吸性アルカローシスは循環抑制からの回復を遅らせる可能性がある(Mochizuki 2008, 19050087)ため過換気は禁。
- 痙攣に対してはベンゾジアゼピン(ex. midazolam)が第一選択11)。Propofolも使用できるが、循環抑制に注意を要する。Thiopentoneも選択肢11)。
- 循環停止に対しては、心臓マッサージとアドレナリン1mcg/kg(蘇生量の1/10)を投与。アドレナリンは肺のガス交換を阻害する可能性があるため(Wang 2017, 28059870)、アドレナリンは少量から投与する。
- 20% Intralipid (20% イントラリポス®︎)1.5ml/kgを2-3分で投与し、0.25ml/kg/minで持続投与開始。循環に改善なければ1.5ml/kgを3-5min毎に3ml/kgまで追加投与可。持続投与も0.5ml/kg/minに増量。脂肪の蓄積は換気血流不均衡や傾眠、乳酸アシドーシス、高トリグリセリド血症を引き起こすため、最初の30分の最大投与量は10-12ml/kgまで11)。
- バソプレシン、カルシウム拮抗薬、β遮断薬は使用しない11)。
- 改善しなければECMOを考慮。
Compartment syndrome
区域麻酔がcompartment syndromeのリスクやその発見を遅らせるというエビデンスはない11)。ただし、その危険を減らすためには、以下を推奨する11)。
- Peripheral nerve blockもneuraxial blockも0.1-0.25%の単回投与とする(虚血による疼痛や筋力低下を避ける)11)。
- 持続投与とする場合は、0.1%までとする11)。
- Compartment手術では、容量と濃度を制限する11)。
References
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