小児肝移植の術前評価

目次

適応

小児に対する肝移植の主な適応は、胆汁うっ滞性肝障害(ex. 胆道閉鎖症、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、Alagille症候群)代謝性疾患(ex. 尿素サイクル異常症、Wilson病)、急性肝不全、原発性肝腫瘍(ex. 肝芽腫、肝細胞癌)である1)

=胆道閉鎖症=
小児の肝移植では胆道閉鎖症が最も多い。早期(生後0-120日以内)に診断され葛西手術(Kasai poroenterostomy)が行われても、その後に肝障害が進行する患者がいる。胆道閉鎖症の葛西術後の自己肝による生存率は、2年で42%、4-5年で23-45%、10年で15-40%、15年で29%、20年で13%である2)。術後3ヶ月以内に胆汁の流出や黄疸の改善がなければ(early failed Kasai poroenterostomy)、早期に外科にコンサルタントされ、生後6-9ヶ月で肝移植が施行される2)。また、胆道閉鎖症が早期に診断されずにそのまま肝移植が施行される症例や、門脈圧亢進症や肝肺症候群や胆管炎の合併症例など、症例は多岐にわたる2)

Organ Procurement and Transplantation Network (OPTN)/Scientific Registry of Transplantation Recipients (SRTR)からの2022年の報告によると、米国では小児の肝移植の9割程度が脳死移植である3)。一方、Japanese Liver Transplantation Society (JLTS)からの2021年の報告では、日本では生体肝移植が97%以上を占める4)

基準と優先度

緊急性

前述のように日本では脳死移植が少ないため、脳死移植には厳格な適応基準が設けられている。緊急に肝移植が必要となる急性肝不全や代謝異常症を対象とするI群と、慢性疾患の進行による肝不全や肝細胞癌などのII群にわけられる。I群で登録された場合は優先的に割り振られる。II群であれば、Child-PughやMELD/PELDを用いて優先順位を設定する。生体肝移植の場合は施設ごとに異なる。

スコアリング

米国のOPTNが採用しているModel for End Stage Liver Disease (MELD) scoreとPediatric End Stage Liver Disease (PELD) scoreを参考にする。12歳以上ではMELD scoreを、12歳未満ではPELD scoreを用いる。計算式は複雑でかつupdateされるため、websiteの最新のcalculatorを用いる方が正確である(https://optn.transplant.hrsa.gov/media/qmsdjqst/meld-peld-calculator-user-guide.pdf)。例えばMELD scoreであれば、年齢、ビリルビン、ナトリウム、INR、クレアチニン、アルブミン、腎代替療法、性別を計算に用い、6-40で表される(数値は四捨五入し、40以上は40とする。高ければ重症)。PELD scoreはz-scoreを用いた異なる計算式を用いて計算され、理論上は-99から99の値をとりうるが、通常は6-40となる。

術前合併症と評価

呼吸器

肝疾患では呼吸器にも問題が生じる。肝肺症候群(hepatopulmonary syndrome)とは、仰臥位から坐位や立位になると呼吸苦が増悪する病態である。肺血管の毛細血管が拡張することで肺内シャントとV/Qミスマッチが増加し低酸素血症を呈し、重力の変化により肺血流が著名に影響を受けることが原因の一つと考えられている5,6)。異常なシャントが存在する場合、”bubble test”が陽性(心エコーで末梢からのairが左房で観察)になることがある。

肝性胸水(hepatic hydrothorax)は、通常右側に生じる片側性の胸水であり、小児では稀な合併症である。腹腔と胸腔の圧較差と小さな交通により、腹水が胸腔へ移動する機序が提唱されている6,7)

肺内シャントだけでなく、低酸素性肺血管収縮障害や肺胞低換気も低酸素血症に寄与する8)。腹水や肥大した臓器による圧迫で機能的残気量が低下する。麻酔導入時の無呼吸により酸素飽和度が低下しやすく、麻酔維持時には気道内圧や呼気終末陽圧の増加で対応を要す。術中や術後の肺コンプライアンスの変化に対応するためには、カフあり気管チューブが望ましい(『小児の挿管チューブと片肺換気』参照)。

心血管

体血管抵抗の低下と心拍出量の増加による”hyperdynamic state“が特徴的である。原因としては、血管作動性物質の循環や動静脈シャントの存在が考えられている6,8)。 心機能低下が見落とされる可能性があるので注意を要する。混合静脈血酸素飽和度は増加し、動静脈血酸素飽和度較差は減少する。麻酔薬の投与によって低血圧が起こりやすく、カテコラミンや血管作動薬への反応が乏しい。

肝不全の患者では肺血管抵抗が上昇し肺高血圧症を呈すことがある。肺血管抵抗が正常の肺高血圧症はhyperdynamic stateでは珍しくないが、肝硬変では肺血管抵抗が上昇することがある9)。小児の肺高血圧症の指標としては、mPAP >20 mmHg、PVR index >= 3 WU*m2が用いられる10)(『小児の肺高血圧症』参照)。門脈圧亢進症に伴う肺高血圧症は”portopulmonary hypertension“と呼ばれ、肝移植の予後不良因子の一つである11)。内科的治療でmPAP 35 mmHg未満にコントロールすべきであり、mPAP >50 mmHgは多くの施設で移植の適応外とされる2)。肺高血圧は右心不全の原因となるため、右心機能の評価も必要となる。

Alagille症候群では、90%以上の患者が心血管系の異常を有すると言われており、特に肺動脈分岐など末梢性の狭窄や低形成が最も多く、ファロー四徴症肺動脈閉鎖症が続く12)

神経

術前に肝性脳症を呈していることがある。腸管において窒素がアンモニアへ分解された後のアンモニア代謝が阻害されることで脳内のアンモニア濃度が上昇するため、血清アンモニア濃度は肝性脳症の一つの目安として用いられる。グルタミンやセロトニンなどの脳内伝達物質の関与も提唱されている6)。急性肝不全では脳浮腫や頭蓋内圧亢進を伴うことがあり、低ナトリウム血症で増悪するので注意する。場合によっては高張食塩水で積極的に補正する。意識障害の既往のある患児に対して安易なプレメディケーションは、意識障害や誤嚥のリスクから推奨されない。

小児では分布容積の大きさから、成人と比較し体重あたり多くの薬剤が必要となる。しかし、肝不全の患者では薬剤の蛋白合成能低下や半減期の延長から作用が遷延するため、薬剤による意識障害が遷延しやすい。

腎・電解質

肝機能と腎機能も密接に関わり合っている。肝腎症候群(hepatorenal syndrome)は、肝不全患者における血管内容量減少や腎灌流圧低下、レニンアンギオテンシン放出、腎血管収縮による腎前性の腎傷害である13)が、小児では稀である。

腹水の存在により抗利尿ホルモンが分泌され、水分の貯留と低ナトリウム血症が生じる。水分制限で対応され、利尿薬を中止する。アルブミンの投与により低ナトリウム血症が改善する可能性がある14)

消化管

胃内停滞時間は延長し、腹水や臓器の肥大により腹腔内圧は上昇している。誤嚥の危険があるため、輪状軟骨圧迫による迅速導入を考慮する。

肝不全では門脈の血管抵抗が上昇し門脈圧亢進症(portal hypertension)を呈する。健康な小児では7mmHgを超えることは稀で、10-12mmHg以上で亢進していると考えられる15)。また、門脈圧亢進の代償として血管拡張性物質が放出され、側副血行路が発達する。胃や食道に静脈瘤が形成される。門脈と肝静脈の平均圧較差(mean hepatic vein pressure gradient)が12 mmHgを超えると静脈瘤形成や出血が増える16)

脾循環の静水圧較差増大や、アルブミン合成能低下による低アルブミン血症により、腹水が形成される。血清腹水アルブミン勾配(serum albumin-ascite fluid albumin gradient: SAAG)>=1.1 g/dLは門脈圧亢進を示唆する7)。ただし、重度の低アルブミン血症や高グロブリン血症ではSAAGが低くなってしまう18)

血液

凝固系の恒常性は失われており、PTやaPTTは延長する。しばしば脾腫により血小板は減少する。ただし、肝不全では出血傾向だけでなく、血栓傾向や過凝固状態も同時に存在している19)

 

⇒ 『小児肝移植の麻酔管理』はこちら

 

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References

  1. Tanaka H. Pediatr Surg Int. 2023 Aug 25;39(1):253. PMID: 37624479.
  2. Sundaram SS, et al. Liver Transpl. 2017 Jan;23(1):96-109. PMID: 27650268.
  3. Kwong AJ, et al. Am J Transplant. 2022 Mar;22 Suppl 2:204-309. PMID: 35266621.
  4. Kasahara M, et al. Transplantation. 2021 Dec 1;105(12):2587-2595. PMID: 33982916.
  5. Hemprich U, et al. Curr Opin Anaesthesiol. 2010 Apr;23(2):133-8. PMID: 20019600.
  6. Hall TH, et al. Semin Cardiothorac Vasc Anesth. 2013 Sep;17(3):180-94. PMID: 23482506.
  7. Morin L, et al. Arch Pediatr. 2021 Jul;28(5):429-431. PMID: 33926811.
  8. Yudkowitz FS, et al. Pediatr Transplant. 2005 Oct;9(5):666-72. PMID: 16176428.
  9. Safdar Z, et al. Liver Transpl. 2012 Aug;18(8):881-91. PMID: 22674534.
  10. Hansmann G, et al. J Heart Lung Transplant. 2019 Sep;38(9):879-901. PMID: 31495407.
  11. Ramsay M. Curr Opin Anaesthesiol. 2010 Apr;23(2):145-50. PMID: 20124995.
  12. McElhinney DB, et al. Circulation. 2002 Nov 12;106(20):2567-74. PMID: 12427653.
  13. Meltzer J, et al. Curr Opin Anaesthesiol. 2010 Apr;23(2):139-44. PMID: 20124895.
  14. Bajaj JS, et al. Am J Gastroenterol. 2018 Sep;113(9):1339. PMID: 29880972.
  15. Ryckman FC, et al. Clin Liver Dis. 2001 Aug;5(3):789-818. PMID: 11565141.
  16. Garcia-Tsao G, et al. Hepatology. 1985 May-Jun;5(3):419-24. PMID: 3873388.
  17. Karnsakul W, et al. Clin Res Hepatol Gastroenterol. 2021 May;45(3):101549. PMID: 33268292.
  18. Hoefs JC. Hepatology. 1992 Aug;16(2):396-403. PMID: 1639349.
  19. Warnaar N, et al. Curr Opin Organ Transplant. 2008 Jun;13(3):298-303. PMID: 18685321.
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