小児の挿管チューブと片肺換気

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小児の死腔

小児の解剖学的死腔は大きく、麻酔回路の追加の死腔やコンプライアンスの高い蛇管は、有効な換気量を大きく減少させる。そのため、特に体格の小さな患児では適切な人工鼻や麻酔回路を使用する必要がある。

カフありとカフなし

成人では、気管壁とチューブの間のリークによる換気不全や誤嚥を防ぐ目的で、カフ付きの気管チューブの使用が一般的である。一方、小児では気道の解剖が成人と異なる。8歳未満の小児における最も狭い気管部位は鱗状軟骨レベルと言われている3)と言われているが、気管が楕円形をしているため、「適切な」サイズの気管チューブであってもリークによる換気不全や気管粘膜に過度の圧がかかる可能性がある。そのため、古いタイプの気管チューブは粘膜を傷害し声門下狭窄を引き起こす危険があり、小児ではカフなしの気管チューブが使用されてきた

しかし,カフなし気管チューブの場合,周術期における粘膜浮腫や肺コンプライアンス,肺血流の変化は,周囲のリーク量を変化させ,サイズ変更を余儀無くされることがある。また,カフ付きとカフなし気管チューブで気道関連合併症に差はないとも言われている4)

一方,カフ付き気管チューブのデメリットとしては,カフ厚を考慮し小さいサイズを使用することによる気道抵抗の増加が挙げられる。内径8.0mmを7.5mmに変更すると抵抗は29%増加するが,3.5mmを3.0mmに変更すると抵抗は85%増加する。

近年,低い圧で気道をしっかりと密閉できる”low-pressure high-volume”のマイクロカフと呼ばれるカフ付き気管内チューブが開発され,その外径はカフなしチューブの外径と近くなった。手術室、PICU、そしてNICUでも広く使用されており、最近の専門家はカフ付き気管チューブの使用を推奨している5)

経口 vs. 経鼻挿管

小児麻酔では経口挿管が一般的であるが,小児心臓麻酔では経口挿管のデメリットを考えなければならない。小児心臓麻酔中にTEEを用いることが多いが,新生児では気管チューブ先端が声門下3cm程度であり,経口挿管ではTEEプローベ操作により事故抜管や片肺挿管の危険がある。また,経口挿管では気管チューブをテープで頬に固定することが一般的であるが,小児の皮膚は弾力性が高く,体動による気管チューブの位置変化は大きい。術後や集中治療室での長期の挿管人工呼吸管理となると,鎮静中であっても首を左右に振ることによって気管チューブの位置が変化し、事故抜管や片肺挿管,喉頭浮腫と声門下狭窄の原因ともなる。一方,経鼻挿管では出血や(小児では少ないが)副鼻腔炎が問題となる。

一般的には経口挿管の方が素早く容易であることから,迅速導入では経口挿管が好まれ,必要に応じて経鼻挿管に変更する。経鼻挿管の前に経口挿管をすることで,リークをチェックし適切なチューブサイズを選択することもできる。施設によっては長期間の人工呼吸器管理が予想される患者では、経鼻挿管を選択することも多い。

サイズ

一般的には、カフ付き気管内チューブを選択する際、

  • 外径が若干太い
  • deflateした状態でもカフ周囲に厚みがある

といった理由から、カフなしチューブよりもワンサイズ小さなチューブを選択することが多い。しかし、内径の小さなチューブを選択することで、気道抵抗の上昇、分泌物の貯留、気管内吸引の有効性低下といったデメリットがある。

位置

カフの位置が高いと声帯を傷つけてしまい、低すぎると片肺挿管となってしまう。理想的には、カフによる声門下粘膜傷害を防ぐためにも、カフが輪状軟骨よりも下のレベルに位置するのが望ましい。

以下に、小児における気管内チューブのサイズと固定位置の目安について、表にして示す(文献2を元に改変

ちなみに以下の径(mm)は、内径であり、外径ではない。

上記はあくまでも目安で、必ず胸部レントゲン検査で位置を確認し、先端がT2椎体レベルにあることを確認する。

それぞれの製品で、気管内チューブの位置をガイドする線(マーカー)の位置、カフの形状や大きさ、murphy孔の有無に違いがあるため、注意が必要である。例えば、micro-cuffではmurphy孔がなくカフとチューブ先端の距離が短いため、マーカーを目安にすると上記の目安よりも浅くなりがちである。

ちなみに、Mallinckrodtにカフ付きチューブがあるが、カフが大きいため、輪状軟骨レベルにかからないようにするには深めに留置することになる。

カフ圧

通常、カフ圧は15cmH2Oで十分であり、20cmH2Oを超えるべきではない。20cmH2O以上でもリークがある場合は、サイズが小さすぎるのでサイズアップを考慮する。逆に、deflateした状態でもリークがない場合は、カフなしチューブよりも損傷のリスクが高く、チューブの変更が必要である。

マイクロは2ml程度のairでカフがかなり膨らむため、カフを膨らます注射器には2.5-3mlシリンジを用いる。カフ圧計を用いる場合でも、下図のようにカフ圧計とシリンジを組み合わせて微調整する必要がある。

HFOVやHFJVといった換気様式でgas-trappingが問題となる状況では、リークのない気管内チューブは肺傷害の危険を増加させる可能性がある。そのため、カフなしチューブ、またはカフ付きチューブのカフをdeflateすることを考慮する。ただし、過度な陰圧はシワにより逆に粘膜損傷のリスクを上げる可能性があるため注意が必要である。

片肺換気

外科的視野を改善させるためには術中分離肺換気を行うことが望ましいが、通常のダブルルーメン気管内チューブはその太さから小児への使用には向かない。

Cook社のArndt気管支ブロッカーは小児に対しても使用可能であり、4.5 mm以上の気管内チューブで5Frのブロッカー6.0 mm以上で7Frのブロッカー7.5 mm以上で9Frのブロッカーを用いることができる。

4.0 mm以下の気管内チューブで片肺換気を施行する場合は、チューブを深く挿入し気管支まで挿入する方法や、フォガティーカテーテルを用いて片肺をブロックする方法(フォガティーカテーテルは気管内チューブの外を通す方がやり易い)がある。

小児心臓でダブルルーメンチューブを挿入することは少ないが、胸部外科や肺移植では挿入することもある。年齢や体格と、片肺換気の方法については、『小児肺移植の適応と麻酔準備』参照のこと。

抜管

早期抜管

小児の開心術後の早期抜管は最近のトピックである。2010年のメタ解析では,早期抜管(手術室または集中治療室入室後6時間以内の抜管)の安全性が提唱され6),様々な施設で早期抜管が可能となることが示されている7)早期抜管には,鎮静剤使用量や人工呼吸期間を短縮することによる神経学的予後の改善や肺合併症の予防,リハビリ,コスト削減といったメリットがある。また,Glenn術後やFontan術後患者では,肺血流量は低い肺血管抵抗に依存しているため,陰圧呼吸を早期に確立することで血行動態の安定化や予後改善が得られる可能性がある8,9,10)。一方で,早期抜管には再挿管のリスクがあり,再挿管は予後不良因子となりうる11)

適応

早期抜管の適応や閾値はそれぞれの施設によって大きく異なるが,Risk Adjustment for Congenital Heart Surgery (RACHS) scoreに代表される手術の難易度は,人工心肺時間や出血,浮腫にも関係するため,早期抜管の決定に大きく関与する12)。また,年齢も重要であり,生後6ヶ月以上であれば早期抜管を考慮できる13)。染色体異常自体は早期抜管の禁忌とはならないが,気道確保困難や気道閉塞のリスクとの関連が示されている疾患(ex. 21トリソミー)では注意を要する。術前の肺高血圧の存在は,様々な周術期の合併症の危険性が高いことはよく知られており,早期抜管を躊躇する要因となる。

近年では,早期抜管の中でも手術室抜管にも注目が集まっている14)。施設により抜管するタイミングや場所(手術室または集中治療室)は様々であり,手術室抜管を積極的に行っている施設では抜管後の再挿管率が低いとの報告もある15)。しかし,その差は小さく,呼吸補助期間や病院滞在日数にも差を認めない16)。それぞれの施設には様々な背景を元に作られたシステムがあり,トピックに飛びつき安易に真似をするのではなく,全体を見通す力が必要である。

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References

  1. The Royal Children’s Hospital. Cuffed ETT management in NICU
  2. The Royal Children’s Hospital. PICU guideline.
  3. Bhardwaj N. Pediatric cuffed endotracheal tubes. J Anaesthesiol Clin Pharmacol. 2013 Jan;29(1):13-8. PMID: 23492803.
  4. Weiss M, et al. Br J Anaesth. 2009 Dec;103(6):867-73. PMID: 19887533.
  5. Litman RS, et al. Anesthesiology. 2013 Mar;118(3):500-1. PMID: 23314108.
  6. Alghamdi AA, et al. J Card Surg. 2010 Sep;25(5):586-95. PMID: 20626510.
  7. Mahle WT, et al. Pediatr Crit Care Med. 2016 Oct;17(10):939-947. PMID: 27513600.
  8. Lofland GK. Eur J Cardiothorac Surg. 2001 Jul;20(1):114-8, discussion 118-9. PMID: 11423283.
  9. Mutsuga M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2012 Sep;144(3):547-52. PMID: 22743174.
  10. Ono M, et al. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2019 Jul 1;29(1):85-92. PMID: 31220277.
  11. Gaies M, et al. Pediatr Crit Care Med. 2015 Nov;16(9):837-45. PMID: 26218260.
  12. Kin N, et al. Anesth Analg. 2011 Aug;113(2):329-35. PMID: 21490084.
  13. Davis S, et al. Pediatr Crit Care Med. 2004 Jan;5(1):63-8. PMID: 14697111.
  14. Kintrup S, et al. Pediatr Cardiol. 2019 Mar;40(3):468-476. PMID: 30238137.
  15. Rooney SR, et al. Pediatr Crit Care Med. 2020 Oct;21(10):e915-e921. PMID: 32639473.
  16. Rooney SR, et al. Pediatr Crit Care Med. 2020 Oct;21(10):e915-e921. PMID: 32639473.
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