肺動脈逆流症と肺動脈弁置換術

今回は、ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot: TOF)根治術後の合併症の一つである、肺動脈逆流症と肺動脈弁置換術について、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項を解説します。小児期のTOFと、その姑息術や根治術に関しては、こちらをご覧ください。

目次

肺動脈逆流症

TOF根治術の周術期死亡率は低下した一方で、残存病変や術後長期的な問題点が目立つようになってきた。例えば、肺動脈逆流による右室拡張、心房中隔・心室中隔欠損の残存病変、三尖弁逆流、右室流出路瘤、肺動脈狭窄症、頻脈性不整脈が、根治術後の合併症である。特に慢性的な肺動脈逆流は多くの患者で問題となっている。

肺動脈逆流量は、以下の式で表すことができる1)

PR volume = ROA * C * DT * (P2 − P1)0.5 

※ROA: 逆流口面積, C: 定数, DT:拡張時間, P2 − P1:肺動脈と右室圧の拡張期圧較差

すなわち、逆流口面積が広く、拡張期時間が長く(←徐脈)、肺動脈と右室圧の圧較差が大きい程、逆流が増える。TOF根治術後、既に逆流口面積は比較的大きいことが多いが、肺動脈は径は小さく(→圧較差小)、拡張期も短いことから、当初は逆流は多くない。しかし、徐々に肺動脈や右室が拡張し、年齢とともに徐脈傾向になるため、逆流量は増えていく1)

病態の進行

肺動脈逆流により

1) 拡張期容量増加と肥大による代償期

2) 拡張期容量増加に対する肥大が追いつかない非代償期

3)(容量負荷を取り除けば改善する)可逆性収縮能低下

4) 不可逆性心筋傷害と線維化

と病状は進んでいく。

また、漏斗部の切開、筋束切除、肺動脈弁輪~肺動脈切開を施行することがあるTOF根治術では、右室流出路のakinesis/dyskinesisをきたし、流出路パッチの瘤や右室自由壁の線維化、伝導遅延を引き起こす1)

予後予測因子

修復術後の予後(死亡、心室性不整脈、心不全といった”adverse events”)についての危険因子が、大きく3つのカテゴリーにわけて存在する1)

  • 現病歴:失神、年長での根治術
  • 電気生理学:QRS延長心室頻拍
  • 肺動脈逆流症による続発症:右室拡張、心室機能不全、壁運動異常

検査

心臓超音波検査、心臓CT、核医学、心臓カテーテル検査、そして心臓MRといった検査が、、TOF術後の心機能を評価に用いられている。

逆流率(regurgitant fraction)

Cardiac MR (CMR)で計測することができる。<20%で軽度、20-40%で中等度、>40%で重度とされる2,3)

右室拡張末期容量指標(RV end-diastolic volume index: RVEDVI)

CMRで計測。肺動脈逆流による右室拡張の指標であり、肺動脈逆流の重症度や弁置換の適応(ex. >150-170 ml/m21,2)、術後リモデリング(ex. <100 ml/m22)の指標に用いられる。正常値<=108 ml/m24)

Figure. TOF術後患者における肺動脈逆流とRVEDV indexの関係1,5)

右室収縮末期容量指標(RV end-systolic volume index: RVESVI)

CMRで計測。近年、拡張期だけでなく収縮期容量も重要であると指摘されている。RVEDVと同様、肺動脈逆流の重症度や弁置換の適応(ex. >80 ml/m21)、術後リモデリングの指標(ex. <55 ml/m22)に用いられる。正常値<=47 ml/m24)

右室駆出率(RV ejection fraction)

CMRでも計測可能。前述の通り、肺動脈逆流の病状進展とともに低下する。弁置換の適応(ex. >47%)1)、術後リモデリングの指標(ex. >50 %)2)に用いられる。正常値>50%4)

Figure. TOF術後患者におけるRVESVとRVEFとの関係1,6)

※容量負荷による右室拡張に対する代償(肥大)がなくなると、収縮末期容量は増加し、駆出率は低下する。

QRS幅

右室の伝導路は長い一本の線維束からなり、基部から漏斗部末梢の自由壁までの活性化に遅れが生じる。漏斗部の切開、筋束切除、肺動脈弁輪~肺動脈切開を施行することがあるTOF根治術後は、伝導路の遅れが起こり、QRS幅が延長する。

前述のように、このQRS延長は重症度を表すマーカーとして知られており、>180ms (4.5マス)をカットオフとしている研究が多い。

手術適応

TOFや類似疾患による中等度以上の肺動脈逆流(逆流率 ≥ 25%)がある患者では、以下の場合に肺動脈弁置換術(Pulmonary valve replacement)の適応となる1)

  • 右室拡張末期容量指標(RV end-diastolic volume index)>150 ml/m2 or Z-score >4(※体表面積が正常範囲外であればRV/LV end-diastolic volume ratio >2)
  • 右室収縮末期容量指標(RV end-systolic volume index) >80 ml/m2
  • 右室駆出率(RV ejection fraction) <47%
  • 左室駆出率(LV ejection fraction) <55%
  • 右室流出路瘤(Large RVOT aneurysm)
  • QRS幅 >140 ms
  • 右室容量負荷による頻脈系不整脈
  • その他の異常:1) 右室圧≥2/3 systemicを伴う右室流出路狭窄, 2) カテーテル治療で改善しない肺動脈分枝の狭窄, 3) 中等度以上の三尖弁逆流, 4) 心房・心室中隔欠損によるQp/Qs≥ 1.5, 5) 重症大動脈弁逆流症, 6) 重度の大動脈拡張(diameter ≥5 cm)

– 無症候の患者:2つ以上満たせばPVRの適応

– 症候性(ex. 運動能低下、心不全症状、不整脈による失神)の患者:上記を1つ以上満たせばPVRの適応

 

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References

  1. Geva T. J Cardiovasc Magn Reson. 2011 Jan 20;13(1):9. PMID: 21251297
  2. Alvarez-Fuente M et al. Pediatr Cardiol. 2016 Mar;37(3):601-5. PMID: 26687177.
  3. Mercer-Rosa L et al.  Circ Cardiovasc Imaging. 2012 Sep 1;5(5):637-43. PMID: 22869820
  4. Therrien J et al. Am J Cardiol. 2005 Mar 15;95(6):779-82. PMID: 15757612.
  5. Samyn MM et al. J Magn Reson Imaging. 2007 Oct;26(4):934-40. PMID: 17896382.
  6. Geva T et al. J Am Coll Cardiol. 2004 Mar 17;43(6):1068-74. PMID: 15028368.
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