大動脈弓の異常

目次

定義と分枝

大動脈弓の側(Arch sideness)

大動脈弓の側(”left” or “right”)は、主気管支を跨ぐ際の気管との位置関係から判断する2)。通常のように、大動脈弓が左後方向へ走行し、(気管の左側で)左主気管支を跨ぐ場合に「左側大動脈弓(left aortic arch)」と呼ばれる。一方、大動脈弓が右気管支を跨ぐ場合は、「右側大動脈弓(right aortic arch: RAA)」と呼ばれる。

大動脈弓の分枝

通常、大動脈弓からの最初の分枝(頚動脈または無名動脈)は、大動脈弓の「側(”left” or “right”)」と反対側から分枝する2)

例外

  • 腕頭動脈起始異常(Retroesophageal innominate artery): 腕頭動脈が大動脈弓の最後の分枝として起始。大動脈弓からの最初の分枝が大動脈弓の「側」の同側の頚動脈となる(左大動脈弓であれば左頚動脈が第一分枝)。

左側大動脈弓

正常の左側大動脈弓

右側にある上行大動脈が左主気管支を跨いで左後方に走行し、下行大動脈として脊椎の左側を下行する。右腕頭動脈(第一分枝)、左総頚動脈(第二分枝)、左鎖骨下動脈(第三分枝)の順に分枝する。

右鎖骨下動脈起始異常を伴う左側大動脈弓

最も多い大動脈弓の異常2)。右頚動脈(第一分枝)、左総頚動脈(第二分枝)、左鎖骨下動脈(第三分枝)の後、第四分枝として右鎖骨下動脈が起始する。右鎖骨下動脈は食道の後方を回り込んで右側へ走行する。解剖学的関係上、血管輪にはならず、気管や食道を圧迫しない。この症例では、経食道心臓超音波プローベの挿入により右鎖骨下動脈が圧迫され、右上肢の動脈圧ラインのモニタリングが正確にできないことがある。

右下行大動脈を伴う左側大動脈弓

気管の左後方に走行した大動脈が、気管と食道の後を通って右側へ回り込み下行大動脈となる。多くは右鎖骨下動脈起始異常(第一分枝:右総頚動脈、第二分枝:左総頚動脈、第三分枝:左鎖骨下動脈、第四分枝:右鎖骨下動脈)を伴う。食道後方を走行する大動脈(circumflex aortic arch)の存在により、血管輪を形成する2)

右側大動脈弓

(大動脈弓の「側」に関わらず)大動脈は正中よりも右側で上行し、右側大動脈弓では右側で下行し始めることが多いため、右気管支が(上行大動脈と下行大動脈によって)前後で圧迫されうる。また、(大動脈弓の「側」に関わらず)sinus solitus (『Van Praagh分類と右胸心』参照)では横隔膜レベルでは下行大動脈は左側であり、気管支レベルの右側から横隔膜レベルの左側へ徐々に下行する(※例外は「左側下行大動脈を伴う右側大動脈弓」)2)

左側大動脈弓の鏡像分枝

「正常の左側大動脈弓」の鏡像分枝である2)。分枝に関しても、左腕頭動脈(第一分枝)、右総頚動脈(第二分枝)、右鎖骨下動脈(第三分枝)の順である。

左鎖骨下動脈起始異常を伴う右側大動脈弓

「右鎖骨下動脈起始異常を伴う左側大動脈」の鏡像分枝である。すなわち、左総頚動脈(第一分枝)、右総頚動脈(第二分枝)、右鎖骨下動脈(第三分枝)の後、第四分枝として左鎖骨下動脈が起始する。血管輪は形成しない2)

Kommerell憩室を伴う右側大動脈弓

分枝は「左鎖骨下動脈起始異常を伴う右側大動脈弓」と同様であるが、食道後方の左鎖骨下動脈が膨らみKommerell憩室とよばれるaortic diverticulum(大動脈憩室)を形成している。左肺動脈とKommerell憩室を結合する左動脈管(索)が存在することで、血管輪を形成する。

左側下行大動脈を伴う右側大動脈弓

大動脈の右側から左側への走行が急激(circumflex aortic archが存在)であり、血管輪を形成する2)

重複大動脈弓

二つの大動脈弓が存在し、一つは右主気管支を、もう一つは左種気管支を跨ぐ。典型的には下行大動脈は左側であるが、正中または右側のこともある。多くは右側大動脈弓が大きい(dominant right arch)であるが、同等または左側大動脈弓が大きいこともある。血管輪と関連(『血管輪の周術期管理』参照)。

 

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Weinberg PM. J Cardiovasc Magn Reson. 2006;8(4):633-43. PMID: 16869315.
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