Van Praagh分類と右胸心

先天性心疾患では、左房や左室が必ずしも左に、右房や右室が必ずしも右にあるわけではありません。それぞれの形態学的特徴があるため、右にあっても左房や左室であることは多々あります。そのような複雑な先天心を分類する方法の一つに、1960年代にボストンで発案されたVan Praagh分類があります。心臓の位置異常を発生学の観点から捉えた分類であり、欠点はあるものの広く用いられています。今回は、Van Praaghの分類の基本と、右胸心についても触れたいと思います。

目次

Van Praaghの分類

括弧内の3つの文字によって、主な心臓の3つの部位 {心房, 心室, 大血管} の解剖学的左右の原位置(situs)を、それぞれ文字で表す2)

Van Praachの分類法は、心房・心室・大血管の位置関係を簡潔に表し、それらの様々な異常を表すことができるが、心房-心室や、心室-大血管の一致を表している訳ではない

心房(と内臓)

最初の文字は、心房について表している。発生学上、心房位(atrial situs)と内臓位(visceral situs)は多くは一致するため、例えば通常、左房は胃と同側に、右房は肝と同側に位置する1,2)

  • Situs solitus {S, -, -}: 心房と内臓が正常(solitus)に位置、すなわち、形態学的右房が右、形態学的左房が左に位置する。
  • Situs inversus {I, -, -}: 心房が正常とは鏡像に位置
  • Situs ambiguous {A, -, -}: 心房の原位置が不定(solitusと inversusの混在
文献2)より改変

と表現される。

右心房と左心房の鑑別には、心耳の形態や分界稜(crista terminalis)の有(→形態学的右房)無(→形態学的左房)、大静脈との接続(→形態学的右房)や肺静脈との接続(→形態学的左房)、内臓の左右などが参考となる1)

心耳に着目し、正常、鏡像、両側とも右心耳(right isomerism)、両側とも左心耳(left isomerism)の4つに分類する方法もある5)。二つのisomerismがVan Praaghの”situs ambiguous”に相当するとも考えられるが、Van Praaghの分類では心房の位置が不明の場合は全て”situs ambiguous”に含まれるため、そうとも限らない1)。ちなみに、Right isomerismは無脾症、left isomerisumは多脾症に見られることが多い

心室(と心室中隔)

発生学上、直線的な原始心臓管(heart tube)が、伸長・回転しながらループを形成することで、心臓が形成されていく(cardiac looping)。回転の方向によって、将来右心室と左心室になる部位の左右が決定する。

  • Dextro-looping / D-looping {-, D, -}: 正常の右回転。形態学的右室が右側に、形態学的左室が左側に位置する。
  • Levo-looping / L-looping {-, L, -}: 逆の左回転。右室が左側方向へ移動する。
  • X-loop {-, X, -}: 回転がどちらかわからないケース。

右心室には心室中隔に接する中隔尖のある三尖弁が存在し、心尖部での肉柱は粗い。一方、左室には心室中隔との接点のない僧帽弁が存在し、肉柱は平坦である1)

大血管

心室と大血管との関係は、正常か逆かということになるが、Van Praaghの分類では大血管同士の位置関係によって、以下のように分けている2,3)

  • Solitus {-, -, S}: 大動脈弁が肺動脈弁の右後(正常)
  • Inversus {-, -, I}: 大動脈弁が肺動脈弁の左後(正常の鏡像)
  • D-transposition {-, -, D}: 大動脈弁が肺動脈弁の右前
  • L-transposition {-, -, L}: 大動脈弁が肺動脈弁の左前

※大動脈弁が肺動脈弁の真右にある場合をD-malposition of great vessels (D-MGV), 大動脈弁が肺動脈弁の真左にある場合をL-malposition of great vessels (L-MGV)と追加することもある4)

文献3)より

Examples

正常

形態学的右房や肝は右側に位置し、形態学的左房や胃、脾臓は左側に位置する(situs solitus)。原始的心管は右回転しながら折れ曲り(dextro-loop)、大動脈は主肺動脈の右後に位置する(situs solitus)。以上より、{S, D, S}と表現される。

完全大血管転位

形態学的右房と左房の位置は正常(situs solitus)であり、心管はも正常の右回転(dextro-loop)することで右室が右側、左室が左側に位置する。しかし、大動脈は主肺動脈の右前に位置する(D-transposition)。以上より、完全大血管転位{S, D, D}と表現されるが、最後の大血管の位置のみを略して”d-TGA”と呼ばれることもある。

心臓の位置と心尖部の向き

文献によって異なる定義を使っており、混乱を招く原因となっている。ある分類方法では、心臓の位置のみを定義につかっており、levocardiaは心臓が左胸腔に、dextrocardiaは心臓が右胸腔に、mesocardiaは正中に位置することとしている。

一方、心臓の位置と心尖部の向きを分けて考慮する方法もあり、その場合、levocardiaとは心基部から心尖部の方向が左方を向いていること、dextrocardiaとは心尖部の方向が右方を向いていること定義している。そして、心臓が左胸腔に位置することをlevopositioning、右胸腔に位置することをdextropositioningと分けて表現する。多くの場合、心臓の位置と心尖部の方向は一致しているが、稀には右胸腔にある(dextroposition)が心尖部が左方を向いている(levocardia)であるといった場合もある。

日本語の「右胸心」とは、前者の定義によるdextrocardiaを指しているのか、後者の定義におけるdextropositionを指しているのか、文献によって混同して使用されている可能性がある。

また、後述のように、鏡像のような逆位(Mirror-image dextrocardia)以外のdextrocardiaも存在するため、注意が必要である。

Van Praagh分類からみたRight-sided heart

心臓が右側に位置する場合でも、上記のような発生学的な視点からは様々な可能性が考えられる3)

例えば、心房と心室の左右は正常で、大血管の位置関係も正常であれば、Van Praagh分類では{S, D, S}と表現され、心臓は単に右胸腔に存在するだけであり、”Dextroposition“ということになる。

心房と心室両方の左右が逆(右房が左、右室が左)で、大血管の位置関係も全く逆であれば、完全に正常の鏡像となり、Van Praagh分類では{I, L, I}と表現され、”Mirror-image Dextrocardia“となる。

また、心房の左右が正常であっても、心室の左右が逆で、大血管の位置関係がL-transpositionであれば、{S, L, L}と表現され、修正大血管転位となる。

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. VANPRAAGH R, et al. Am J Cardiol. 1964 Apr;13:510-31. PMID: 14136294.
  3. Malish RG, Shmorhun DP, Ho VB. Radiology corner. Dextroposition of the heart. Mil Med. 2007 Oct;172(10):viii-ix. PMID: 17985782.
  4. Schallert EK, et al. Radiographics. 2013 Mar-Apr;33(2):E33-46. PMID: 23479719.
  5. VAN MIEROP LH, et al. Lab Invest. 1962 Dec;11:1303-15. PMID: 13996090.
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