人工心肺と管理②〜MUF・血糖・ステロイド〜

人工心肺中の管理について、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項を解説します。前編である『小児の人工心肺と管理①〜希釈・流量・体温・血ガス〜』と合わせて参考にしてください。

目次

血液濾過

MUFとCUF

血液濾過(hemofiltration)とは、限界濾過(ultrafiltration)によって物質を取り除き、置換液で喪失分を置換することである。小児での人工心肺の使用は、回路という外界に接する面積が比較的大きく、それによる炎症反応の結果、成人の場合よりも毛細血管漏出が大きくなる。そのため、小児では炎症性サイトカインと間質液を減らす目的で、人工心肺中のconventional ultrafiltration(CUF)や、人工心肺終了後のmodified ultrafiltration(MUF)が施行されることが多い。

人工心肺中、限外濾過量を増やすために補液で回路を希釈する方法を、dilutional ultrafiltration (DUF)と呼ぶ。

回路

MUFを行う際は、人工心肺終了時に回路の接続を変更し、血液を大動脈の送血管から脱血し、膜を通して10-30 mL/kg/minの限外濾過を行った後、加温・酸素化した後に右房に返血する。必要に応じて静脈槽の血液や新鮮凍結血漿を置換液として投与する。MUFを終了するタイミングとしては、15-20分間という時間的カットオフ、静脈槽からの置換液の血液成分が希釈された時点、目標ヘマトクリットが達成された時点、などがある1)。患者の血行動態が不安定になった際も終了となる。

Royal Children’s HospitalにおけるMUF回路の一例

メリットとデメリット

MUFを行うことで

  • 間質液の除去
  • 肺血管抵抗の低下
  • 左室拍出量増加
  • 血圧の上昇
  • V/Qミスマッチ改善によるガス交換の改善
  • 心筋保護液や灌流液としての不要なボリュームを除去(CUF+MUF)

が挙げられる1,2)

MUFの欠点としては、

  • 過剰な流量が大動脈からヘモフィルターに奪われ、脳や全身の酸素化低下を引き起こす「盗血現象」の可能性
  • プロタミン投与とカニュレーション抜去が10-20分遅れること
  • 前負荷が十分でない場合血行動態が不安定になること

が挙げられる1)

血糖

新生児で正常血糖を維持することは重要である。新生児の心筋グリコーゲンは増加しているが、肝臓グリコーゲンは少ない。そのため、血糖を正常レベルに維持するために、新生児早期ではグルコースを投与する必要がなり、人工心肺開始まで継続すべきである。血糖値に注意しながら、10%のグルコース入りの輸液を用いる。

血糖 80-110 mg/dLを目標とした厳密な血糖コントロールは,感染症や死亡率,臓器不全といった予後を改善せず3),そのような血糖値は術後合併症の増加と関連する可能性もある4)。また,Boston Circulatory Arrest Studyでは、危惧された高血糖と神経発達との関連は示されず、人工心肺離脱後の血糖が低い方が術後の痙攣と関連していた5)。新生児や乳児では成人のように高血糖による乳酸の蓄積が神経学的悪影響を及ぼさず,軽度の低血糖でさえ脳傷害を引き起こす可能性がある5)小児心臓手術の周術期管理においては,軽度の低血糖も見逃さず,高血糖には比較的寛容でよいのかもしれない。

ステロイド

人工心肺関連全身性炎症反応(Systemic inflammaory response: SIRS)は、血液が人工心肺回路という外的表面に曝されることによる免疫反応である。また、大動脈遮断解除後に虚血再灌流が開始し、様々な催・抗炎症反応メディエーターが循環に放出される。白血球や血小板,凝固カスケードの活性化,血管内皮の透過性増加,血管拡張,血管内容量低下を介し,臓器不全や予後悪化と関係する。SIRSと多臓器不全を防ぐための様々な方法が考案されており、その一つとしてステロイドが挙げられる。

用量としては、健康状態の副腎から産生される量の10-20倍もの量が投与される6)。これまでの研究では、methylprednisolone (ex. 30mg/kg7))、hydrocortisone (ex. 50mg/m28))、dexamethasone (1mg/kg 9))などがよく用いられている6)。また、麻酔導入時や人工心肺離脱時、ボーラス投与のみ、その後の持続投与など、regimenも研究間で様々である。

しかし,ステロイドによる予後改善効果は明らかでない。2010年の米国大規模データベース研究でステロイドの優位性は示されず10),2020年の小児心臓手術を対象としたメタ解析では,ステロイドの予防的投与は人工呼吸期間を短縮させる可能性はあるが,死亡率や集中治療室滞在日数には影響しないと結論づけている6)

 

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Elliott MJ. Ann Thorac Surg. 1993 Dec;56(6):1518-22. PMID: 8267480.
  3. Agus MS, et al. N Engl J Med. 2012 Sep 27;367(13):1208-19. PMID: 22957521.
  4. Rossano JW, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2008 Apr;135(4):739-45. PMID: 18374750.
  5. de Ferranti S, et al. Anesthesiology. 2004 Jun;100(6):1345-52. PMID: 15166552.
  6. Gibbison B, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 12;10(10):CD013101. PMID: 33045104.
  7. Graham EM, et al. J Am Coll Cardiol. 2019 Aug 6;74(5):659-668. PMID: 31370958.
  8. Robert SM, et al. Pediatr Crit Care Med. 2015 Sep;16(7):629-36. PMID: 25901540.
  9. Lomivorotov V, et al. JAMA. 2020 Jun 23;323(24):2485-2492. PMID: 32573670.
  10. Pasquali SK, et al. Circulation. 2010 Nov 23;122(21):2123-30. PMID: 21060075.
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