RCHの臨床

Rapid response system

みなさん、Rapid Response System (RRS)はご存知でしょうか。急変の前兆を捉え早期に介入することで、院内心停止といった重篤有害事象を防ぐことを目的として海外で導入され、近年、日本でもその必要性が囁かれています。

研究レベルではその有効性に賛否があるようですが、今回は、オーストラリアのRoyal Children’s Hospital (RCH)という病院の集中治療室(ICU)でのRRSについてお伝えしたいと思います。

はじめに

日本院内救急検討委員会によりますと、RRSを担うチームとしては、

  • Medical Emergency Team (MET)
  • Rapid Response Team (RRT)
  • Critical Care Outreach Team (CCOT)

があるようです。RCHでは、この中でMETとoutreach teamが主に活躍しているため、それらについての経験をシェアしたいと思います。

Medical Emergency Team (MET)

Met callとは

METとは、Medical Emergency Teamの略です。前述の通り「急変の前兆を捉え早期に介入することで、院内心停止といった重篤有害事象を防ぐ」ことが目的であり、日本の病院で心停止などで放送される「コードブルー」「ドクターハリー」「緊急コール」を引き起こさないための、その前段階の予防策として存在します。

RCHでは、”VICTOR chart”というビクトリア州全体で採用しているバイタル表があり、それぞれのバイタルサインの閾値(MET criteria)から外れるとMET callを起動する「決まり」になっています。 もちろん、各患者で適切な閾値に変更することができますが、その範囲外になった時点で担当看護師がMET callを起動させます。RCHでは、血圧低下、徐脈・頻脈、頻呼吸で呼ばれることが多く、その原因としては痙攣や感染症、心不全などが多い印象です。

チーム構成

一般的には、集中治療や救急に関わる医師と看護師でチームが構成されることが多いようです。RCHでは、MET call専従のチームは存在しません。MET callが放送された際には、ICUに勤務中の医師(または下記のoutreachの医師)とICUの看護師がそれぞれ1人ずつ現場に向かいます。

日本での緊急コールは超緊急事態であるため、医師が我先に現場に走って向かいますよね。一方、MET callの緊急性は一段階下がるためか、RCHでは医師と看護師が、二次救命処置が可能である救急カートと一緒に、エレベーターを使って(のそのそ歩いて)現場に向かっています(←そもそも院内を「走る」という文化自体がないのかもしれませんが)。

仕事内容

緊急コールと異なり、患者は不安定ではありますが心停止といった超緊急事態ではありません。しかし(だからこそ)、現状の評価と今後のプランをある程度しっかりと考えなければなりません。どういった検査を行い、何を考え、どのような治療をし、どうフォローアップを行うのかICU入室の適応か否かも判断し、もし入室させないにしても、後述のようにoutreachの患者リストに入れて経過観察を行います。

詳細は後述しますが、主科や病院全体でのコンセンサスがなければ成り立ちません。なぜなら、METで駆けつけたチームは、検査や治療に関してかなりの権限を持つからです。その場に主科の医師がいなくても、主治医に連絡なしで次々と検査・治療方針を決定していくため、周囲の理解が不可欠になります。

Outreach Team

チーム構成

ICU所属医師と看護師によって構成されます。ICU所属の医師は、ICU勤務日以外に持ち回りでoutreach業務を行いますが、看護師は基本的にoutreach専従の人で勤務を回します。

Outreach専従看護師といっても、多くはICUの勤務経験がありますので、小児の重症管理や先天性心疾患の呼吸循環といった知識は持ち合わせています。

仕事内容

Outreachでは、ICU退室患者のフォロー、MET callのあった患者のフォロー、紹介(referral)が主な仕事になります。

患者は基本的に、落ち着いているからICUから退室するのですが、まだまだ安心できない患者も沢山いますし、ICU退室後は看護もモニターもICUと同等にはなりません。そのため、患者が退室後に増悪していないかチェックする必要があり、それがoutreachの仕事の一つです。ICUから退室した患者は全てoutreachの患者リスト入りし、outreachチームが「フォロー終了」とするまでは、チームは毎日患者を回診し状態をチェックします。また、上記で解説したMET callのあった患者も、outreachの患者リストに入ります。

その他、他科から重症患者の紹介やICUへの適応について紹介を受けることがあります。その場合も、outreachチームが対応することになっています。

勤務時間

RCHでは現在、医師と看護師が毎日一人ずつoutreachチームに割り当てられています。勤務時間は若干異なり、医師は10時〜22時、看護師は8時〜18時の勤務となります。ICU内の引き継ぎ(記事「集中治療室のシフト体制」参照)には可能な限り顔を出し、ICUチームとの連携を図ります。

Outreach業務は、かなりoutreach専従看護師に頼っている印象があります。私の英語力が乏しいことも影響しているかもしれませんが、回診中は看護師が前面に出て患者対応や説明を行なっています。そもそも医師はICUから日替わりで派遣されその場その場で対応をしているだけですが、看護師は前日からoutreachリストにある患者の予習を行い、リストに入りそう(≒ICUから退室しそう)な患者の見回りをしています。とても“outreach”という業務に誇りを持って仕事をしている印象を受けました。

ちなみに、医師も看護師もいない時間帯に患者紹介があった場合は、ICUの医師が対応することになっています。

メリット

急変が少ない

メリットは、何と言っても急変が少ないことでしょう。研究ではこのようなRRSに対して賛否両論あるようですが、現場の実感としてはかなり有効である印象を受けます。こちらに来て、ICUと救急外来以外(すなわち病棟で)まだ一回も心停止での緊急コールを経験したことがありません。やはり、MET callで不安定な患者を予め救い上げていること、outreachチームが病棟を見回っていることなどがその理由かと思います。

問題点

主治医との関係性

上記のようなシステムを直に経験し、個人的に最も違和感を持ったことは、主科との関係性です。Outreachへの紹介は主科からされることが多いですが、MET callは病棟の看護師から発動されます。MET callは日中だけでなく主治医のいない夜勤帯にもありえますので、ICUから派遣された医師が、主治医の許可なく検査や治療をガンガン進めていきます。

おそらく、このようなシステムが十分に導入・浸透されていない病院であれば、主治医抜きで検査や治療が次々と行われ、場合によってはICUに入室したことさえ知らないともなれば、主治医は怒り心頭でしょう。しかし、RCHではそれが当たり前になっていますので、誰も気を悪くしません。そもそもMET callに関する検査や治療・ICU入室に関してはICUやoutreachチームが責任を持つことになっていますので、主科が口出すことも「主治医に連絡した?」なんて会話も殆どありません。

しかし、このような暗黙の了解を作り上げるには、相当な時間と実績が必要になるでしょう。このようなシステムが成立するためには、ICUや救急チームと主治医チームの間で強い信頼関係が必要です。まずは病院全体で話し合い、進むべき方向を職員で共有することが大事だと思います。

人数の確保

このようなシステム作りには、当然マンパワーが必要になります。記事「集中治療室のシフト体制」にも書いていますが、このような、屋根瓦式・完全交代制を導入するためには、ある程度の人数が必要です。一週間の勤務の後、一週間休みだとして単純に計算しても、outreach業務を兼ねるには14人のICU医師が必要になります。RCHでは、小児一般のgeneral ICUと先天性心疾患専門のcardiac ICUの二つのICUがありますので、ICU+outreachのシフトを組むだけでも最低でも30名は必要になります。年休や学会、体調不良などで人員が欠けることを考えると、更に必要数は増え、ICU所属の医師は総勢40人近くになります。

まとめ

今回は、海外で主流となっているRapid Response Systemについて、自分の経験をシェアしました。上記のように、本格的に導入するには多くの壁が存在しそうです。しかし、患者視点で考えると多くのメリットがありそうですので、帰国時には導入を検討してみたいと思いました。

ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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