今回は、小児心臓血管外科患者に対する、マグネシウムに関する周術期管理について考えてみたいと思います。
マグネシウムの総論
生体内のマグネシウムの殆どは細胞内に存在し、細胞外に存在するマグネシウムは全体の1%以下しかない。細胞外のマグネシウムのなかで、血液中のマグネシウムは、55〜70%が蛋白結合型、20〜30%がイオン型、5〜15%が陰イオン結合型として存在している1)。カルシウム同様、イオン型が生態学的な活性が最も高いと考えられている1)。
生体内のマグネシウム量を評価する一般的な方法は、血清マグネシウム濃度の測定である。中央検査室で計測できるため、簡便な方法として臨床現場では頻繁に用いられている。しかし、細胞外液には体内マグネシウム総量の1%しか存在せず、血清中で測定されたマグネシウムは0.3%でしかないため1)、体内マグネシウム総量の評価としての血清マグネシウム値の利用には注意が必要である。また、生体内での活性はイオン型が最も高いと考えられているが、以前はこのイオン化マグネシウムを測定することが難しく、臨床では血液中の総マグネシウム濃度の測定が標準的な検査方法とされてきた。しかし、イオン選択性電極(Ion-selective electrode)をはじめとした近年の技術の進歩により、イオン型を測定することが可能となった。そして、血清総マグネシウム濃度ではイオン化マグネシウムを適切に予測できない症例があることが示されている2,3)。
小児集中治療領域、特に小児心臓外科術後は、人工心肺の影響やループ利尿薬の使用などにより、低マグネシウム血症が発生しやすくなる1)。低マグネシウム血症は、脱力や振戦、興奮、痙攣、不整脈、低カリウム血症、低カルシウム血症の原因となり、特に術後不整脈への関連性が指摘されてきた1)。そこで、以下では、小児心臓外科術後のマグネシウム濃度、マグネシウム製剤の投与についてのエビデンスについて紹介する。
研究紹介
研究 | 要点 | 注意点 |
Dorman BH, et al. 2000
(PMID10689268) |
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Dittrich S et al. 2003
(PMID12774159) |
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Verma YS, et al. 2010
(PMID20688775) |
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Manrique AM, et al. 2010
(PMID19819469) |
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He D, et al. 2018
(PMID29778339)
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これまで、特に術後の房室接合部異所性頻拍(Junctional ectopic tachycardia: JET)の予防効果に対するマグネシウム投与に関し、比較的多くのランダム化比較試験が古くから行われてきた。どの研究も、小さなサンプル数、異なる年齢層や患者背景、不整脈の診断に関する不安などはあるが、人工心肺使用後にマグネシウム濃度が低下し、マグネシウム投与により術後不整脈を減らせる可能性が示唆されている。術後のJET以外の様々な不整脈に対する効果を調べるためには、更なる大きなランダム化比較試験をすべきという意見もあるが、低マグネシウム血症に対するマグネシウム製剤投与のデメリットの低さや費用対効果を考えると、更にランダム化比較試験を行うべきかは難しい判断であろう。ただし、低マグネシウム血症には介入した方が良いであろう一方で、イオン化マグネシウム濃度の目標値を調べた研究はなく、正常範囲内を目指すべきなのか、高めの濃度を目指すべきなのかは不明のままである。
マグネシウム製剤
マグネシウム製剤は、分子量246.47の硫酸マグネシウム水和物(magnesium sulfate hydrate: MgSO4・7H2O)で表記されることが多い。海外で用いられる50%製剤であれば500mg/ml = 500/246.47mmol/ml≒2mmol/ml = 4mEq/mlのマグネシウムが含まれることになる。
一方、日本には、補正用硫酸マグネシウム(1mEq/ml)や、10%製剤であるマグネゾール(約0.8mEq/ml)が存在する。そのため、海外記載の1mgの硫酸マグネシウム水和物は、(1/246.47)*2≒0.008mlの硫酸マグネシウム、1*4/(500*0.8)=0.01mlのマグネゾールということになる。例えば、論文で人工心肺中に50mg/kgのマグネシウムが投与されていれば、補正用硫酸マグネシウム(1mEq/ml)0.4ml/kgを人工心肺中に投与したことを意味する。
References
- Jahnen-Dechent W, et al. Clin Kidney J. 2012 Feb;5(Suppl 1):i3-i14. PMID: 26069819.
- Johansson M, et al. Weak relationship between ionized and total magnesium in serum of patients requiring magnesium status. Biol Trace Elem Res. 2007 Jan;115(1):13-21. PMID: 17406070.
- Külpmann WR, et al. Relationship between ionized and total magnesium in serum. Scand J Clin Lab Invest Suppl. 1996;224:251-8. PMID: 8865441.
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