以下、小児のextracorporeal membrane oxygenation (ECMO)の各論として、単心室系の疾患に対するstage毎のECMOのstrategyや注意点について、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項を解説します(総論については、『小児のECMO〜総論〜』をご覧ください)。
Systemic-pulmonary shunt
Blalock-Taussingシャント
特徴
通常、全身血管抵抗(systemic vascular resistance: SVR)よりも肺血管抵抗(pulmonary vascular resistance: PVR)の方が低い。そのため、Blalock-Taussing shunt (BTS)を有する患者に対しECMOを使用した場合、送血管からの血液の多くがシャントを介して肺循環に流れる。肺循環への過剰血流は肺水腫のリスクを高め、全身への低灌流が問題となる。
管理
このような理由から、一昔前はシャントにクリップをかけ、肺への血液のrun-offを減らす(無くす)管理が一般的であった。しかし、シャントにクリップをかけることによってシャントや肺血管の血栓が形成され、肺虚血や死亡率増加のと関連が報告された1,2,3)。
そのため、最近では大きめのカニュレーションを行い、流量を増やし(150-200ml/kg/min)(※通常の流量やターゲットに関しては、『小児のECMO〜総論〜』参照)肺へのrun-offを代償する方法が選択されている。また、内科的にはPEEP, high hematocrit, permissive hypercapnia, systemic vasodilator (PDE III inhibitor, chlorpromazine etc)といった内科的管理も有用である。それでも全身への灌流不足の場合には、外科的にシャントにクリップを部分的にかけ血流を制限することも行われる。
RV-PA conduit
特徴
ECMOの送血管は肺血流への分岐(RV-PA conduit)より後に存在するため、BTSのような肺へのrun-offはない。一方で、脈圧が殆ど無いような場合には肺血流も存在せず、ECMOの流量が多く脱血し過ぎても導管への血流が減るため、導管や肺血管の血栓の原因となる。
管理
このため、RV-PA conduitに対するECMOでは、BTSのような高流量は用いず、全身灌流を保ちRV-PA conduitを介した肺血流をある程度得られるような、できる限り低い流量で調節する。心収縮力を上げるという意味で、強心薬を投与しても良い。
Glenn循環
特徴
Glenn術後の循環の詳細については、『Glenn手術の周術期管理』に書いてあるが、ポイントとしては、下大静脈からは酸素飽和度の低い血液が心臓に直接流入し、上大静脈からは肺に直接酸素化された血液が共通心房に還流するということである。上大静脈は肺動脈と直接吻合されているため、その圧は高く、脳灌流は低下しやすくなる。
また、単心室で度々見られるような、左側や両側上大静脈、下大静脈離断といった合併症も、ECMOのカニュレーションやGlenn循環で肝要な静脈還流を考える上で、その解剖や血管開通性を理解しておくことは非常に大切である。
カニュレーション
肺血管抵抗が低く血管の閉塞性病変がない場合は、下大静脈や心房への一本脱血でも可能である。しかし、上スライドのように何かしらの理由で上大静脈の圧(=肺動脈圧)が上昇している場合には、上大静脈への脱血管を加える必要がある。
管理
通常の流量で問題ないが、上大静脈の減圧(→脳灌流の改善)し、心室拡張末期圧を下げるためには、高流量が必要となることもある。上大静脈圧は15mmHg以下が望ましい。
Fontan循環
特徴
Glenn術後の循環の詳細については、『Fontan手術の周術期管理』に書いてあるが、ポイントとしては、肺動脈への血液は上下肢から受動的な静脈還流に依存している(passive flow)ということである。通常は上下大静脈圧が高く、脳や腹腔臓器への傷害が危惧される。Fontan循環の破綻、いわゆる”Fontan failure“の場合であっても、心移植といった治療策があるのであればECMO(→VAD)の適応となる。
Fontan failureの原因4)
- Arrhythmia
- Anatomic obstruction to flow
- Pulmonary vascular remodeling
- Atrioventricular valve dysfunction
- Univentricular diastolic dysfunction and chronic underfilling
- Univentricular systolic dysfunction
カニュレーション
Central cannulation(カニュレーションについては『小児のECMO〜総論〜』参照)による心房への一本脱血が可能な場合もあるが、peripheral cannulationや肺血管抵抗が高く多くの脱血が必要な場合は、上下大静脈への二本脱血が必要となる。
管理
Fontan failureの患者では心機能が低下していることが多く、減圧のためには高流量(150-200ml/kg/min)のECMOが必要となることがある。ただし、通常通り、尿量や乳酸、静脈酸素飽和度といった全身灌流の指標と合わせて判断すべきである。
References
- Jaggertset al. Ann ThoracSurg. 2000 May;69(5):1476-83.
- Misfeldtet al. PediatrCritCare Med. 2016 Mar;17(3):194-202.
- Botha et al. J ThoracCardiovasc Surg. 2016 Sep;152(3):912-8.
- Bacon et al. Front Pediatr. 2018 Oct 17;6:299.
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[…] 小児のECMO〜各論〜 […]
[…] ⇒単心室のシャント/Glenn/Fontan循環でのECMOについては『小児のECMO〜各論〜』参照。 […]