海外で大学院生として過ごす場合、フルタイムとパートタイムのどちらかを選択できることがあります。ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)を例にして、その違いやそれぞれのメリット・デメリットを書き記したいと思います。
それぞれのbackground
フルタイムの学生は、年間を通して学業に専念する人であり、学生生活がメインとなります。HSPHに海外から留学に来た学生の多くは、このfull-time studentという立場です。
一方、パートタイムの学生は、基本的には他の施設に籍があり、空いた時間にHSPHで学ぶ、というスタンスです。多くはMGHやBrighamなどでレジデントやフェロー、研究ラボでポスドクをしながら、HSPHにも並行して空いた時間に学びに来る人たちで、「part-time student」と呼ばれます。少数派ですが、日本人でもこのようにポスドクをしながらpart-timeとして学生生活を送る人もいます。
取得できる単位数
HSPHでは、秋学期と春学期の2 termsが主な学期となります。もちろん、夏や冬に集中講義もありますが、あくまで夏期講習・冬季講習的な立ち位置で、メインは秋と春です。
フルタイムの学生は、一学期に最低12.5単位取得しなければなりません。逆に、12.5単位以上は幾らでも取得することができます。授業料は一定なので、とればとるほどお得になります。
45単位で卒業できるプログラムであれば、夏から来ている学生であれば15単位(夏)+15単位(秋)+15単位(春) = 45単位といった感じで、秋から来ている学生であれば、22.5単位(秋)+22.5単位(冬)= 45単位といった感じで、1年以内に全単位を取り終えます。
一方、パートタイムの学生は、一学期に最大12.5単位までしか取得できません。勝手にauditというかたちで聴講だけすることは可能ですが、取得できる単位としては12.5単位までです。したがって、卒業には2~3年かかることになります。
ラボの仕事とフルタイムの学生の両立は難しい?
基本的には、full-time studentは学生生活がメインなので、毎日の講義と多量な宿題をこなすことが日課となります。一つの講義から得られる内容は非常に多いため、頑張れば頑張るほどやるべきことは増え、他のことに手を出せないくらい日々が忙しくなります。
そう言った意味では、フルタイムの学生でありながらラボの仕事を並行して行うことは、中途半端になるリスクがあります。どうしても一つ一つの講義に費やす労力が減るためHSPHから得られる内容が少なくなると同時に、ラボでの仕事も思ったように進まないかもしれません。ラボでの仕事の質が落ちると、ラボでの評価が下がるため、人によっては最も避けたい事態になるかもしれません。HSPHとラボ、どちらも中途半端になる可能性があります。
フルタイムだけではアウトプットの機会に乏しい
一方で、ラボに属さず、フルタイムの学生だけしていると、アウトプットの機会に乏しくなることとがデメリットの一つでしょう。MPHはあくまでも学問を学ぶ場であり、実際の研究を行うところではありません。
ただし、HSPHではプラクティカムといったカリキュラムも用意されているため、ある程度アウトプットの機会は存在します。
実際の研究を行なった方であれば理解できると思いますが、実際のデータは想像以上に汚く、とてもそのまま解析できる状態ではありません。MPHで教えてもらった疫学や統計といった理論を実際のデータに応用しようとすると、想像以上に悩む場面が多いことに気づきます。
実際、HPSHのフルタイムの学生の中で、それまで研究を実際に行ったことのない人が意外に多い印象がありました。そもそも私たちのようなMDという基盤があった上でのプラスαでの公衆衛生学でなく、公衆衛生学そのものを基盤にすべくHSPHにきた人も多いので、研究経験や社会経験のない、それこそ「大学卒業してすぐにここにきました」といった感じの、それこそ20歳代前半の人も数多くいます。
そのような人たちとdiscussionしていると、「実際はそんなに単純じゃないけどね」「それは机上の空論でしょ」と言いたくなるような場面を多々経験しました。
やはり、あくまでHSPHは学問を学ぶ場であって、実際の臨床研究への応用ができるようになるにはそれなりのアウトプットする場が必要だと思います。
そういった意味では、フルタイムであってもラボと両立することでインプットとアウトプットを同時に行えることは、大きな魅力とも言えるでしょう。
まとめ
以上を元に、自分にあったスタンスを選ぶと良いでしょう。
1. ラボに属さずフルタイムで学び、可能な限り多くの講義を受講し、可能な限り自分のモノにする、インプット優先派
2. フルタイムで学ぶが、ある程度はアウトプットもしたいため、負担にならない程度にラボで研究を行う、インプット・アウトプットバランス派(←私)
3. フルタイムで学び、ラボにもポスドクとして在籍し、どちらも頑張るスーパーマン(←そのような人もちゃんと存在しましたので、不可能ではない。)
4. ラボの仕事の質を落としたくない、ラボでの評価を下げたくないため、パートタイムでゆっくり学ぶ人
といった選択肢があるのではないでしょうか。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] ちなみに、今回はClinical Effectiveness (CLE)という、臨床医を対象とした疫学・統計を中心としたコースで、full-time studentを1年間することで45単位取得し修士課程を終了する場合を念頭にします。プログラムやpart-time studentに関しては、それぞれの記事を参考にしてください。 […]