実際、海外の大学院生はどのようなスケジュールで生活しているのでしょうか。今回は、ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の学生が年間どのような時間割で生活しているかを公開したいと思います。
ちなみに、今回はClinical Effectiveness (CLE)という、臨床医を対象とした疫学・統計を中心としたコースで、full-time studentを1年間することで45単位取得し修士課程を修了する場合を念頭に書きます。プログラムやpart-time studentに関しては、それぞれの記事を参考にしてください。
夏(集中講義):7月初め〜8月半ば
プログラムについてはこちらでも説明していますが、CLEというコースは臨床医向けの疫学・統計学のコースです。他のプログラム(通常は秋からスタート)と異なり、夏から開始となりますので、6月末〜7月初めに渡米します。
夏のコースは、秋学期や春学期と比べ、集中講義的な位置付けです。夏コースについてはこちらで紹介していますが、同じクラスの講義が毎日あり(秋・春は同じクラスの講義は2回/週)、講義時間も1コマ2時間です(秋・春は1コマ1.5時間)。
夏も前半(Summer 1)と後半(Summer 2)に分けられます。1コマが2.5単位なので、一般的には前半と後半で3コマずつ受講することで、15単位取得します。
私の時間割を以下にシェアします。大まかには、EPIが疫学、BSTが統計学、RDSが決定分析、SBSが社会行動科学の講義です。その後の細かな数字はクラス名なので無視してください。
空いた時間に、予習・復習や宿題をこなさなければならないため、結構ハードです。夏を経験すると、秋学期と春学期が物凄く楽に思えます。
夏のコースを受講する生徒の多くは、現地や海外の臨床医であり、夏が終わるとそれぞれ元の場所に帰っていきます。7週間といえども濃い時間を一緒に過ごした人が去ってしまうのは寂しいものです。
秋学期:9月初め〜12月半ば
アメリカでは9月がいわゆる入学シーズンです。CLE以外のプログラムの学生も、9月に合わせてボストンに集まります。
秋学期も前半(Fall 1)と後半(Fall 2)に分けられます。同じ単位を倍程度の時間をかけて取得するので、1コマの時間は1.5時間と短く、学期自体も3ヶ月程度にわたります。
宿題:クラスによって様々です。多いと週1回程度、少ないと2~3週間に1回程度です。
試験:これもクラスによって異なります。授業中に行う日本的な中間・期末試験(in-class)があるクラスや、持ち帰りの試験を行うクラス、全く試験なしで宿題のみで評価するクラスもあります。In-classの試験であっても、教科書を見て良い試験(open-book)と持ち込み不可の試験があります。
以前で説明したように、MPHに来る学生の目的は様々です。純粋に知識を深めたい人もいれば、評価・成績(GPA)の方が大事な人もいます。そのため、講義の内容だけでなく、宿題や試験の有無、評価方法によって受講するクラスを選択する人もいます。
卒業までに必要な単位は45単位ですので、夏に15単位取得していれば、必要なのはあと30単位だけです。秋学期に沢山単位を取得し、後半(春)に楽する人や、興味深いクラスが春に多いことから秋はのんびり過ごす人など、過ごし方は様々です。
以下が私の時間割です。疫学(EPI)と統計(BST)以外には、コアカリキュラムである倫理(GHP)や、Cross registrationというシステムを使いマサチューセッツ工科大学の講義(HST)を受講しました。キャンパスが異なるため移動が必要でしたし、空いた時間はラボにも顔を出していたので、見た目ほど暇ではありませんでした。
また、どの講義も奥が深く、やればやるほど疑問がでてきます。そのため、週2-3回は徹夜してましたね。
とは言っても、臨床業務や当直もありませんし、土日は基本的にフリーです。家族と多くの時間を過ごすこともできるため、日本の生活を考えると、夢のような生活でした。
秋学期といえど、Fall 2になれば冬の始まりです。さすがボストンで、11月末にもなるとマイナス20℃を下回る日もでてきます。
冬休み(12月末)と冬季講習(1月初め〜1月末)
秋学期が終われば冬休みです。過ごし方は人それぞれ。冬季講習は受講せずとも十分に単位は足ります。興味のある講義があればボストンに残りますし、興味がなければ冬休みと冬季講習期間を合わせると1ヶ月程度休みになります。ボストンを脱出する人も沢山いますし、日本に帰国しバイトする人、アメリカ内外に旅行へと出かける人など様々です。私は冬休みにはメキシコに行きました。暑いクリスマスを家族と過ごしたことはいい思い出です。
冬季講習といっても、夏と比較し忙しさは全然ありません。私も1コマしか受講しませんでした。空いた時間はずっとラボに出入りして研究をしていました。
春学期:1月終わり〜5月初め
春学期が始まると、もう終わり(卒業)が見えてきます。本当にあっという間です。
授業の構成は秋学期と同じです。ただ、秋学期の講義の多くが入門編であるのに対し、春はそれらをベースとしたadvance的な講義のことが多く、興味深い授業が多いのが特徴です。しかし、とりすぎると消化不良になりますし、overwhelmされないよう気をつけなければなりません。
以下が春学期の私の時間割です。
1年コースであれば計45単位で卒業できますが、私の場合は夏から来ていたこと、full-timeの学生であったこと、ハーバードに来たからには最低限の知識はつけて帰りたかったことなどから、それなりに多くの講義を受講しました。ですので、終わってみると、(成績は良くありませんでしたが)60単位程取得していました。
そして卒業式(5月末)
卒業式は、公衆衛生学大学院のみの卒業式と、全てのハーバード大学院を含めた卒業式とがあります。それぞれの家族もくるので、非常に大勢の人が参加します。入場するためにはチケットが必要となります。私の時にはドイツのメルケル首相が招待され、祝辞を述べていました。
We count on you!!
この卒業式の前半は卒業生のための卒業式ですが、後半はこれまでの卒業生も参加し、大いに盛り上がります。卒業生が入場する際、ある初老の女性が、レガリアという卒業服を着ている私に向かって
「Congratulation!」「We count on you!!」
と話しかけてきました。1年間アメリカで生活したにも関わらず、言っている意味がすぐには理解できず、ただニコニコ笑ってしまいました。これ、
「頼りにしてるわよ」
ということなんですね。日本では組織の看板を背負い日々考えて行動し、時には行動を制限することも求められます。一方、ハーバード大学は、それぞれの卒業生が今後世界で自由に大きく活躍してくれることを望んでいます。何十年も前にハーバードを卒業した女性が、「ようこそHarvard alumuniへ。今度はあなた達の番。期待してるわよ」と言っていたんですね。感動すると同時に、この時の思いを忘れてはいけないな、と思った瞬間でした。
さいごに
今回は、年間を通しての大学院のスケジュールについて私の経験をシェアしました。日々わからないことだらけでしたが、日々成長している感覚や充実感は、研修医の時と似ているかもしれません。人生のうちのたったの1年や2年、ぜひ違う世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
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