RCHの臨床

留学と年齢

医師の留学といえば、大学院留学、臨床留学、研究留学の3つに大きく分けることができると思います。留学を目指している人は、それぞれの留学と年齢について考えることがあるのではないでしょうか。いつ留学すべきか。その答えは、「いつでも」可能ですし、いつになっても得られるものがあると思います。

しかし、そうは言っても、やはり目安が欲しいという人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、大学院留学・臨床留学・研究留学すべてをバラバラに経験した筆者が、同じく留学していた周囲の日本人を観察することでわかった「一般的な年齢や卒後年数」と、自分の経験を元にそれぞれの留学に対する「オススメの時期」というものを、個人的意見も含めて解説したいと思います。

大学院留学

一般的な年次

医師で大学院留学を志す人には、大きく分けて2つのタイプがいます。一つ目は、医師としてのバックグラウンドは持っているものの、臨床医として働くのではなく、臨床経験や知識を活かした別の仕事や研究を中心に行いたい人です。二つ目は、研究や医療マネージメントなど、日本の病院で臨床医として働いていても、時に必要となるこれらの能力も培い磨きたい人です。前者であれば留学時の年齢は比較的若く、卒後3〜10年目の人が多いですね。一方、後者であれば40歳代、50歳代であっても必要に応じて学びにくる人はいます。

ちなみに、予想通りといいますか、医局派遣で大学院留学をする人はあまりいません。これは、流石にコネだけでは入学できないのと、大学病院は市中病院ほどは大学院留学に対するリスペクトが大きくない(もっと他にやるべきことがある)などの理由があると思います。

私がボストンで生活していたマンションは、100棟ほどあるうちの半数近くが日本人世帯という、とても特殊な環境でした。当時、私は大学院留学生として生活していましたが、そのマンションの日本人住人の多くは研究留学で渡米している医師とその家族であり、住人同士の交流が比較的密でした。

そのため、学校では比較的若手で医局と関わり合いのない人たちと触れ合い、ご近所付き合いではそれぞれの医局に属した同年代の人たちと語り合うという、貴重な経験をすることができました。

面白いほど、前者と後者で考え方が違うんですよね。医局に属したことがなく夢の実現に向け邁進する若者と、組織の一員として周囲に気配りバランスをとろうとする中堅。医局員であると同時に大学院留学中であった私は、医師人生について考えさせられる日々を送っていました。

オススメの時期

大学院留学に特にオススメの時期や年齢はありません。大学院というのは、幼少期から続く教育システムの中で最も「自分が勉強したいから」行く学校ではないでしょうか。何歳であっても卒後何年目であっても、そこで学びたいことがあるのであれば、有意義な時間を過ごすことができると思います。

ただし、若い時期からの大学院留学をする人々に、(メリットかデメリットかわかりませんが)ある一つの特徴があります。それは、若くして広い世界を見ることができるためか、自分の将来について方向転換する人も多いということです。大学院留学は、臨床留学や研究留学よりも多職種の人々と関わり議論し、これまでと全く違う世界を感じることができます。そのため、自分の中に別分野での新たな興味が生まれ、人生の方針転換をする人が少なくありません。

ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)入学時、私は卒後12年目でしたが、HSPHに学生として在籍していた日本人の中では最年長でした。既に10年以上臨床に従事し、ある程度specificな目的を持った大学院留学でしたので、卒業後は臨床医に戻ることはほぼ明確でした。

一方、周囲の方達は20代から30代前半が多く、社会人としてのキャリアをこれから積み上げていく人達でした。そのため、大学院留学を活かして次のステップに向かうケースが多く、元の組織に戻るという人は(私と医系技官を除けば)いなかったように思います。当初はそのつもりがなくても、在籍中に得た知識と新しい世界に魅了され、臨床医を辞めてしまう人もある一定数いました。

私の場合、HSPH在籍中にRoyal Children’s Hospital (RCH)で臨床医としての採用が決まっていたため、卒業後は予定通り臨床医に戻りました。しかし、もしRCHでの臨床留学の話がなければ、卒業後もボストンに残り研究を続けたいという気持ちは大きかったです。そのくらい、大学院留学は人生観を変えてしまいます。

臨床留学

一般的な年次

臨床留学を目指す人の年齢が学年は、目指す国や立場によって異なります。

例えば、アメリカでは医師としてのスタート地点であるレジデント(「米国臨床医の階級」参照)からやり直さなければならないことが多く(※フェローから開始することも可能は可能のようですが、以前よりもその募集プログラムは少なくなってきています)、留学を目指す人の年齢も比較的若いです。また、アメリカで臨床行為をするためにはECFMG(USMLE Step 1, Step 2CK, and Step 2 CS)を取得していなければなりません。そのため、最も多いのは、学生や初期研修の頃からこれらの試験勉強に励み(←私は違います。記事「USMLEを受験しようと思うまで」を参照してください。)、日本で初期研修を修了後(または数年間の準備期間の後に)渡米するケースではないでしょうか。

一方、オーストラリアやカナダは、アメリカのような医師国家試験を受験しなくても、日本での医師国家資格があれば臨床行為をすることが可能です。そのため、日本で働いているうちに徐々に臨床留学に興味を持ち、日本で専門医を取得した上でsubspecialtyを勉強しに留学する、といった人が多いようです。従って、年齢的にはアメリカ留学よりは遅く、留学開始時は卒後8〜10年目以降といったところでしょうか。

オススメの時期

可能であるならば、できる限り早く臨床留学した方が良いと思っています。その理由は、

1. トレーニングの二度手間が省ける

確かに、アメリカやカナダ・オーストラリアの方が症例数が多く教育システムが高いかもしれません。しかし、日本でも教育熱心な上司や施設もありますし、日本の若い医師は少ない症例数から最大限学ぶ努力をしていることでしょう。そのため、ある程度日本で学んでから留学した際、これまでと全く異なる分野に進まない限りは、同じ事の繰り返しが少なからずあります。そして、真っ白いノートの方がより多く書き込み吸収できると思います。

2. 時の経過とともに自分の興味が変遷する

おそらく麻酔科だけではないと思いますが、専門医を取得する頃より徐々にキャリアパスが分かれ、興味が変わっていく人が多いです。より専門分野に進み臨床を極める人(麻酔科であれば、移植麻酔や小児心臓麻酔、神経ブロック、集中治療といったプラスα)、臨床をやめないにしても、研究を並行して行う人やマネージメント側に進む人など、同じ「臨床医」であっても様々な形態が存在します。そのため、ある程度の年齢(学年)になって臨床留学をした場合、ポジションによっては若手に混じって臨床をすることになり、そのような若手と同じスタンスで臨床に打ち込むことが辛いと感じる人もでてくると思います。

3. 方針転換しやすい

前述の大学院留学と重なる部分がありますが、臨床留学も非常に刺激的であり、日本との差を感じることも多いと思います。人によっては、そのまま永住を選択する人もいるでしょうし、海外の医療を経験することでシステムや政策といったマクロな管理から医療を変えたいと思う人もいるかもしれません。そういった場合、若い方が選択肢は広くなります。実際、若くしてアメリカでレジデント(&フェロー)を修了した医師が、その後臨床の現場から去り別の分野で活躍する人は数多くいます。

 

以上のような理由から、臨床留学に興味があるのであれば、できるだけ若い時期での留学をオススメします。ただし、前述のように、フェローといったある程度のポジションであれば、日本で専門医を取得していることが条件であることが多いのも事実です。また、英語という言語のビハインドがある場合は、ある程度の臨床力におけるアドバンテージがあった方が、少しは日々が楽になります。そういった点では、専門医取得後すぐ(卒後7〜10年目くらい)が一番良いのかもしれません。

私が臨床留学を始めたのは卒後13~14年目、日本の専門医が2つと指導医の資格を保持した状態での留学でした。しかし、留学先であるRoyal Children’s HospitalのPICUは、オーストラリア内のシニアパーソンと世界中のコンサルタントレベルを集めてヒエラルキーの底辺を構成するという特殊な部門でしたので、私の留学初期は「下っ端」として働き、途中から中堅として働きました。それぞれのポジションで、仕事内容や責任、日々の充実感が全く異なっていましたので、そういった意味では留学の学年だけでなく留学先のポジションも大きな要因になると思います。

研究留学

一般的な年次

記事「医師の研究留学」でも書いていますが、大学医局経由で留学する人や、個別にツテを見つけてくる人がいます。医局経由で留学する人は、それぞれの大学で博士(PhD)を取得し、その研究分野をより深く追求するために留学する場合が多く、その場合はPhD取得後、すなわち卒後10〜15年目(以降)に海外へ飛び立つことになります。一方、大学によってはPhD取得前に留学を課するケースもありますし、個別に留学先をみつけてくる猛者たちの場合も、留学する年齢はそれよりも若くなります。

オススメの時期

研究留学のオススメの時期については、メリット・デメリットも含めこちらの記事「医師の研究留学」に詳しく書いていますので、参照してください。

まとめ

留学に関して考えなければならないことは他にも山ほどありますが(「医師の研究留学」や「留学のデメリット」参照)、今回は年齢や学年に焦点を当てて解説しました。

最初に述べましたように、一般的な挑戦と同様、留学にとっても「遅過ぎる」なんてことはありません。一方で、私自身、「もっと早く来てればよかったな」と思ったことは多々あります。留学を考えている人にとって、私の経験や考察が少しでも参考になれば幸いです。

ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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