豪州医師のトレーニング

日本の指導医やスタッフ(教授・准教授・講師・助教)、アメリカのattendingに相当するポジションを、オーストラリアではコンサルタント(consultant)と呼びます。モチベーションの高いオーストラリアの医師たちは、このコンサルタントとなるために日々切磋琢磨しています。今回は、コンサルタントになる前の(なるための)、オーストラリアにおける医師のポジションやトレーニング期間、内容について解説したいと思います。

目次

インターン(Intern)

オーストラリアの医師はまず、インターンを行います。アメリカではインターンを卒業前に終わらせています(詳細は「米国臨床医の階級」参照)が、オーストラリアではインターンを医学部卒業後、すなわち医師免許取得後に行います。

制度としては日本の初期研修と似ていて、救急や内科・外科など決められた科を、1年間かけてローテートします1)

レジデント(Resident)

インターン自体は1年で修了し、その後専門科を選択することになりますが、多くの場合は、インターン修了後、引き続き1〜2年間のトレーニングを受けることを推奨しています。その場合、彼らは「レジデント」というポジションが与えられます1)

アメリカのレジデントは、医師としての初年度ではありますが、既にインターンは修了しており、専門家としてのトレーニグを始めます。そういった意味では、アメリカのレジデントはオーストラリアのレジストラ(後述)に相当するのでしょう。

レジストラ(Registrar)

インターン(またはレジデント)を修了すると、やっと”vocational training”の始まりです。オーストラリアでは、このような専門科のトレーニングを受ける医師を「レジストラ」と呼びます1)。そしてさらに、トレーニング前半の若手をJunior Registrar (JR)、トレーニング後半の医師をSenior Registrar (SR)と呼ぶこともあります。

以下では、例として小児集中治療医になるためのトレーニングコースのポジションやトレーニングについて解説したいと思います2)

臨床

まず、臨床のトレーニングとして、下記が必要になります。

  • 小児集中治療のコアカリキュラム(基礎トレーニング 6ヶ月 + 必修トレーニング 24ヶ月 + 最終試験合格後の最終トレーニング 12ヶ月):42ヶ月
  • 麻酔科研修:12ヶ月
  • 小児科:12ヶ月(+6ヶ月の選択)
  • (試験終了後の)最終トレーニング:12ヶ月

すなわち、計6〜7年間の臨床トレーニグを2施設以上(単施設は不可)で積まなければなりません。

研究

また、トレーニング期間中に最低一つ、プロジェクト(研究)を提出しなければなりません。論文になっている必要はないようですが、論文になっていない研究を提出すると、かなり修正を迫られるのだとか。。

米国では、アメリカの若手医師の研究に対する姿勢や論文数、頭の回転の速さに度肝を抜かれました。競争に慣れガツガツしており、圧倒的な賢さを持つ人が多かった印象があります。

一方、オーストラリアのレジストラは、かなり現場での臨床能力や「知識」に重きを置いているように感じました。日本での評判の良い研修医や専攻医のように、フットワークが軽く清々しい人が多かったように思います。

試験

トレーニング期間中、試験を二つ受けなければなりません。トレーニングを始めて2〜3年目に一つ目を、そして5〜6年目に二つ目の試験を受けます。

ちなみに、二つ目の試験が日本でいう専門医試験に相当するのだと思いますが、オーストラリアでもその合格率はなかなかのものです。小児集中治療領域では筆記試験と面接・実技で構成されていますが、筆記試験の合格率は40〜80%。筆記試験を合格すれば面接・実技と進めますが、USMLEのstep 2 CSの如く幾つものセッションにわけられ、実際の患者(!)を診察し所見や方針を述べる試験や、challenging caseでの家族説明などが課せられるようです。

日本の(少なくとも麻酔と集中治療の)専門医試験と大きく違うのは、この筆記にしても面接にしても、基本的に答えは一つではないということです。筆記も選択式ではなく、ある質問に対しひたすら自分の考えを書き続ける、というもの。面接にしても、答えなど存在せず、自分の持ちうる知識を精一杯さらけ出すというもののようです。

現在私の周囲にはこの最終試験を控えている同僚が数人おり、回診中に模擬試験をやっていますが、これが非常に辛そうです。診察時の動き一つ一つ全てコンサルタントに観察され、最後は次から次へと質問の応酬。研修時代のカンファレンスでフルボッコにされる恒例行事「磔の刑」を思い出しました。

費用

オーストラリアでは、トレーニングのためには多大な費用を必要とします。トレーニング開始時に$2,100、毎年のトレーニング費用として$1,670、そして両試験の受験費用としてそれぞれ$3,800を支払わなければなりません

すなわち、トレーニングを修了するために200万円近く必要だということです。

期間

ストレートに行くと、卒後2,3年目からトレーニングを開始し、卒後7,8年目に最終試験を受け、卒後10年目までにトレーニングを修了するということになります。

ただし、私が勤務しているRoyal Children’s Hospital (RCH)がそうなのか、それとも小児集中治療という領域が特殊なのか、始めから順当に小児集中治療医としてのトレーニングを開始した医師だけではありませんでした。外科医や小児科医を経験し途中から進路を変更した人も多く、卒後10〜20年目の医師もオーストラリアで小児集中治療専門医となるためのトレーニングを受けていました

私自身が日本の文化の中で大きな組織に長く身を置いていたため、年齢や学年というものを大切にしてきました。しかし、英語にはそもそも尊敬語や丁寧語もありませんし、RCHでも(年齢や学年よりは)ポジションによる上下関係をすごく大切にしているようでした。

以上、小児集中治療のトレーニングについて簡潔に(?)表した図が、こちらに記載されていますので、もし興味があればご覧ください。

フェロー(Fellowship)

専門科のトレーニングが修了すると、めでたく「フェロー」の称号が与えられます。オーストラリア内であればどこでもsurpervise なく独立して(independently)診療を行うことが許されます1)

ちなみに

ただし、上記のクラス分けは一般論であり、「レジストラ」や「フェロー」という立場は、病院や科によってある程度の違いがあります

例えば、前述のように「レジストラ」は専門性を選んだすぐ後の若手医師(PGY2 or 3〜トレーニング修了まで)ですが、RCHのPICUでは(特に外国人であれば)ある程度経験のある医師しかレジストラとして採用されません。レジストラの平均PGYは8〜10といったところでしょうか。

また、最終試験はクリアしているもののトレーニング期間を修了していない医師は、本来の「フェロー」でないはず1)ですが、RCHではフェローとして働いていることもあります。

まとめ

いかがでしたか。アメリカの医師階級と同じポジション名であっても、オーストラリアでは立場が異なってきます。オーストラリアでポジションを探している人は、知っておいて損はないかと思います。

References

  1. Australian Medical Association: Doctors in training and career advancement
  2. College of Intensive Care Medicine of Australia and New Zealand: Paediatric Intensive Care Training Program
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コメント

コメント一覧 (5件)

  • […] これは、オーストラリアの病院でsupervisor付きで1年間臨床医として働き、最後に学会から派遣された評価者による口頭試問を受けなければなりません。同時に、別の評価者がその病院のスタッフから本人の「評判」を聞き出し、最終的にオーストラリアで専門医として働くに値する人物かどうかを判断します。合格すれば、オーストラリアでの正規の専門医試験とトレーニングが免除され、晴れてオーストラリアの専門医と認定されます。 […]

  • […] オーストラリアには、コンサルタント、フェロー、(シニア&ジュニア)レジストラという階級が存在します。コンサルタントがいわゆる指導医で、フェローが専門医としてのトレーニングをほぼ修了した医師、レジストラがトレーニング中の医師を表しています(記事「豪州医師のトレーニング」も参考にしてください)。 […]

  • […] オーストラリアの医師は、とにかく休みが多いです。例えばRCHの集中治療室で働くレジストラ(オーストラリアの医師階級についてはこちらを参照)は、一週間連続で勤務した後、一週間連続で休みになります。一ヶ月の中で二週間は休み、一年あれば半年は休みなんですね(←これとは別に年休が半年で二週間ありますので、年の半分以上は働いていないことになります)。日本の医師の生活を考えると、この勤務体制は本当に衝撃的です。 […]

  • […] 臨床留学を考える際、何となく「フェロー(fellow)」というポジションを思い描いている人も多いのではないでしょうか。「レジデント(resident)」や「レジストラ(registrar)」との違いについては、記事「米国臨床医の階級」や「豪州医師のトレーニング」を参照していただくとして、今回はこの「フェロー」というポジションについてより深く解説していきたいと思います。 […]

  • […] 海外でも評価されている日本の専門医資格を持つことにより、海外でのポジションを得やすいことは大きなメリットの一つです。多少英語が下手であっても、日本人のキャラクターや仕事に対するポジティブな姿勢に加え、専門医資格があればそれなりの即戦力が期待できます。そのため、トレーニーである「レジデント(←米国式)」や「レジストラ(←豪州式)」だけでなく、サブスペシャリティを学ぶ「フェロー」といったポジションであっても、専門医資格があればポジション獲得にプラスに働く可能性があります。 […]

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