RCHの臨床

オーストラリアの看護師ができること、できないこと

現在、オーストラリアのRoyal Children’s Hospital (RCH)という小児病院のPediatric Intensive Care Unit (PICU)で勤務しており、小児心臓術後患者を主に診ています。一方、渡豪前は日本の大学病院で小児心臓麻酔と術後管理に関わっていました。

同じような疾患を対象とした仕事ですが、日豪で色々と異なる点を感じることがあります。今回はその中でも、(医師の視点で私が驚いた)オーストラリアの看護師の医療行為について述べたいと思います。

バッグ換気と吸痰

まず驚いたのは、小児心臓麻酔術後の人工呼吸患者に対し、オーストラリアでは看護師だけでバッグによるマニュアル換気と吸痰を行っていることです。

小児心臓術後は、体循環と肺循環が並行である患者や、直列循環であっても肺高血圧がある患者が数多くいます。換気による酸素・二酸化炭素の変化や吸痰による刺激により、低酸素血症やショック、肺高血圧クリーゼが引き起こされ、死に直結します。そのため日本(の私がいた施設)では、小児心臓術後患者の吸痰時には医師がジャクソンリースなどで個々の疾患に合わせた「適切な」換気を行い、その間に看護師が手早く吸痰を行っていました。

私の場合、小児心臓外科患者のバッグ換気を一人で行うことが許されたのは、医師8年目くらいだったでしょうか。そのくらい、ハードルの高いものです。

一方RCHでは、看護師自ら人工呼吸器からバッグ換気に変更し、看護師同士で吸痰を行っています。ジャクソンリース(←こちらでは「T-ピース」と呼んでいます)に圧モニターを装着し、気道内圧はチェックしているようですが、初めは相当驚きました。

鎮静・鎮痛薬の追加

これも勤務初日にして衝撃的だったんですが、RCHでは鎮静・鎮痛薬を看護師が自己判断で追加投与しています。例えば、fentanyl, morphine, clonidine, chloral hydrate, midazolam, paracetamolといった鎮静・鎮痛薬を、医師から許された量・回数内であればいつでも投与を行うことができます。

「なんだ。医師が量・回数を指定してるじゃん」と思われるかもしれません。しかし、例えば3種類の薬をそれぞれ6時間以上あければ使って良いとすると、一日に合計12回ボーラス投与が自己判断で可能になります。これは、大変な量です。

私が知る限り、日本では上記のような薬は、毎回医師の許可・オーダーの元、投与されていると思います。例えば、教科書にはmidazolamの投与量は0.1~0.2mg/kgと書いていますが、その通り投与すると、小児心臓患者で不安定な血行動態がある患者では死に至りかねません。そんな薬の投与を、医師自ら患者の状態を見ずに投与を許可することは、日本ではありえません。

もちろん、看護師もその副作用は熟知しているため、血行動態の不安定な患者ではその使用を控えています。ただし、その判断も看護師自ら行います。(要するに、看護師のレベルに大きく作用されます)

そして、極めつけは筋弛緩薬です。RCHでは、(もちろん人工呼吸患者に対してですが)筋弛緩薬さえも必要に応じて看護師が投与します。挿管チューブの固定テープの貼り替え(←私がいた日本の施設では、小児人工呼吸患者のテープ貼り替えも医師の仕事でした)の際も、看護師が筋弛緩薬を投与し、安全を確保しテープを貼り替えます。

※ただし、テープの貼り替え時には事故抜管の可能性があるため、「今から貼り替えるからね(=抜管しちゃったら再挿管してね)」と医師に一言声をかけてくれることが多いです。

ただし、このような鎮静・鎮痛薬・筋弛緩薬についての感想は、私が麻酔科医だからなのかもしれません。これらの薬を日々大量に使い、その利点や欠点に非常に敏感であるからこそかもしれません。麻酔科医なら賛同していただけると思いますが、麻酔科医は不必要な鎮静・鎮痛薬・筋弛緩薬が嫌いです。実際、RCHのPICUで集中治療医として働いている医師の中でも、麻酔科をバックグラウンドとして持っている医師は私と同様の感覚を持っていました。

カテコラミンの調整

麻酔薬の次は、血管作動薬です。カテコラミンさえも、看護師が調節できます。もちろん、カテコラミンの使い方なんて、医師の間でもかなり個人差・好き嫌いがありますよね。ですので、勤務開始の回診時には予めどのカテコラミンから減らして欲しいのか、血圧が低くなったらどのカテコラミンを増やして欲しいのかを医師サイドから伝えておきます。その指示範囲内であれば、看護師が血管作動薬の増減を自己判断で行うことができます。

人工呼吸器の調整

人工呼吸器のweaningも看護師が行うことができます。サポート圧やPEEPの調整といったシンプルなものだけでなく、吸気時間やトリガー、サイクルオフ時間なども、デキる看護師であれば勝手に調節してくれます。

また、上記の他にも、栄養の変更や増量なども、イチイチ医師に確認せずに、看護師の判断で進めてしまいます。

ちなみに、看護師がしてくれないことも

オーストラリアの看護師ができること、してくれることが非常に多い一方で、してくれないこともあります。日本の臨床に慣れた私が最も驚いた、オーストラリアの看護師が「してくれない」こと、それはラインの準備・手伝いです。

日本であれば、動脈ラインや静脈ラインの挿入時は看護師が手伝ってくれます。「先生、ラインとってください」と言われて行けば、物品の用意は全て整っている挙句に、穿刺時には腕や足を動かないように固定してくれますし、確保できるまで、繋ぐラインを持って医師の横で立って待っています。

状態の悪い小さな患児であれば、ライン確保に何時間もかかったことが何度も何度もあります。「とれたら呼びますから自分の仕事してていいですよ」と言わなければ、その場を離れずいつでもラインを繋げるように待っている日本の看護師の「凄さ」に、今更気づきました。

一方、オーストラリアの看護師は全く手伝ってくれません。もちろん、頼めば手足を押さえてくれますし、お願いすればラインを繋ぐもの手伝ってくれます。しかし、何も言わなければ、自分で全ての物品を倉庫からかき集め、消毒薬やラインの準備を行い、穿刺し、ラインをつなぎ、テープで固定するまで一人でやらなければなりません。これ、特に小児ではかなりきついです。

まとめ

上記のようなオーストラリアの看護師の医療行為が、日本と比べて良いのか悪いのかはわかりません。実際、「よく勉強してるなぁ」と感心する看護師もいますが、「無茶苦茶やっとるな」と思う看護師もいます。

それでも、RCHが世界有数の症例数とアウトカムを叩き出していることを考えると、このようなスタンスも「あり」なのかもしれません。もしそうだとすると、私達が日本でやっていたことは、無駄に医師に依存し過ぎており、不必要に細か過ぎるのかもしれません。

ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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