RCHの臨床

集中治療室の回診 in オーストラリア

私は日本の複数の集中治療室で勤務した経験があり、医局の違いから来る集中治療のスタンスの違いにも、それなりに慣れているつもりでした。しかし、渡豪してRoyal Children’s Hospital (RCH)という小児病院のPediatric Intensive Care Unit (PICU)で勤務していると、それら日本の施設とは大きく違う点を幾つも感じることがあります。今回は、その中の一つである、PICUの「回診」について記したいと思います。

勤務毎に回診

RCHのPICU勤務は、基本的に二交代制です。12時間毎に担当チームが交代します。

平日の日勤は、consultant, fellow, senior registar, junior registarの4人体制で、夜勤や土日になると、consultant or fellow, senior registar, junior registarの3人体制になります。面白いシステムなので、別個に記事にしたいと思います。

引き継ぎは別室で既に行われていますので、回診は新しい担当チームのみで行われることになります。

まずは医師チームによるintroduction

それぞれの患者の部屋に行き、まずは医師チームを代表した一人が患者の簡単な病歴や現時点での問題点を、30秒程度にまとめて紹介し、チームで確認し合います。

後述のように、回診の目的の一つは、看護師の疑問を解決し治療の方向性を確認し合うことにあります。そのため、担当看護師がいない(休憩なので交代している)と、その患者は後回しになります。担当看護師の重要性と地位の高さを非常に強く感じます。

この時点では、あくまで紹介なので、何のディスカッションもしません。一方的に話して終わりです。

残りの医師たちは手分けして、身体診察、カルテ記載や採血結果の確認、オーダーを済ましていきます。

昨今のモニターの進化とともに、モニタリングから得られる情報が非常に多くなり、集中治療室の回診時に必ずしも身体所見をとらないことが増えてきているように思います。しかし、RCHでは必ず回診時に身体診察を行い所見を記載しなければなりません。

私のbackgroundは麻酔なので、小児の身体診察をまともに勉強したことがありません。ですので、初めはかなり戸惑いました。

次は看護師の番

医師チームの代表が話し終わると、次はあなたの番よ、と言って担当看護師に主導権を渡します。

看護師は、システム毎に現状を説明していきます。例えば、

  • 神経: モルヒネ 10mcg/kg/h, ミダゾラム 1mcg/kg/minで鎮静しているが、夜間はモルヒネやクロニジンのボーラス投与が頻回に必要であり、agitationがみられた。
  • 循環:ノルアドレナリン 0.04 mcg/kg/minだったが、夜間は血圧が低下したため10ml/kgのアルブミンボーラスが何回か必要で、現在はアドレナリン 0.02 mcg/kg/minも併用している。
  • 栄養:一昨日よりfeedingを始めたが、逆流が多い。現在は2ml/kgを48時間毎のみ。日に何回か嘔吐もみられる。

といった感じです。これを神経、呼吸、循環、輸液/栄養、感染、血液、消化器、凝固、、、といった感じで、システム全てを網羅し現状を解説してくれます。これにより、医師は患者の現状を、より詳細に把握することができます。

ディスカッション

医師サイドと看護師サイドが話し終わると、今度はディスカッションです。大きな目的としては

  1. 治療内容を確認・変更する
  2. 治療の方向性を共有する
  3. 看護師の疑問や不満を解決する
  4. まとめ

とう点にあると思います。

治療内容を確認・変更する

前チームから情報と看護師からの情報を元に、治療の妥当性を話し合います。

日本の集中治療室の中には、回診自体は比較的シンプルで、治療の詳細は一通り回診が終わってから練り直すことが多いように思います。しかし、RCHでは回診時にほぼ全ての治療を見直し決定してしまいます。呼吸や循環の確認だけでなく、回診時に全ての採血結果や培養結果を確認し、利尿剤や抗生剤の調整を行います。食事のカロリー計算や輸液量の調整についても、回診中にチェックし終わらせてしまいます。

基本的には、チームのトップが治療内容を決定していくことが多いです。しかし、人にもよりますし、文化の違いかもしれませんが、複雑な患者の治療プランになると、”Do you agree?”と聞かれることがあります。これ、意外に嬉しいんですよね。チームのトップに意見を聞いてもらえるという嬉しさ(→少しは参考にしてもらえるのかという思い上がり)と、単純に意見をできるチャンスでもありますので。

治療の方向性を共有する

前述のように(RCHのPICUの)特徴の一つに、回診時に短期・長期の治療プランをほぼ全て立ててしまうことがあります。

どのように鎮静薬を減らしていくのか、血管作動薬はどれからweaningしていくのか、いつ抜管する予定なのか、fluid balanceはどのくらいを目標にするのか、栄養がうまくいかない場合はどうするのか、いつ頃の退室を考えているのか、どれが失敗した時点で再手術を考えるのか、、、

などなど、治療の方向性を担当看護師と一つ一つ確認していきます。

ちなみに、RCHでは看護師が鎮静薬の適宜bolusや、人工呼吸器のweaning、血管作動薬の調整を自己判断で行っています。ですので、自分たちの意図と違う方向に向かわないよう、こちらからあらかじめDo/dontを伝えておく必要があります。

看護師の疑問や不満を解決する

多くの看護師は、たくさんの疑問を抱えています。回診は、それを解決するとてもよいチャンスです。中には疑問を紙に羅列して待っている人もいます。

“Do you have any question?”と聞いても良いですが、個人的には”Are you happy?”は秀逸だと思っています。”Any question?”と聞かれると「べつに」となってしまいますが、”happy?”と聞かれると、少しでもモヤモヤしたものがあれば”no”となり、質問されやすくなります。

まとめ

以上が終われば、最後にもう一度今日すべきこと・変更したことを再確認します。医師チームの代表が、一つ一つ指折りで確認し、チームと看護師で共有に違いがないか最終確認を行います。

患者一人当たり10-20分

回診中の以上のような流れは、完全な「型」として浸透しています。結構濃厚ですので、安定している患者であっても一人当たり10-20分は平気でかかります。10人患者がいるとすると、一通り回診が終わるのに2〜3時間、場合によっては4,5時間かかることもあります。

今ふと、飯塚病院での研修時代の回診を思い出しました。ストイックな先生のチームの時は、回診に6〜9時間かかっていましたね。夜の8時に一回目の回診が終わり(もちろん飯なし)、チームでまとめをした後、気になる患者の2回目の回診を行っていたため、日々の解散時間が日を越えていたのも、今となっては良い思い出です。あれも確かに濃厚な回診でしたが、実は病棟間の移動や他の仕事が大きかったように思います。薬や輸液のオーダーも、看護師に頼めず、研修医である自ら、違う建物の薬局まで取りに走ってましたね。。

一方、基本的にはRCUのPICUはone floorですし、移動用パソコンとともに回診するので検査結果の確認やオーダーのためにナースステーションに帰るという手間もありません。それでも最初の回診だけで2〜4時間かかるというのは、やはり濃厚な回診なんだと思います。

まとめ

今回は、オーストラリアでの集中治療室の回診の様子をシェアしました。もちろん、これがベストではありませんし、文化の違い(特に看護師の役割の違い)から来るものも多々あると思います。しかし、治療方針の明確化やチームとしての情報の共有、そしてそれが個々の医師・看護師のレベルや人格によって大きく左右されないという点については、日本よりもとても進んでいる印象を受けました。

ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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  1. […] 麻酔薬の次は、血管作動薬です。カテコラミンさえも、看護師が調節できます。もちろん、カテコラミンの使い方なんて、医師の間でもかなり個人差・好き嫌いがありますよね。ですので、勤務開始の回診時には予めどのカテコラミンから減らして欲しいのか、血圧が低くなったらどのカテコラミンを増やして欲しいのかを医師サイドから伝えておきます。その指示範囲内であれば、看護師が血管作動薬の増減を自己判断で行うことができます。 […]

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