RCHの臨床

海外における小児の循環作動薬

先日、このブログを読んでくださっている先生から記事のリクエストがありました。それは、「小児における心血管作動薬の使用に関して、海外での実態が知りたい」というものでした。

心血管作動薬に関しては、それぞれの薬剤に関して(成人を含めると)様々な研究が行われていますが、大した有意差のない研究結果も沢山あります。また、negativeな結果が示された薬剤であっても、施設や医師によってはその薬剤を使い続けている場合もあると思います。そのため、心血管作動薬の選択については、医師・施設間の差が大きいと予想されます。

いわゆる「エビデンス」に沿わない医師を批判している訳ではありません。例えば、そもそも小児心臓領域での質の高いエビデンスなんて殆どありませんし、個々の症例の差があまりにも大きいため、他の患者群の研究結果をそのまま適応できません。また、ある程度慣れた「少々劣っている治療や薬剤」を選択する方が、あまり使ったことのない「研究で良いと示された治療・薬剤」を試すより、患者予後が良いなんてことは現場ではよくあることです。

そこで今回は、海外での小児集中治療領域における循環作動薬の使用実態について、記事を書きたいと思います。エビデンス的な内容を述べるつもりは全くありません。ただ、私の個人的な印象だけ書くのもつまらないので、世界中から小児集中治療医が集まるオーストラリアのRoyal Children’s Hospital (RCH)の小児集中治療室(PICU)で働く医師を対象としたアンケートも行い、それに関してコメントを付け加える形にしました。

それでは、ご覧ください。

アンケート

RCHのPICU

Questionnaireと称して、Royal Children’s Hospital (RCH)の小児集中治療室(PICU)に勤務する医師にアンケートを行いました。

RCHのPICUは少し特殊な環境で、世界中から小児集中治療医が集まります。特にfellowやregistrarは、トレーニングを受ける側として勤務していますが、海外(オーストラリア国外)では既にコンサルタント(指導医)であることが少なくありません。そのため、同部署のfellowやregistrarの年齢層は高く、多くの経験や知識を持ち合わせています。また、彼ら彼女らのバックグラウンドは様々で、小児科医、内科医、外科医、麻酔科医、成人集中治療医など、「人種のるつぼ」ならぬ「医師のるつぼ」状態となっています。しかも、fellowやregistrarは6ヶ月〜1年単位で入れ替わることが多く、その意味でも「外部の風が入りやすい」と言えます。

このような理由から、RCHのPICUで働く医師を対象としたアンケートは、単なる一施設を超えた、それなりに意義のある結果かもしれません。

方法

アンケート方法を簡単に述べますと、以下のようになります。

  • 対象:RCHのPICUで働くfellowとregistrar(+consultant)の中で、小児集中治療領域にある程度の経験があると自己評価する医師
  • 時期・期間:2020年9月末の1週間
  • 方法:メール+紙面
  • それぞれの循環作動薬に関して、”Quite often”, “Often”, “Sometimes”, “Less often”, “Almost never”の5段階で評価。
  • 注意点:循環作動薬について、施設の方針ではなく「個々の好み(preference)」を書くよう依頼

結果、1週間という短期間に20名の小児集中治療医から回答を頂きました(私の回答は除きました)。ちなみに、回答してくれた医師達がこれまで勤務したことのある小児集中治療室は、9ヶ国、27施設にも及びました(自己申請)。

  • Princess Margaret Hospital (Australia)
  • Fiona Stanley Hospital (Australia)
  • Royal Children’s Hospital (Australia)
  • Sydney Children’s Hospital (Australia)
  • Westmead Children’s Hospital (Australia)
  • Women’s and Children’s Hospital (Australia)
  • Red Cross Children’s Hospital (South Africa)
  • Starship Children’s Hospital (New Zealand)
  • Leeds General Infirmary (United Kingdom)
  • Birmingham Children’s Hospital (United Kingdom)
  • Our Lady’s Children’s Hospital at Crumlin (Ireland)
  • Great Ormond Street Hospital (United Kingdom)
  • Royal Brompton Hospital (United Kingdom)
  • Rigshospitalet, Copenhagen (Denmark)
  • Hillerød Hospital (Denmark)
  • Herlev Hospital (Denmark)
  • Shizuoka Children’s Hospital (Japan)
  • Saitama Medical Center (Japan)
  • Strollery children (Canada)
  • Kuwait Chest Disease Hospital (Kuwait)
  • Apollo children, Star Children hospital (India)
  • Queensland Children’s Hospital (Australia)
  • Birmingham Children’s Hospital (United Kingdom)
  • Evelina Children’s Hospital London (United Kingdom)
  • Monash Children’s Hospital (Australia)
  • Canberra Hospital (Australia)
  • Bendigo Health (Australia)

(順不同)

結果

お待たせしました。結果は、以下のようになりました。

では、それぞれの循環作動薬について見ていきましょう。

心血管作動薬の使用頻度

アドレナリン

80%以上の小児集中治療医が”Quite often” を選択し、”Often”も合わせると100%に達しました。心血管作動薬の中で最も使われている薬剤であり、小児集中治療医にとってかなり使用の閾値が低い結果となりました。昇圧剤の第一選択に入れる医師もかなり多いのでしょう。

私の場合、アドレナリンは”Often”に分類すると思います。第一選択ではありませんが、第二選択には入ってきます。私はそもそも成人ICUをしていましたが、成人ではアドレナリンを使う頻度は(例えばノルアドレナリンと比べると)そこまで高くありませんでした。できることならアドレナリン無しで管理したい、そう思っていました。しかし、日本でも海外でも、小児に関しては比較的アドレナリンを使う頻度が高い印象があります。アドレナリンにしてもドブタミンにしても、心拍出量がrate dependentである小児では理にかなった薬なのかもしれません。

RCHでは、先天性心疾患の人工心肺立ち上げの第一または第二選択にする麻酔科医も多いですし、術後PICUでもRisk Adjustment for Congenital Heart Surgery (RACHS)で高リスクに分類されるような患者では、心機能補助のため「とりあえず」少量で流れているケースもちらほら見られます。

ノルアドレナリン

アドレナリンに負けず劣らず、かなり使用頻度が高いですね。70%以上の小児集中治療医が”Quite often”と回答し、”Quite often” と”Often”も合わせると95%にも及びました。

確かにRCHではノルアドレナリンの使用頻度はかなり高いです。これは、私がオーストラリアに来てから個人的に最も驚いたことの一つです。私が小児心臓麻酔のトレーニングを受けた日本の施設では、この領域の日本のドンである某先生の「小児は血管が締まり易いから、拡げる努力をしなさい」という教えがありました。勿論、敗血症などは別ですが、基本的には末梢を締める薬剤は殆ど使わず、人工心肺でもchlorpromazineといったα遮断薬を用いてまで末梢を拡張しようとしていました。ですので、私の中ではノルアドレナリンは”Sometimes”か”Less often”に分類するような薬剤でした。そのため、RCHに来た時にかなりの頻度でノルアドレナリンが使用されているのを見て驚いた記憶があります。

成人ICUではノルアドレナリンの使用頻度はかなり高と思います。今回のアンケート結果は、鎮静薬などで血管が拡張していると判断すれば、小児であっても成人と同じような感覚でノルアドレナリンを使っている人が多いということではないでしょうか。

ドパミン

アドレナリンやノルアドレナリンと異なり、多くの小児集中治療医がドパミンを使っていないようですね。アンケートによると、60%以上が”Almost never”を選択し、”Less often”と合わせると80%以上になります。

私が研修医だった頃はまだまだドパミン全盛期でした。しかし、徐々に臨床研究におけるドパミンの旗色が悪くなり、使用する頻度は減ってきました。私がいた日本の施設でも、10年前までは小児心臓手術の立ち上げではドパミンが第一選択でした。しかし、当時心臓血管外科教授であった佐野俊二先生(←「Sano shunt」を世に広めた人ですね)の「海外ではそんなの使わないんだよ」という鶴の一声で、成人だけでなく小児領域でも当施設から排除されてしまいました。

ただし、ドパミンを使っている日本の施設は未だ多いのではないでしょうか。個人的には、何が何でも使うべきでない薬だとは思っていませんが、研究結果を臨床に適応するのであれば、使用頻度は自ずと低くなるかもしれません。

ドブタミン

今回のアンケートで、最も票が割れた薬剤ではないでしょうか。”Quite often”から”Almost never”まで、ほぼ均等に分布しています。

RCHでは、特に麻酔科医が好んで使っている印象があります。人工心肺立ち上げの第一選択に据える麻酔科医が多く、必要ならアドレナリンを追加(またはアドレナリンが第一選択)といった使い方をしていることが多いと思います。やはり、どちらもその作用発現時間の短さが魅力なのではないでしょうか。

ミルリノン

アドレナリン、ノルアドレナリンの次に使用頻度が高い薬剤のようです。半数が”Quite often”を選んでいます。

私のいた日本の施設では、前述の通り小児心臓外科術後の立ち上げからドパミンが排除されて取って代わったのがミルリノンでした。そのため、人工心肺離脱の第一選択薬として使われています。一方、RCHでは前述の通りドブタミン(またはアドレナリン)が好んで使われており、手術室でミルリノンが使用されることはあまりありません。しかし、PICUに帰ってきた後に小児集中治療医によって追加、またはドブタミンからミルリノンに変更されることが多いようです。

ミルリノンは”lucytropy”に分類される薬剤ですが、RCHではミルリノンは両心室の後負荷軽減が主な目的として使用されています。良くか悪くか、「ミルリノンからカプトプリルへconversion」といった言葉さえ聞こえてきます。昇圧どころか降圧が目的になり、0.5 mcg/kg/minまでなら病棟で使用することもできます。

オルプリノン

私が昔よく使っていたのでアンケートに載せましたが、国際的な小児集中治療医の間では殆ど使用されていませんね。ミルリノンと作用や適応が重なるため、そもそも薬剤が置いていない施設も多いのではないでしょうか。

バゾプレッシン

バゾプレッシンも、よく使う医師から殆ど使わない医師まで様々のようです。

個人的には、アドレナリン・ノルアドレナリンでも血圧が保てないような場合にバゾプレッシンを使用することが多いですが、RCHでも同じような使い方をしています。

カルシウム

“Quite often”は10%程度しかいませんが、”Often”と”Sometimes”を合われると75%程度に上ります。

カルシウムは小児、特に新生児の心血管収縮機能やトーヌスに大きく関わると言われており、私が在籍していた日本の施設では、小児心臓外科術中・術後患者に対し、カルシウムをボーラス・持続投与ともに頻用していました。私としては、”Quite often”に入れるような薬剤ですが、近年の「小児であってもそこまでカルシウム濃度を上げなくて良い(上げない方が良い?)」という研究結果も踏まえると、このような結果になるのは妥当なのかもしれません。

レボシメンダン

カルシウム感受性を増強し心収縮を増強する薬剤として、海外では古くから用いられている薬剤です。数多くの研究が行われてきましたが、これと言って決定的に有効とは示されていません。しかし、施設によっては今も根強く使われています。今回の小児集中治療医アンケートにおいても、”Quite often”から”Almost never”まで様々な使用頻度の医師がいました。

日本では商品化されていないため、私も使用経験がありませんでしたが、RCHでは(急性期を除けば)そこそこ使われています。主な使用方法の一つは、”inotrope rotation“といって長期的に心機能のサポートが必要な患者に対し、レボシメンダンをその他の心血管作動薬(ミルリノンやドブタミン)と定期的にローテーションする際に使います。他にも、体外式膜型人工肺(ECMO)離脱時にその成功率を上昇させる為に使用されます。勿論ルーチンではありませんが、患者やコンサルタントの好みによって結構な頻度で用いられます。

まとめ

上記の結果とRCHでの傾向を簡単にまとめると、

  • PICU全般的に、アドレナリンとノルアドレナリンは頻用される。
  • 心臓外科では、術中(人工心肺離脱)にはドブタミン(またはアドレナリン)が使用される。
  • 術後になると、アドレナリン(INOVASOPRESSOR)、ノルアドレナリン(ino-VASOPRESSOR)、ミルリノン(ino-DILATOR)、時にドブタミン(INO-dilator)がそれぞれの症例によって使い分けられる。

といった感じではないでしょうか。

最後に

今回は、海外での小児集中治療室における循環作動薬の使用について、アンケートを元に解説しました。勿論、これが海外の実態を代表するものだとは思いません。それでも、世界のこども病院の中で5本の指の一つとして数えられるRoyal Children’s Hospitalの、各国から経験のある医師達が集まるPICUでのアンケート結果は、それなりに興味深い部分も多いのではないかと思います。

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ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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