小児心臓麻酔〜各論〜

文献レビュー:小児心臓術後の腹膜透析

今回は、小児心臓外科術後患者で度々用いられる腹膜透析(Peritoneal dialysis: PD)について、押さえておいた方が良い主な研究を紹介したいと思います。

はじめに

腹膜透析(Peritoneal dialysis: PD)は、小児において腎不全に対する腎代替療法の一つとして用いられてきました。また、小児心臓外科術後に関しても、輸液バランスを調整を始め、静脈圧上昇による腹水のコントロールや腹部コンパートメント症候群の予防、呼吸状態の改善といった目的で、使用されてきました。

一方で、PDによる濾過は他の腎代替療法と比較するとその効果は不安定であり、濾過不良による腹腔内圧上昇や呼吸状態悪化が危惧されます。また、PDカテーテル挿入自体も侵襲性があり、胸腔スペースへのリーク、高血糖、蛋白漏出による栄養不良、腹膜炎、低体温といった合併症を引き起こす可能性があります。

しかし、小児心臓外科術後患者に対するPD予防的使用に関しては、これまで施設ごとの方針に任せられてきました

研究紹介

Kwiatkowski DM et al. Improved Outcomes With Peritoneal Dialysis Catheter Placement After Cardiopulmonary Bypass in Infants. J Thorac Cadiovasc Surg. 2015.

要点

  • 後ろ向きcase-matched study、PDカテーテルが留置された心臓外科患者42名と、年齢で術式でマッチさせたPDカテーテルが留置されなかった42名
  • PD群は、術後1, 2日目のマイナスバランス、早期のマイナスバランス、早期抜管、心血管作動薬減少、電解質異常の減少と有意に関連。
  • 3名のみがPDに関連した副作用を認めた。

注意点

  • 年齢と術式をマッチさせただけの研究。両群でバイパス時間やクロスクランプ時間などに差がないと書いてあるが、検定されていない。表からはPDカテーテル留置群の方が(特に術中所見が)重症にみえる。しかし、多変量解析は行なわれず、単純比較のみ。
  • PDカテーテル留置の施設基準が書いてあるが、実臨床では術中所見から決めることも多い。すなわち、術中所見により今後の経過が不良であると予想されるからPDカテーテルを留置しているはずで、年齢と術式だけで患者背景をマッチできているとは考えづらい
  • PDカテーテルが留置されているだけで、どの程度実際にPDが施行されたかどうかは不明。

Ryerson LM et al. Prophylactic Peritoneal Dialysis Catheter Does Not Decrease Time to Achieve a Negative Fluid Balance After the Norwood Procedure. J Thorac Cardiovasc Surg. 2015.

要点

  • ランダム化比較試験、HLHSに対しNorwood手術を施行された新生児、n=22
  • 予防的PDカテーテル(n=10) vs. PDカテーテルなし(n=12)に振り分け。
  • マイナスバランスになるまでの日数(primary outcome)、正常乳酸値になるまでの時間、VIS最大値、胸骨閉鎖日、人工呼吸期間、病院滞在日数に有意差なし。PD群の中の4名で術後CPRが施行された(p=0.03)。

注意点

  • PD群に割り振られた中の4/10は、フリードレナージのみでPDを使用されておらず、PDの有効性を示すにはサンプル数として少なかった可能性。
  • 術後24時間以内のマイナスバランスに有意差を得るためのpower解析がなされているが、そもそもNorwood術後早期の過度のマイナスバランスは逆に危険。
  • PD群でCPRが有意に多いことに臨床的な原因を見出せない。PD群がそもそも重症であった可能性があると同時に、そのうち3名がECLSとなったにも関わらず人工呼吸期間やその他のアウトカムに両群で有意差がないという点に違和感あり。

Riley AA et al. Peritoneal Dialysis Does Not Adversely Affect Kidney Function Recovery After Congenital Heart Surgery. Int J Arif Organs 2014.

要点

  • ランダム化比較試験、生後90日以内、n=20、CPBを用いた先天性心疾患、術後PDで治療された患者を対象
  • PD離脱可能となった時点で、そのままPDを中止する群と、更に24時間継続する群にランダムに振り分け。
  • PD中止群の方が、平均尿量は有意に多い(@16h)が、合計のアウトプット(尿量+PD+ドレーン)は有意に少なく(@8h)、AKIのバイオマーカーにも有意差なし。

注意点

  • Primary outcomeとしての尿量の意義が不明瞭。輸液量によっても変化しうるし、腎障害のマーカーとしても弱い。輸液バランスの方がまだ臨床的。
  • 医療従事者にとっての両群でのブラインドが不可能である以上、投与する輸液量にも影響がでることが予想され、結果としてアウトカムである尿量にも影響がでるであろうことは想像に難くない。
  • PD離脱可能となった時点でのランダム化なので、輸液や尿量というよりは後々の腎機能や予後に与える影響をprimary outcomeにすべきではないのか。

Kwiatkowski DM et al. Peritoneal Dialysis vs Furosemide for Prevention of Fluid Overload in Infants After Cardiac Surgery. JAMA Pediatr 2017.

要点

  • ランダム化比較試験、CPBを用いた心臓外科術後、6ヶ月未満(中央値8日齢)、n=73、術後4時間乏尿となった患者
  • PD群 vs. フロセミド(1mg/kg q6h)
  • 術後初日のマイナスバランス発生率に有意差なし。フロセミド群で、10%以上のプラスバランス発生率が高く、人工呼吸器延長、血管作動薬使用期間、電解質異常が有意に多かった

注意点

  • 他の研究と異なり、術後ランダム時にPDカテーテルが留置されていない患者も含まれていると予想され、新たにカテーテルを挿入することも含めたPDの是非として研究を読むことができる。
  • 輸液バランスをアウトカムとするのであれば、フロセミドの持続投与という選択肢もあるはずだが、本研究ではボーラス投与のみ。術後1〜5日にかけて、投与量も3-4mg/kg/dayと多くない。
  • PD群の9/41は、胸腔との交通を理由にPDが使用されず、別の患者を新たにPD群として含んで解析している。PDを留置しても合併症が増えるだけで、使用さえできない患者が一定数いることが示唆される。

Sasser WC et al. Prophylactic Peritoneal Dialysis Following Cardiopulmonary Bypass in Children Is Associated With Decreased Inflammation and Improved Clinical Outcomes. Congenital Heart Dis 2014.

要点

  • Before-and-after study、CPB使用した心臓外科術後患者
  • PDカテーテルはドレナージのみで利尿剤を用いた患者27名(Before: 平均7日齢)と、術後すぐにPDを開始した25名(After: 平均10日齢)
  • 24, 48時間後の輸液バランスがPDを施行した群でよりマイナスに傾いており、血管作動薬が少なく、胸骨閉鎖が早まった

注意点

  • 前後研究であり、どうしても医療従事者による治療のバイアスが入りやすい。例えば、PD群の方が24時間の輸液量が少ないが、これには血行動態が安定しているから輸液量が少ないだけでなく、PD群で輸液バランスをマイナスに持って行きたいという意図があった可能性もある。
  • 両群ともにPDカテーテルは挿入されている。すなわち、予防的にPDカテーテルを挿入すべきかの研究ではない。実際、PDを使用していなくてもPD使用群と同程度のPD関連合併症あり。
  • サンプルサイズが小さいため有意差がでていないが、RACHS-1のスコアやNorwood手術件数など、PD群の方が軽症である傾向がある。

Namachivayam SP et al. Early Peritoneal Dialysis and Major Adverse Events After Pediatric Cardiac Surgery. Pediatr Crit Care Med. 2019.

要点

  • 後ろ向き研究、PDを留置された1歳未満の心臓血管外科患者、n=239
  • 早期(術後6時間以内)PD開始群(n=56)、後期(術後6時間以降)PD開始群(n=183)
  • PD早期開始群の方が、90日後のcomposite primary outcome(「心停止、緊急開胸、ECMO、死亡」のどれか)が有意に少なく、人工呼吸期間やICU滞在日数も短かった

注意点

  • PDを開始するかどうかは、術後の経過によって判断しているはずなのに、手術終了時の因子(年齢、CPB時間、体重、入室時乳酸値、RACHS-1)のみでしか調整していない。
  • したがって、PDが遅れたら予後が悪くなるのか、PDを開始しなければならないような状況が後期に発生した患者で予後不良なのか、不明
  • Composite outcomeに対してカプランマイヤー曲線を用いているが、competing riskである可能性。

ちなみに、このトピックに関して2019年にmeta-analysisが行われています(PMID 31929269)が、殆ど新しい情報がないため省いています。また、2019年の後ろ向き研究(PMID 31485107)もPDの有効性を評価した研究とは言い難いので省いています。

感想・まとめ

上記のように、「小児心臓血管外科術後のPD」というキーワードであっても、それぞれの研究の仮説や目的はかなり異なっており、(meta-analysisなどで解析することも含めて)一律に判断するのは難しいでしょう。そして、現時点で術後のPDを積極的に推奨・非推奨する強いエビデンスはないと思われます。

ただ、それぞれ研究としての欠点はあれど、上記の研究結果を参考にするのであれば、

  • RACHS-1のカテゴリー3〜6といった手術や、長時間のCPBといった術後経過に苦労しそうな症例では、手術時にPDカテーテルの留置をお願いする。
  • 乏尿などの所見があれば、早めにPDを開始する。
  • それによって、マイナスバランスや人工呼吸期間の短縮、心血管作動薬の減量が期待できるかもしれない。

といったところが現時点での落とし所でしょうか。

ちなみに、Royal Children’s HospitalにおけるPDの処方は、

  • 1.5 % dextrose (isotonic)
  • 10 ml/kg/cycle
  • 1時間サイクル(in/dwell 40min, out 20min)

を基本とし、

  • マイナスバランスを狙うなら1.5 % –> 2.3 % –> 4.25 %へ
  • 電解質などのクリアランスを上げたければ、dwell timeを短く(i.e. 30分サイクル)または20 ml/kg/cycleへ
  • 高乳酸患者では乳酸フリーの溶液を使う

といった感じで調整しています。

 

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ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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