以下、上室性頻拍(Supraventricular tachycardia: SVT)の管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。
総論
Tachyarrhythmiaは
- Supraventricular:atrial(心房性)とatrio-ventricular(AV nodeまたはAV node〜ヒス束分岐部)
- Ventricular: ヒス束の分岐部より下
に分けられる。今回は、このsupraventricularについてそれぞれ解説する。
房室結節からヒス束に向かって伝導が伝わるため、基本的にはnarrow QRSを呈する。しかし、元から右脚・左脚ブロックがある場合や、逆行性上室性頻拍(antidromic SVT)ではwide QRSとなることもあり、心室性頻拍との鑑別に苦慮することもある。
SVTへの診断には、心房心電図(atrial electrogram)が有用である。心臓外科術後患者でペーシングワイヤーが挿入されている患者では簡単に測定できるため、ぜひこちらを参照していただきたい。
SVTは、ある部位からの自発的興奮による”automatic”と、刺激や興奮がある回路内で回り続ける”reentrant”の2つに分けて考えることができる。以下、それぞれの特徴を表にして示した1)。
Automatic | Reentrant | |
頻脈開始と停止 | 徐々に始まり、徐々に治る | 突発的 |
契機 | 自発的 | 期外収縮 |
心拍数 | 様々 | 比較的狭い範囲で一定 |
カテコラミンへの反応 | 心拍数増加 | 反応なし or やや心拍数増加 |
アデノシン | 効果なし | 停止 |
オーバードライブペーシング | 一時的に抑制されるが、すぐ再開 | 停止 |
電気的除細動 | 効果なし | 停止 |
General rule
アデノシン、オーバードライブペーシング、電気的除細動は“reentrant”型に有効であり、どれもリエントリーの回路を断ち切り不整脈を停止させることを目的としている。
ただし、
- 心房細動:心房内の”reentrant”回路であるため、洞房・房室結節に作用するアデノシンは無効。また、オーバードライブペーシングも無効のことが多い。
- 心房粗動:心房内の”reentrant”回路であるため、アデノシンは無効。しかし、診断には有効。
※この他、automaticとreentrantの両方の特徴をもつ”triggered type“も稀に存在する。下記でautomaticに分類している不整脈(ex. AET)であってもtriggered activityが原因となることもあり、その場合はアデノシンやオーバードライブペーシングなどが有効なこともある2,6)。
Automatic tachycardia
心房頻拍(AET)
Atrial SVTの一つ。Focal atrial tachycardia (AT) / Ectopic atrial tachycardia (EAT) / atrial ectopic tachycardia (AET)などと呼ばれ、その興奮は洞房結節外の心房に由来する。”Automatic”型であるため、上表の通り心拍数は様々であるが、洞調律と比較するとその変動は小さい3)。
心電図上、洞調律のP波(IとaVFで上向きのP波)とは形や軸の異なるP波を見つけることで診断できる。また、PR間隔も洞調律とは異なることもある。
先天性心疾患術後に起こることもあるが、一時的・発作的であり、数日でそのような発作は起こさなくなることが多い。特にある特定の心臓手術との関連は示されていない1)が、SenningやFontan術後に多い印象がある。
鎮静、体温コントロール、電解質補正、交感神経刺激薬(カテコラミンなど)の減薬、βブロッカー、プロカインアミド、アミオダロン、ジゴキシンなどが有効である。
Examples of treatments for AET
1st beta blocker
2nd Sotalol
3rd Flecainide
4th Digoxin:特に心機能低下症例では良い適応。洞房結節・房室結節の不応期を延長させる。
多源性心房頻拍(MAT)
Atrial SVTの一つ。Multifocal atrial tachycardia(MAT)は、稀な”automatic”型の心房頻拍である1)。時に”triggered type”に分類されることもある。最低3つ以上の形態を持つP波が存在し、PR間隔やRR間隔も一定でない3)。
βブロッカー、 Ca拮抗薬、ジゴキシンなどが有効。
促進房室接合部調律
発熱や陽性変時作用薬、内因性カテコラミンなどによって接合部調律が刺激される(Accelerated junctional rhythm)。その名の通り房室接合部の興奮に由来し、narrow QRSをもつが、それに対応する先行P波は存在しない。心室拍数が心房レートよりも早く、心室と心房の興奮に乖離(VA dissociation)がある場合と、心室から心房に1:1で逆行性に伝導が伝わる(VA conduction)場合がある1)。房室接合部異所性頻拍ほど心拍数は高くなく、血行動態も安定していることが多い。
治療は、接合部調律の刺激となるような状態を改善させる。接合部調律よりも10〜20bpm早いレートで心房ペーシングを行うことで、心房と心室が同調し接合部調律を抑え込むことができる。
房室接合部異所性頻拍(JET)
Atrio-ventricular SVTの一つ。記事「房室接合部異所性頻拍(Junctional ectopic tachycardia: JET)」を参照のこと。
Reentrant tachycardia
心房粗動(AF)
Atrial SVTの一つ。Atrial flutter (AF)は、心房内でのリエントリー回路(macto re-entry)に起因し、いわゆる「のこぎり歯状(鋸歯状波)」を示す不整脈。
心房に大きな縫合線を残す場合(ex. SenningやMustard手術)や、心房が拡大する(ex. Fontan手術)後に発生しやすい1)。
アデノシン、オーバードライブペーシング、電気的除細動(0.5J/kg2))に関しては、上記の「general rule」の通り、基本的には有効。ただし、アデノシンは心房内のリエントリー回路であることから治療関しては無効である一方で、房室結節の伝導を阻害することでAFの診断に役立つ。
その他、プロカインアミド、アミオダロン、ジゴキシンなどが有効である。
心房細動(af)
Atrial SVTの一つ。Atrial fibrillation (af)は、多数の”reentrant”回路(micro re-entry)または肺静脈の興奮発火点をもつ心房性不整脈である。
“reentrant”回路や興奮発火点が多数あるため、アデノシンやオーバードライブペーシングは無効であることが多い。一方、電気的除細動(1-2J/kg2))は有効。
その他、βブロッカー、プロカインアミド、アミオダロン、ジゴキシン(expect in WPW syndrome)などが有効である。
房室回帰性頻拍(AVRT)と房室結節回帰性頻拍(AVNRT)
Atrio-ventricular SVTの一つ。
Atrioventricular reentrant tachycardia (AVRT)
幼少期に最も多いSVT(小児のSVTの80%)で、心房と心室を結ぶ副伝導路を介した”reentrant”型の不整脈である。
- Orthodromic:SVT時には、洞房結節を順行性(antegrade:「心房→房室結節→ヒス束→心室→副伝導路→心房」:デルタ波なし)に廻る。一般的。房室結節を順行性に伝導するためnarrow QRSとなり、房室結節よりも伝導の早い副伝道路を逆行するため、QRS波後のP波は比較的早く、P波はQRS波のすぐ後(典型的にはT波の始まり)同時に存在する3)。
- Antidromic SVT:洞房結節を逆行性(retrograde:「心房→副伝導路→心室→房室結節→心房」:デルタ波あり)に廻る。稀。房室結節を逆行性に伝導するためQRSは比較的広く、伝導も遅いためQRS波後のP波は比較的遅い。
WPW症候群では、(SVTのない)通常時には副伝導路を下行するためデルタ波が見られるが、Concealed accessory pathwaysではその名の通り通常は副伝導路を下行せず「隠れて」いるため、非発作時にはデルタ波はない3)。
Atrioventricular nodal reentry tachycardia (AVNRT)
思春期や若い成人に多く、房室結節内に二つの伝導路が存在し、それらを介して「心房→房室結節→心室→房室結節→心房」と廻る”reentrant”型の不整脈である。房室結節内のslow limbを下行しfast limbを上行するorthodromicと、逆パターンのantidromicが存在する。どちらもQRS幅は狭い。Orthodromicでは房室結節内から発せられた興奮が心房心室同時に伝わるため、P波はQRS波と重なってしまい判断できないことが多い1,3)。
上記の「general rule」の通り、アデノシン(多くは第一選択。洞房結節の興奮が順行性でも逆行性でも伝導を抑制し、効果あり)、オーバードライブペーシング(下記参照)、電気的除細動(0.25J/kg2))が有効。また、βブロッカー(短時間作用型のesmolol持続投与、metoprololボーラス、Kチャネル遮断作用もあるsotalol、など)、フレカイニド、プロカインアミド、アミオダロンなどが使用されることもある。
Examples of treatments for AVRT/AVNRT
1st Adenosine, overdrive pacing (, DC)
2nd Adenosineが一時的な効果のみであった場合は、βブロッカーや鎮静薬を投与した上でadenosineを投与する。βブロッカーは副伝導路をやや抑制するだけでなく、AVRT/AVNRTの契機となるような期外収縮も抑えてくれる。
Pre-excitation syndrome4, 5)
洞房結節の伝導を抑制するジゴキシン、カルシウム拮抗薬といった薬剤は、心房細動時には副伝導路を介した伝導が主となり、心房細動や心房性期外収縮からAVRTや心室細動を引き起こす可能性がある。そのため、pre-excitation syndromeに対してはジゴキシンとカルシウム拮抗薬の使用は控えるべきである。
一方、アデノシンも同様であり、かつ使用後の交感神経刺激作用により心房細動を引き起こすことがあり、副伝導路を介した1:1伝導により心室性不整脈となることがある。そのため、除細動器といった適切な準備を行った上で投与すべきである。
参考:経食道ペーシング
ちなみに、オーバードライブペーシングは、術後心房ペーシングワイヤーが入っていればそちらを用いることが可能であるし、無い場合でも経食道ペーシングを使用することが可能である。
適応は、上記「general rule」の通り”reentrant”型。「経口または経鼻が可能」とあるが、カテーテルが硬く、一時的であれば経口の方が好ましい。カテーテル先端(より少し手前)にある電極を心房の近く位置させることが必要である。目安は体重4kgで深さ10-11cm程度であるが、心房心電図(atrial electrogram)の双極(bipolor AEG)と同様の方法でペースメーカー本体に接続し、最も感度の良いところを探す、という方法をとれば確実である。
初期設定については上記スライドの通りである。 Amplitudeとdurationの積(面積)はpowerとなるため、ペーシングがcaptureできない場合はdurationを上げていけばよい。
ちなみに、ペーシング不全の二大理由は、電解質異常と抗不整脈薬である。オーバードライブペーシングを施行する前に必ず電解質異常は補正しておく。
References
- Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
- Srinivasan et al. Indian Pacing Electrophysiol J. 2019 Nov-Dec;19(6):222-231.
- Kothari DS et al. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2006 (PMID 16492952).
- Babayigit et al. Cardiology. 2020 (PMID 32610313).
- Helton. 2015 (PMID 26554472).
- Engelstein ED, et al. Circulation. 1994. PMID: 8205677.
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] 上室性頻拍(Supraventricular tachycardia) […]
[…] Automatic SVTであるためアデノシンは無効。ただし、診断に使われることはある。Atrial ECG下でアデノシンを投与すると、VA conductionの減少やsinus bradycardiaによってP波のみが少なくなることが観察できる。 […]