以下、大動脈弁上狭窄症(Supravalvular aortic stenosis)の周術期管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。
解剖・分類
左室流出路狭窄の最も稀なタイプで、先天性心疾患の0.05%以下である1)。ただし、Williams-Beuren症候群(Williams症候群)はエラスチン遺伝子(ELN)異常に起因し、患者の三分の二が大動脈弁上狭窄症となる1)。
病態生理
流出路狭窄はバルサルバ洞の上部で上行大動脈が狭窄し、典型的には砂時計型の形となるが、上行大動脈全体のびまん性狭窄や、洞上行大動脈移行部の半円形狭窄といった型もある1)。大動脈弁上狭窄症は進行性で通常は乳児期以降に診断されるが、Williams症候群ではより早期に症状を呈する。また、Williams症候群は、左冠動脈の入口部やびまん性狭窄を伴うことがある1)。
Williams症候群はエラスチン動脈疾患であり、大きな動脈壁のエラスチン欠乏と、コラーゲン増加、平滑筋細胞の肥大化が特徴である1)。そのため、肺動脈狭窄症も全体の30%で認められ、両心室肥大となる2)。大動脈弁上狭窄症の50%で、大動脈二尖弁や大動脈弁狭窄症の合併が認められる。左室求心性肥大は心筋虚血を引き起こし、冠動脈狭窄によって増悪する。突然死のリスクは、その他の孤立性大動脈弁上狭窄症と比較し、Williams症候群では有意に高い1)。
軽度の大動脈弁上狭窄症では、時間経過とともに全体の16%の患者で自然に改善し、全体の12%が完全に消失する3)。
方針
最大圧較差が20 mmHg未満の患児では通常介入を要さないが、75 mmHgを超えると手術適応となる1)。
術式としては、パッチを用いた動脈形成術(ex. Doty’s method: 無冠尖と右冠尖のバルサ ルバ洞に逆Y字型のパッチをあてて拡 大する弁上部狭窄を解除5)) 、端々吻合を用いた狭窄輪の切開、またはRoss/Ross-Konno手術などがある。冠動脈入口部の狭窄や肺動脈狭窄症を合併している場合は、それぞれに対して治療を行う1)。
術前チェック項目
心エコーでは
- 上行大動脈の圧較差:狭窄の重症度
- 大動脈弁:50%で大動脈二尖弁や大動脈弁狭窄症を合併
- 肺動脈の大きさ:Willams症候群では肺動脈狭窄を合併
- 冠動脈の評価:Willams症候群では冠動脈入口部の狭窄を合併
を評価する。
周術期管理
大動脈弁上狭窄症の麻酔管理は、大動脈弁狭窄症と似ているため、そちらを参照。
ただし、Williams症候群は左室肥大、右室流出路狭窄、冠動脈疾患などを合併するため、麻酔関連合併症のリスクが有意に高い。多くの合併症は心筋虚血に起因するため、後負荷をやや高めに保ち冠動脈灌流圧を保つことは非常に重要である。Williams症候群は小顎、歯の不正咬合、広い歯間、平らな鼻梁といった顔貌が特徴で、換気困難、挿管困難といった麻酔合併症が顔面形成異常によりおこりうる。また、脂肪沈着による異常な骨格筋組織の発達により筋弛緩薬への感受性が増加するため、筋弛緩モニターの使用が推奨される4)。
References
- Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
- Pober et al. J Clin Invest. 2008 (PMID 18452001)
- Mitchell et al. Semin Thorax Cardiovasc Surg Pediatrics Card Surg Annu. 2011 (PMID 21444053)
- Lashkari et al. Clin Pediatrics. 1999 (PMID 10326175)
- Doty DB et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1977 Sep;74(3):362-71. PMID: 142867.
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