肺血流と体血流の比である「Qp/Qs」は、先天性心疾患の酸素の需要供給バランスを考える上で大切な概念であり、Fickの原理を用いて計算される。
Fickの原理
Fickの原理とは、
『ある器官が物質を摂取(または供給)するとき、その器官が一定時間内に摂取(または供給)する物質の量を、その器官への流入血液の物質の濃度と流出血液の物質の濃度の差で割ることにより、血流量を計算できる』
というものである。
Fickの原理とQp/Qs
計算式
この原理を用いると、体循環への心拍出量(Qs)と肺循環への心拍出量(Qp)は、以下のように表すことができる。
- Qs = cVO2 / (CaO2 – CvO2)
- Qp = sVO2 / (CpvO2 – CpaO2)
※cVO2: 全身酸素消費量、sVO2: 肺酸素取り込み量、CaO2:動脈血酸素含量(ml/dL)、CvO2:体静脈血酸素含量(ml/dL)、CpvO2:肺静脈血酸素含量(ml/dL)、CpaO2:肺動脈血酸素含量(ml/dL)
定常状態では肺における酸素の取り込み(sVO2)と全身組織における酸素の消費(cVO2 )は等しい(=VO2)とすると、Qp/Qsは以下のように計算できる。
Qp/Qs = (CaO2 – CvO2) / (CpvO2 – CpaO2)
≒ (SaO2 – SvO2) / (SpvO2 – SpaO2) (血液の溶存酸素を無視)
Cf. 混合静脈血
SvO2は混合静脈血を表すが、静脈血の全てが完全に混和する部位での酸素飽和度のことである。そのため、理論的には上大静脈や下大静脈だけでなく、冠静脈洞からの静脈血も合流した後の血液酸素飽和度が必要である。しかし、心内シャントがある先天性心疾患では、冠静脈洞からの静脈血だけでなくシャントを介した動脈血が流入することがあり、本当の混合静脈血を知ることができない。そのため、上大静脈からの中心静脈血酸素飽和度で代用することが多い。
使い方
例えば、心室中隔欠損孔の閉鎖術を施行し、人工心肺離脱後の経食道心エコーで残存病変がみられた場合、術野で肺動脈血(ex. SpaO2 = 0.8)を、麻酔科側から動脈血(ex. SaO2 =1.0)と中心静脈血(ex. SvO2 = 0.65)を採取し、肺静脈血の酸素飽和度(SpvO2)を100%と仮定できれば、上記の計算式からQp/Qsを術中に計算することも可能である。
Ex. Qp/Qs = (1.0 – 0.65) / (1.0 – 0.8) = 1.75
Glenn術後のQp/Qs
Glenn手術とは、下大静脈の血流は心臓に直接還流させる一方、上大静脈を肺動脈に結合させて肺血流を得る手術である。ここでは、Glenn循環のQp/Qsを計算する方法を述べる2)。
まず、Glenn循環では体循環への心拍出量(Qs)は、肺血流(Qp)と下大静脈から血流 (Qivc)の和となるため、以下のような等式で表すことができる。
- Qs = Qp + Qivc
酸素運搬量は、(溶存酸素を無視すると)ヘモグロビンの酸素結合能力・酸素飽和度・血液流量の積で表すことができるため、
- 全身酸素運搬量 = Hb * 1.39 * SAsat * Qs
- 肺静脈酸素運搬量 = Hb * 1.39 * PVsat * Qp
- 下大静脈酸素運搬量 = Hb * 1.39 * IVCsat * Qivc
※SAsat:体動脈の酸素飽和度、PVsat:肺静脈の酸素飽和度、IVCsat下大静脈の酸素飽和度
となり、Glenn循環であることから、以下の等式が成り立つ。
- 全身酸素運搬量 = 肺静脈酸素運搬量 + 下大静脈酸素運搬量
以上を用いて計算すると
Qp/Qs = (SAsat – IVCsat) / (PVsat – IVCsat)
がGlenn循環におけるQp/Qsとなる。
References
- Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
- Salim MA, et al. J Am Coll Cardiol. 1995 Mar 1;25(3):735-8.
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