左冠動脈肺動脈起始症と周術期管理

以下、左冠動脈肺動脈起始症(Anomalous left coronary artery arising from the pulmonary artery: ALCAPA)の周術期管理について、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。

目次

解剖・分類

左冠動脈肺動脈起始症(Anomalous left coronary artery arising from the pulmonary artery: ALCAPA)は、その名の通り、肺動脈から左冠動脈が起始している状態である。

※右冠動脈が肺動脈から起始する右冠動脈肺動脈起始症(Anomalous right coronary artery arising from the pulmonary artery: ARCAPA)も存在するが、ALCAPAと比較し頻度が少なく、右室の酸素需要・供給に関しては左室より影響が少ない1)

病態生理

その病態は、肺血管抵抗と肺動脈圧の変化によって変化する。

新生児早期は肺血管抵抗と肺動脈圧が高く、左室への冠還流は保たれる。確かに混合静脈血の酸素飽和度、すなわち肺動脈から流れる冠血液の酸素飽和度は比較的低いが、左室機能にとっては十分なレベルである1)

肺血管抵抗と肺動脈圧が低下するに従って、ALCAPA血管内の血流は逆転し、冠血流が肺動脈へ流れる冠動脈盗血(coronary artery steal)現象が起き、左室灌流が悪化し、心室虚血となる。左室機能が低下することで左室拡張末期圧が上昇し、冠灌流圧が更に低下する。

一般的に、収縮期は左室内圧が上昇し冠灌流が阻害されるため、左室の冠灌流は拡張期が主である。一方、右室の冠灌流は、収縮期と拡張期に依存する。

左室機能悪化により左室は拡張し、心室中隔は右室側へシフトし右室機能を悪化させる。僧帽弁輪の拡張と虚血により僧帽弁逆流が起こり、更なる左室機能悪化と肺うっ血を引き起こす。一般的には、生後数週から数ヶ月時に、拡張型心筋症を呈するような病歴となる1)

一概にALCAPAといっても、冠血流のバランス(左右の冠動脈の優位性)やALCAPA血管の狭窄などによっても、その症状や時期は様々である。例えば、右冠動脈が心室中隔や左室にも灌流している場合は、心筋障害は比較的軽度になり、症状の出現時期は遅くなる。また、ALCAPA血管が狭窄している症例でも、盗血の程度は軽度となり右冠動脈から左心への側副血行が発達する。ただし、症状出現が遅くなると、長期間の虚血により繊維化が進み、修復後の心室機能回復が障害され長期予後が悪くなると言われている1)。一方、ALCAPA血管による灌流が優位である場合、早期に心筋障害を呈し、修復術後の回復は良好である。しかし、早期に症状を呈した一部の患者では、完全に虚血となり回復が難しく、左室瘤の形成といった合併症を呈することもある1)

方針

基本的には、外科的にALCAPA血管を介した冠血流を再建する。

  • ALCAPA血管を肺動脈から切離し大動脈へ接合する方法
  • 外科的にaortopulmonary windowを作成し、肺動脈内にバッフルを用いて大動脈からALCAPA血管に血液を流す方法(Takeuchi procedure)2,3)

などが施行されている。

 文献5)より

術前チェック項目

心エコーでは、

  • 左室機能:盗血により障害
  • 僧帽弁:左室の拡張や虚血による僧帽弁逆流症を合併。同時に介入が必要となることも3)

をチェックする。

周術期管理

術前・術中管理

心筋障害の程度が、周術期の管理に大きく影響する。術前に呼吸循環補助の不要な患者から、体外式膜型人工肺(ECMO)が必要な患者もいる。

理論上は、心室機能障害と僧帽弁逆流のある患者に対しては、全身血管抵抗を減らすことで心拍出量が増加するはずであるが、重度の機能不全の場合は血管収縮薬によって改善する症例もある1)。すなわち、血管が拡張し過ぎて低血圧・頻脈となり、冠灌流が障害されているような症例では、血管収縮薬により血圧や心拍数、冠灌流をが改善することもある。

麻酔導入に関しても、薬剤による交感神経系や心血管への些細な影響が心停止へと繋がることを意識する必要がある。外科医やポンピストとの密なコミュニケーションや連携が大切である。

術前は肺うっ血の管理により脱水気味になっているため、麻酔と同時にある程度の輸液負荷が必要となることがある。基本的には冠盗血を防ぐために肺血管抵抗を上昇させる管理高酸素を避け、正常から高二酸化炭素とする)が必要となる。肺うっ血により肺のコンプライアンスは悪く、高い吸気圧やPEEPが必要となるが、肺血管抵抗を上昇させるという点においては有効である。

人工心肺離脱後

大動脈遮断解除後、心筋の回復には時間がかかる。体外循環補助への閾値は低くあるべきで、施設によっては殆どの症例で開胸のままcentral ECMOに変更し集中治療室に入室させるところもある。

術後管理

術前の問題である左室機能障害や僧帽弁逆流症、冠灌流不全が術後も問題となる。また、左室の期外収縮や心室性不整脈も問題となる。

障害されていた左室機能は、数ヶ月単位で改善していくことが多い3)。長期的には僧帽弁の修復や、Takeuchi手術後の肺動脈狭窄やバッフル部位のリークなどに対する再手術が必要となる症例がある3,4)

References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Takeuchi S, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1979 Jul;78(1):7-11. PMID: 449387.
  3. Naimo PS, et al. Ann Thorac Surg. 2016 May;101(5):1842-8. Epub 2016 Feb 18. PMID: 26897320.
  4. Ginde S, et al. Pediatr Cardiol. 2012 Oct;33(7):1115-23. Epub 2012 Mar 22. PMID: 22438016.
  5. Hirai T, et al.  Catheter Cardiovasc Interv. 2020 Apr 1;95(5):920-923. PMID: 31250510.
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