小児心臓麻酔〜各論〜

小児のECMO〜総論〜

以下、小児のextracorporeal membrane oxygenation (ECMO)について、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項を解説します。

はじめに

下の図は、心疾患のある新生児に対しECMOを使用した症例数を、棒グラフで表したのもである。このように、新生児においてECMO件数は年々増加している。

小児においてもECMOが身近な存在になりつつあるため、今回は小児におけるECMOの総論について解説する。

適応と禁忌1)

適応

小児に対するmechanical circulatory support (MCS)の適応は、大きく心臓外科関連とそれ以外に大別することができる。

心臓手術関連

特に小児の心臓手術を行っている施設では、心疾患に対する周術期のECMOが多い。周術期の低拍出量症候群や呼吸不全、低酸素や心停止など、患者の状態やタイミングによっては、ECMOが考慮される。最近では早めにかつ積極的にECMOを使用することで、患者予後が改善する可能性が示唆されている2,3)

心臓手術以外

心臓手術以外でも、心血管疾患や呼吸器疾患、時に敗血症であってもECMOの適応となることがある。

禁忌

基本的には、延命でなく可逆性の疾患(や移植医療)、そして回復後ある程度の生活の質が見込まれる症例に対して用いられる。従って、不可逆的な中枢神経傷害や致死的な疾患は、ECMOの適応とはならない。

また、体外循環の使用では常に出血のリスクが付きまとう。Grade 3,4の脳室内出血やコントロール不能の出血では、ECMOを用いることができない。未熟児や低出生体重児では、体外循環の使用により頭蓋内出血のリスクが高まるため、上記のように34週を目安にする場合や、32週以下を絶対禁忌36週以下を相対禁忌(gray zone)とする施設もある。

低体重児ではECMOの流量として使用が難しい場合がある。例えば、血栓なく安全に使用できる最低流量が400ml/minの機器で、150ml/kg/minの流量を確保するためには、400/150=2.66kgが臨床上問題なく管理できる最低体重であるとも言える。

回路

基本的なECMO回路は、

『体内から血液を脱血 → ポンプ → 人工肺・熱交換器 → 体内へ送血』

で構成される。以下、ポンプと人工肺について解説する。

ポンプ

血液を送り出すポンプには、ローラー型と遠心型が存在する。ローラー型は文字通りローラーによってチューブを圧迫し、ローラーの回転によって血液を送り出すシステムである。前負荷・後負荷に依存しない安定した流量が確保できるが、血液損傷やキャビテーション(陰圧による気泡発生・機器の損傷リスク)が起きやすい。短時間の使用に向いており、術中の人工心肺のポンプとして使用されることが多い。

一方、遠心型は高速で回転することで脱血側に陰圧、送血側に陽圧を生み出し、血液を送りだす方式である。前負荷と後負荷両方に依存するため、流量計が必要となる。血液損傷やキャビテーションのリスクは減るが、高速でポンプを回すと溶血する可能性はある。比較的長期の使用が可能であり、ECMO回路で用いられることが多い。

人工肺と熱交換器

人工肺は無数のガス透過性の線維から構成される。膜の片側に空気と酸素をブレンドしたsweep gasを、もう片側に血液を流すことで、膜を介して酸素と二酸化炭素が拡散により交換される。

人工肺内部には、体内に血液を戻す前に加温する熱交換器が装備される。

様々なECMO

それぞれの病態やその進行具合により、様々なタイプのECMOが存在する。

ここでは、基本となるVA-ECMOとVV-ECMOについて解説する。

Veno-Arterial ECMO (VA-ECMO)

静脈から脱血し、動脈に送血するタイプであり、呼吸と循環両方をサポートすることができる。送血管・脱血管挿入方法により、大きくcentral cannulationとperipheral cannulationに分けられる。

Central cannulation

開胸により直接送血管や脱血管を挿入する方法である。右房(または共通心房)に直接脱血管を、上行大動脈に直接送血管を留置する。

開心術における人工心肺からの離脱が困難である場合、既にカニューラが存在しているため、central cannulationによるVA-ECMOが選択されることが多い。また、開心術後早期の低心拍出量症候群や心停止などに対しても、再開胸によるアプローチがより迅速かつ確実であるため、好んで選択される。

また、大血管や心臓へ直接カニュレーションを行うため、サイズの大きな送血管・脱血管の使用が可能となるため、敗血症やアナフィラキシーに対し流量を増やして対応したい場合にも適応となる。

Central cannulationの問題点としては、出血や感染症(縦隔炎)が挙げられる。

Peripheral cannulation

開胸せずに末梢側の血管を用いてカニュレーションする方法である。患児の体格が小さければ血管の大きな頚部(多くは右)の血管(動静脈)に、体格が大きくなれば大腿の血管を用いることが可能となる。頚動脈へのカニュレーションでは、挿入・抜去後の神経学的影響が問題となるため、体格的に頚部と鼠径部で悩む症例であれば、超音波検査で鼠径部の血管のサイズを評価することが大切である。

Central cannulationと比較し、出血や感染の危険性は低くなる、閉胸できる、鎮静を浅くすることが可能となる、といった利点が挙げられる。

一方で、peripheral cannulationではカニュレーション部位以降の虚血が問題となることもある。頚部であれば、前述のように神経学的合併症が、鼠径部であれば下肢の虚血・うっ血が問題となる。

Veno-Venous ECMO (VV-ECMO)

静脈から脱血し、静脈に送血するタイプであり、呼吸のサポートのみとなる。人工呼吸器といった呼吸管理では対応できない呼吸不全が適応となるが、循環サポートがないため心機能は保たれている必要がある。

カニュレーション部位には様々な組み合わせがあり、外科医や施設によって異なるが、例として以下の方法がある。

Jugular-femoral

20kg以下が対象となり、右内頚静脈から右房に向けて脱血管を挿入し、右大腿静脈から下大静脈または腸骨静脈に向けて送血管を留置する。右房からの脱血により流量が増え酸素化の増加が予期される一方、後述のようなrecirculationを引き起こす。

また、脱血管を大腿静脈、送血管を内頚静脈に留置する”femoral-jugular”がある。

Femoral-femoral

より大きな患児(>20kg)では、上記のようなjugular-femoral以外にも、右大腿静脈経由で右房に脱血管を、左大腿静脈から下大静脈にかけて送血管を挿入する方法もある。

※右房からの脱血は流量を確保しやすく酸素化の改善に繋がるが、後述のようなrecirculationのリスクが高まる。

ECMOとカニュレーションのまとめ

以下は、ECMOのカニュレーションについて、Royal Children’s Hospitalのガイドラインを元に作成したものである。

注意事項

Left heart decompression

機序

VA-ECMO使用中は、送血管からの流量により後負荷が増加し、左室の駆出が制限される。そのため、左室機能不全や心内シャントが存在しない場合は、左室や左房内に血液がうっ滞する。

左心系の血液うっ滞は、血栓形成・全身臓器への塞栓や、肺水腫から肺出血の原因となる。また、左室の壁内圧が増加し心筋への灌流が低下することで、心内膜下虚血や心室機能の回復が障害される。

適応

左室の駆出が障害されている場合に、左室のdecompressionを考慮する必要がある。すなわち、

  • 脈圧の狭小化:収縮期血圧ー拡張期血圧< 5 mmHg
  • 大動脈弁開放不全
  • 心エコーにおいて、左房・左室内の血液うっ滞所見や、心房中隔の右房側への張り出し
  • 左房圧や肺静脈圧上昇

ECMO開始12時間以内に上記を評価し、介入を開始する。

介入方法

1. 流量増加

特に右房圧が左房圧よりも大きい症例で適応となり、右室から血液を減らすことで、肺血流低下から左心系への静脈還流を減らす。しかし、この方法は体心室の後負荷を増加させることになるため、大動脈弁の閉鎖を悪化させる危険がある。

2. 左室機能改善、後負荷軽減

少量の強心薬や血管拡張薬を用いる。

3. 侵襲的介入

  • Atrial septostomy:心房中隔に孔を開け、左房から右房に血流を逃す。
  • 心房ベント:肺静脈や心房中隔経由で左房にベントを挿入。
  • 心室ベント:左室圧が上昇すると僧帽弁の逆流が生じるため、通常は心房ベントで対処可能だが、それでも左室が拡張したままである場合には直接左室にカニュレーションを行う。

Recirculation

機序

VV-ECMOでは、酸素化され送血管から体内に戻された血液が、全身に流れることなく脱血管からECMO回路に戻される”recirculation (再循環)”が問題となる。脱血側の酸素飽和度(SpreO2)の上昇が、recirculationを示す一つのサインとなる。また、上スライドで示したようにrecirculationを定量的に評価する方法もある。

Recirculationに関わる因子は複雑で、脱血管や送血管の孔の部位や方向、カニューラのサイズ(小さいと大きな陰圧が発生しrecirculation増加)、管の位置と両者の距離、ポンプの回転数や流量、胸腔内圧などが関連する。以下は、送脱血管の位置による脱血状態とrecirculationの違いを表した表である。

Femoral-Jugular Jugular-Femoral Femoral-Femoral
Drainage +++ ++++ +++
Recirculation + ++++ ++

対処方法

脱血管と送血管の先端を離す(ex. 15-20kg以下なら5cm、15-20kg以上なら10cm離す)、カニューラを変更する(ex. Bicaval, double-lumen)、カニュレーションを追加する、流量を落とす、といった対処方法がある。

Limb perfusion

機序

鼠径の血管を用いたVA-ECMOでは、下肢(大腿動脈の送血管挿入部位より末梢側)の虚血が問題となる。

対策

1. モニタリングのみ

送血管挿入側の下肢末梢に酸素飽和度モニターや近赤外線分光法を装着し、臨床所見と合わせてモニタリングを施行する。予防的に侵襲的な介入はしない。

2. カニュレーション追加〜その①

送血管挿入側の浅大腿動脈にカニューラを留置し、ECMO回路から送血する。

3. カニュレーション追加〜その②

送血管挿入部位より末梢にある後脛骨動脈にカニューラを留置し、ECMO回路から送血し、灌流する。

下肢の虚血は、VA-ECMOの送血管による末梢への血流阻害が原因となることが多いが、送脱血管を同側の大腿動静脈に留置した場合など、静脈のうっ滞による循環不全が起こることもある。その場合は、静脈側へのカニュレーション追加が必要となることがある。

ECMOの設定・ターゲット

最後に、ECMO中の流量、送脱血圧、抗凝固、凝固機能など、それぞれのターゲットについて、Royal Children’s Hospitalのガイドラインを元に作成したものを掲載する。

 

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Itoh et al. Perfusion. 2012 May;27(3):225-9.
  3. Ford et al. PediatrCritCare Med. 2016 Sep;17(9) 860-70.
ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本で麻酔・集中治療医として働いた後、オーストラリアで臨床留学も経験。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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