小児心臓麻酔〜各論〜

文献レビュー:蘇生後の低体温療法

今回は、小児の心停止・蘇生後の低体温療法について、押さえておいた方が良い主な研究を紹介したいと思います。

はじめに

成人では、除細動の適応となるような目撃のある心停止に対して低体温療法による予後改善効果が示されてきました1,2)。また、新生児仮死に対しても低体温療法の有効性が提唱されています3,4,5)

一方、小児の心停止の原因としては成人とは異なり窒息が最も多く、成人の心停止(VF/VT)に対する結果をそのまま適応してよいかわかっていません。また、低体温は、電解質異常(低P、低Mg、低Ca血症)による不整脈、インスリン感受性変化による高血糖、徐脈、低血圧と関連しますし、感染や出血といった合併症も考えなければなりません。

ということで、小児の心停止後の低体温療法について、文献から考察してみたいと思います。

サマリーとしては、以下のようになります。

#VF/VTに対する除細動後の昏睡患者では、低体温療法を施行する。

  • 32-34℃を48〜72時間
  • 2時間で0.5℃を超えない速さで復温
  • 低体温終了後も計3日間は36-37.5℃に保つ。

#その他の原因による心停止の場合は、低体温療法または標準体温で管理する。どちらにしても38℃以上の発熱は避ける。

ということで、その根拠となる研究をみていきましょう。

文献紹介

Fink et al. A tertiary care center’s experience with therapeutic hypothermia after pediatric cardiac arrest. Pediatr Crit Care Med. 2010.

要点

  • 後ろ向き研究、生後1週〜21歳、院内・院外心停止、n=181
  • 低体温群の目標体温は34℃(33.5-34.8℃)。52%は院内心停止、91%は気道トラブル。
  • 低体温療法と標準療法で院内死亡率に有意差なし。輸血、感染、不整脈に有意差なし。低体温療法は電解質異常と関連。標準療法の方が再心停止が多い傾向(26% vs. 13%, p=0.09)。多変量解析では低体温療法は死亡率と関連せず

注意点

  • そもそものclinical question、単変量解析のp値の使用・backward stepwiseといったモデル作りなど、因果推論を意識しているはずなのに「低体温療法と標準療法を比べるRCTが実行可能かどうかを評価した研究」と言っているため、かなり批評しにくい。ある意味ズルく賢い言い回し。
  • 先天心疾患は除外されている。
  • 32℃以下では死亡率が上昇(29% vs. 11%, p=0.02)。また、38℃以上の高体温は積極的に治療されたと書いてあるが、標準療法で2倍以上の患者が38℃以上となっており(37% vs. 18%)、どこまで綿密にコントロールされていたか疑問。

Scholefield et al. Evolution, safety and efficacy of targeted temperature management after pediatric cardiac arrest. Resuscitation. 2015.

要点

  • 後ろ向き研究、生後1日以上16歳未満、n=73
  • 32-34℃の低体温群(n=38)と38℃未満の標準体温群(n=35)を比較
  • 患者背景に有意差なし。病院死亡率に有意差ないが、低体温群で有意にPICU滞在日数が長い。低体温群で徐脈・低血圧が多く発生。、両群ともに32℃以下または38℃以上となることがあり、24時間以内に32℃以下となった患者(n=11)は全て死亡。

注意点

  • 患者背景に有意差がないということで多変量解析を行なっていないが、検出力不足。両群とものn=40に満たないサンプルサイズで患者背景の有意差を出す方が困難。例えば、VF/VTは6名中5名が低体温群。
  • 2007年のILCOR guideline以降で低体温療法を行った患者が急増しているが、6年という研究時間を考えると初期と後期で体温療法以外の医療も変化したと考えるのが妥当。それに関してもモデルでの調整なし。
  • ICU死亡・院内死亡をMann-Whitneyで検定しているが、生存期間も気になるため生存曲線とlog rank testで見てみたい。

Moler et al. Therapeutic hypothermia after out-of-hospital cardiac arrest in children. N Engl J Med. 2015.

要点

  • ランダム化比較試験、38施設、院心停止、2分以上のCPR、自己心拍再開6時間以内の昏睡患者、生後48時間〜18歳、n=295(THAPCA-OH trial
  • 低体温群:48時間の32-34℃を48時間、16-24時間かけて復温、TTM開始より120時間後まで36-37.5℃にコントロール vs. 標準体温群:36-37.5℃を120時間維持
  • 1年後の神経学的予後良好患者数(低体温群:20% vs. 正常体温群:12%, p=0.14)、感染、出血、不整脈、28日・1年死亡率に両群で有意差なし。低体温群で生存期間が有意に延長(149 days vs. 119 days, p=0.04)。低体温群で低K血症と血小板減少が多く、腎代替療法が正常体温群に多かった。

注意点

  • 70%以上の患者が呼吸系のトラブルによる心停止。
  • 心停止時の目撃者は40%程度で、bystanderによるCPRは66%のみ。1年後の神経学的予後良好患者も全体で16%と低く、低体温療法の効果が期待しにくい患者層であった可能性。
  • 低体温群での神経学的予後の判断は復温後になされることが多い。すなわち、正常体温群の方が神経学的判断・予後により治療の中止が早期に決定され、生存期間の短縮に繋がった可能性も否定できない。

Moler et al. Therapeutic Hypothermia after In-Hospital Cardiac Arrest in Children. N Engl J Med. 2017.

要点

  • ランダム化比較試験、37施設、院心停止、2分以上のCPR、自己z循環再開6時間以内の昏睡患者、生後48時間〜18歳(THAPCA-IH trial
  • 低体温群:48時間の32-34℃を48時間、16-24時間かけて復温、TTM開始より120時間後まで36-37.5℃にコントロール vs. 標準体温群:36-37.5℃を120時間維持
  • n=329(予定は558名)の段階でfutilityのため終了1年後の神経学的予後良好患者数(低体温群:36% vs. 正常体温群:39%, p=0.63)、28日・1年後死亡率、感染、血液製剤の使用に有意差なし

注意点

  • 低体温療法の効果が期待できそうなVF/VTは10%のみ。心停止からCPRまでの時間の中央値、25, 75 percentile全て0分であり、THAPCA-IAと比較すると多くの患者の神経学的予後が良好(37% vs. 16%)。
  • 50%以上の患者がECMOを使用されており、低体温による出血や感染のリスクも多いはずであるが、それらも有意差なし。
  • 生存曲線の解析にLogrank testを使用しているが、Kaplan-Meier曲線を見る限り前半は低体温療法の方が生存率が高い印象あり。Gehan’s Wilcoxon testが見てみたい。

Lin et al. 72-h therapeutic hypothermia improves neurological outcomes in paediatric asphyxial out-of-hospital cardiac arrest-An exploratory investigation. Resuscitation. 2018.

要点

  • 後ろ向き研究、生後1ヶ月〜18歳、窒息による院外心停止、循環再開から少なくとも12時間以上生存したが昏睡、VFや先天性心疾患は除外
  • 低体温群:33℃を72時間(n=25) vs. 正常体温群:35.5-37.5℃(n=39)
  • 低体温群で1ヶ月後生存率が有意に高く(60% vs. 30.8%, p=0.04)、神経学的予後が有意に良い(46.7% vs. 8.3%, p=0.04)。

注意点

  • 新生児仮死に対しては72時間の低体温が有効だったという報告を元に、これまでの48時間ではなく72時間の低体温療法と標準体温を比べた研究。
  • 多変量解析がされていない。サンプル数が少なく、患者背景に差がないのは理由にならない。ただし、event数が計26であるため、多変量解析をしたとしても入れることのできる変数はごくわずか。
  • この研究から72時間の低体温が有効とは言えないが、hypothesis-generating studyとしては良いかもしれない。

Fink et al. 24 vs. 72 hours of hypothermia for pediatric cardiac arrest: A pilot, randomized controlled trial. Resuscitation. 2018.

要点

  • ランダム化比較試験、生後1週〜17歳、心停止後の循環再開、n=34
  • 33℃の低体温療法を24時間と72時間で比較。
  • Neuron specific enolase (NSE)は24時間群で有意に高い。6ヶ月後死亡に有意差なし(24時間群 47% vs. 72時間群 24%)。

注意点

  • バイオマーカーを用いて72時間の低体温療法の方が24時間よりも良い可能性を示した研究。
  • 臨床的アウトカムは6ヶ月死亡率のみで、有意差なし。
  • Hypothesis-generating studyとしては良いかもしれない。

まとめ

いかがでしょうか。発熱は神経学的予後不良と関連する6,7)というのはある程度コンセンサスが得られていますが、小児に対する低体温療法の効果についてはまだまだ不明です。逆に小児の頭部外傷に対する低体温療法が死亡率を上昇させたとの研究も存在します8)

加えて、低体温の導入・維持・復温の詳細について、すなわち、低体温とするスピード、異なる目標体温、低体温の時間、復温のスピードといった詳細のエビデンスは殆ど存在しません

なかなか判断の難しいところですが、上記の文献と成人の研究も参考にして、なんとか現時点での落とし所を考えてみますと、

#VF/VTに対する除細動後の昏睡患者では、低体温療法を施行する。

  • 32-34℃を48〜72時間
  • 2時間で0.5℃を超えない速さで復温
  • 低体温終了後も計3日間は36-37.5℃に保つ。

#その他の原因による心停止の場合は、低体温療法または標準体温で管理する。どちらにしても38℃以上の発熱は避ける。

といった感じでしょうか。

 

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References

  1. Hypothermia after Cardiac Arrest Study Group. N Engl J Med. 2002 Feb 21;346(8):539-56.
  2. Nielsen et al. N Engl J Med. 2013 Dec 5;369(23):2197-206.
  3. Gluckman et al. Lancet. 2005 Feb 19-25;365(9460):663-70.
  4. Shankaran et al. N Engl J Med. 2005 Oct 13;353(15):1574-84.
  5. Azzopardi et al. N Engl J Med. 2009 Oct 1;361(14):1349-58.
  6. Wyatt et al. Pediatrics. 2007 May;119(5):912-21.
  7. Bembea et al. Pediatric Crit Care Med. 2010 Nov;11(6):723-30.
  8. Hutchison et al. N Engl J Med. 2008 Jun 5;358(23):2447-56.
ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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