文献レビュー:デクスメデトミジンと離脱(withdrawal)

今回は、近年手術室や集中治療室で使われているデクスメデトミジン(dexmedetomidine)の離脱(withdrawal)にフォーカスを当てました。離脱は本当に起こるのか、どうしたら防げるのか、現時点で何がわかっているのかを、小児と成人を含めてこれまでの研究から考えてみたいと思います。

目次

はじめに

デクスメデトミジンは、中枢神経系のα2受容体に選択性に作用することで、鎮静&鎮痛作用を発揮する薬剤です。麻薬のような呼吸抑制を引き起こしにくいため、発売以来その使い易さから世界中の手術室や集中治療室で使用されており、鎮静・鎮痛の第一選択薬としている施設も増えてきました。

一方で、近年の劇的な使用の増加とともに、その副作用とも考えられる事象も報告されるようになりました。その一つとして、麻薬やベンゾジアゼピンなどの鎮静・鎮痛薬と同様、薬剤中止後に不穏、頻脈、血圧上昇、振戦、嘔吐、下痢、不眠、幻覚といった離脱(withdrawal)と考えられる症状が報告され始めました。

デクスメデトミジンに限らず、鎮静・鎮痛剤中止後の離脱症状は、集中治療管理上、昔も今も大きな問題です。しかし、デクスメデトミジンはまだまだ新しい薬であり、離脱との関係性についても不明な点が多々あります。

ということで、今回はデクスメデトミジンと離脱についての研究について解説したいと思います。

サマリーとしては

  • デクスメデトミジンの離脱に関して観察研究しか行われていない。
  • デクスメデトミジンの総投与量や投与期間は離脱発症と「関連」がありそう。
  • 研究計画や解析方法に問題があることが多く、デクスメデトミジンの総投与量や投与期間が離脱発症の「原因」かどうかは不明。
  • デクスメデトミジンの中止方法と離脱との関連や、他の薬剤との比較に関しても、ほぼ何もわかっていない。

といった感じになります。

研究紹介

Burbano et al. Discontinuation of prolonged infusions of dexmedetomidine in critically ill children with heart disease. Intensive Care Med. 2012.

要点

  • 後ろ向き研究、デクスメデトミジンを3日間以上使用、小児心臓外科(年齢の中央値 5.2ヶ月)、n=62
  • デクスメデトミジン0.1-0.4mcg/kg/hを8-24時間毎に減量した場合のバイタルの変化や鎮静・鎮痛スコアを評価
  • デクスメデトミジンを5日間以上使用や突然の中止は、頻脈発生と関連。17名(27%)の患者が中止後12時間以内に鎮静が不十分な不穏(agitation)と判断された。

注意点

  • デクスメデトミジンによる離脱症状が囁かれた初期の研究だけあって、WAT-1といった離脱のスコアではなく、鎮静や鎮痛スコア、バイタルサインといった項目の変化を評価している。また、デクスメデトミジンの使用により心拍数や血圧、鎮静に変化がでるということは、その中止によりそれらに変化が出るのは当然のこと。やはり総合的な判断やスコアを見なければ離脱かどうかの判断はできない
  • 多変量解析は行われておらず、単純な比較(単変量解析)のみ。
  • ただし、当時デクスメデトミジンによる離脱症状の可能性を、ある程度の患者数を集めて示したという意味では、価値のある研究。

Lardieri et al. Effects of Clonidine on Withdrawal From Long-term Dexmedetomidine in the Pediatric Patient. J Pediatr Pharmacology There. 2015.

要点

  • 後ろ向き研究、デクスメデトミジン5日以上使用、小児(中央値1.5歳)、19名より20サンプル
  • クロニジン使用(n=12)vs.  クロニジン不使用(n=8)
  • クロニジン使用・不使用で、中止後24時間以内のWATスコアに有意差なし(0.8 vs. 3.2, p=0.49)。

注意点

  • サンプル数が少なく、多変量解析は施行されず。
  • WATスコアにある程度の差があるようにも見えるが、これもサンプル数が少ないため検出力不足なのか判断できない。
  • そもそもクロニジンが有効であったところで、今度はクロニジンの離脱を考えなければならない。

Haenecour et al. Prolonged Dexmedetomidine Infusion and Drug Withdrawal In Critically Ill Children. J Pediatr Pharmacology There. 2017.

要点

  • 後ろ向き研究、18歳以下、デクスメデトミジンを48時間以上使用、52名よりn=68のサンプル
  • WAT-1で離脱を評価
  • 35%がデクスメデトミジンによる離脱と判断。多変量解析で、デクスメデトミジンの中止前の麻薬使用期間とデクスメデトミジン総投与量が離脱と有意に関連。ROC曲線では、デクスメデトミジンの総投与量が107mcg/kg以上(0.4mcg/kg/hなら約11日以上、1mcg/kg/hなら約4日以上)が離脱発症と関連するカットオフ(AUC 0.65)。クロニジンの使用は離脱の非発症と関連せず(p=1)。

注意点

  • 複数回サンプルされている患者が居るが、それらのデータが独立として扱われており、バイアスがかかる。
  • 単変量解析でp<0.20の因子のみを多変量解析に入れているため、年齢といった交絡因子がモデルに入っていない。
  • 交絡因子としてPIM scoreといった病態の重症度も考慮されていない

Shutes et al. Dexmedetomidine as Single Continuous Sedative During Noninvasive Ventilation: Typical Usage, Hemodynamic Effects, and Withdrawal. Pediatr Crit Care Med. 2018.

要点

  • 後ろ向き研究、18歳未満、NIVのためのデクスメデトミジンを24時間以上使用、他の鎮静薬の持続投与なし、n=382
  • デクスメデトミジン中止群、漸減群、クロニジン移行群の3群に分けて比較
  • 19名(5%)が離脱症状を示した。多変量解析では、デクスメデトミジンの総投与量のみが離脱の危険因子であった(OR 1.3 (1.1–1.5) for each 10 μg/kg; p < 0.01)。

注意点

  • 中止群が336名、漸減群が37名、クロニジン移行群が9名であり、サンプル数に偏りがあるためか、これらの群間で離脱発症の多変量解析はされておらず、デクスメデトミジンの中止方法に関する有益な情報は得られない
  • 持続投与時間の中央値は11時間(IQR 9-20)であり、その短さのためか、離脱発症数も低い。デクスメデトミジンの48時間以内の使用患者では離脱発症が一人もいなかったことは参考になる。
  • 離脱の診断に、WAT-1といったスコアを用いておらず、症状や薬剤的介入により改善したら離脱と判断しており、その診断の信頼性に欠ける。

Bouajram et al. Incidence of Dexmedetomidine Withdrawal in Adult Critically Ill Patients: A Pilot Study. Crit Care Explorer. 2019.

要点

  • 前向き観察研究、成人、デクスメデトミジンを3日間以上持続投与、n=42
  • CAM-ICU, RASS, WAT-1を用いて離脱の有無を評価。
  • 64%がデクスメデトミジンの離脱所見ありと判断された。ROC曲線から導き出した離脱発症のカットオフは、最大0.8mcg/kg/hrまたは一日投与量12.9mcg/kg/d以上であった。多変量解析で調整後も、一日投与量12.9mcg/kg/d以上は有意に離脱発症と関連。

注意点

  • 交絡因子として調整した因子は併用鎮静薬と麻薬耐性のみ。年齢や疾患の重症度といった交絡因子は調整されていない。例えば、デクスメデトミジンの多量投与が離脱を引き起こすのか、重症であるからデクスメデトミジンが必要になり、離脱も引き起こしたのか、不明。また、多変量解析で調整された「併用鎮静薬」は、只の「鎮静剤使用の有無」であり、鎮静薬の種類や量については何の考慮もなされていない。
  • 多変量解析で調整された併用鎮静薬と麻薬耐性は、離脱の有無を評価した時点での値であり、デクスメデトミジンの使用による離脱発症への影響を調べたい方法としては不適切。かといって、離脱を予測するためのモデルとしても有効でない(なぜなら、発症前ではなく発症時の因子をモデルに入れているから)。
  • ROC曲線による最大投与量と一日総投与量の離脱所見のカットオフ値は、臨床をしている上で離脱を予測する上では有用かもしれない。

Filler et al. Incidence of Rebound Hypertension after Discontinuation of Dexmedetomidine. Pharmacotherapy. 2019.

要点

  • 後ろ向きマッチコホート研究、デクスメデトミジン・プロポフォール・ミダゾラムを72時間以上使用、n=216
  • デクスメデトミジン(n=54)とプロポフォールまたはミダゾラム(n=162)で、中止後のリバウンド血圧上昇の発生を比較
  • 両群で血圧上昇の発生に有意差はなかったが、デクスメデトミジン群の方が薬物中止にかかる時間が有意に短かった(14hr vs. 17hr, p=0.01)。高血圧の持病があると、リバウンド高血圧発生の頻度が有意に高かった。

注意点

  • 離脱症状のうち血圧上昇のみをアウトカムとした研究。
  • 高血圧の持病によりマッチングを行っているが、解析では他の交絡因子は調整されていないため、バイアスが残ったまま。
  • 一見、年齢やAPACHEスコアに有意差はないようだが、デクスメデトミジンとプロポフォール・ミダゾラムとの選択では脳疾患や抜管の時期の予想なども関与してくるはずで、それらの考慮はされていない

Sperotto et al. Efficacy and Safety of Dexmedetomidine for Prolonged Sedation in the PICU: A Prospective Multicenter Study (PROSDEX). Pediatr Crit Mare Med. 2020.

要点

  • 前向き観察研究、18歳未満、デクスメデトミジンを24時間以上投与された患者、n=163
  • デクスメデトミジンによる、ベンゾジアゼピンや麻薬の離脱に対する効果を評価
  • デクスメデトミジンによりその他の鎮静・鎮痛薬を減らし、WAT-1スコアの低下が見られた。デクスメデトミジン中止後に離脱を呈した患者は一人もいなかった

注意点

  • そもそもデクスメデトミジンの離脱を調べた研究ではない。
  • デクスメデトミジンの離脱症状を呈した患者が一人もいなかったため、そのアウトカムに対する効果や危険因子を調べようがない。
  • 離脱がなかった理由として、総投与量が少ない、漸減が8割以上、他の鎮静薬との併用が8割以上、といった可能性が考えらえるが、こちらもアウトカムが0であるため解析不能。

まとめ

これまでの研究からわかることは、

  • デクスメデトミジンの離脱に関して観察研究しか行われていない。
  • デクスメデトミジンの総投与量や投与期間は離脱発症と「関連」がありそう。
  • 研究計画や解析方法に問題があることが多く、デクスメデトミジンの総投与量や投与期間が離脱発症の「原因」かどうかは不明。
  • デクスメデトミジンの中止方法と離脱との関連や、他の薬剤との比較に関しても、ほぼ何もわかっていない。

そして、これらの研究を臨床に生かすならば

  • 48時間以内に使用が中止できそうであれば、離脱症状は発生しにくく、デクスメデトミジン使用の閾値は低い。
  • 不必要な高用量・長期間の投与は、可能であれば避ける(一つの目安は100mcg/kg = 1mcg/kg/hを4日間)。

といったところでしょうか。

ちなみに、海外では同じα2作動性鎮静薬であるクロニジンが、古くから使われてきました。そのため、デクスメデトミジンの離脱に関しても、そのクロニジンの有効性が期待されています1,2,3)。殆ど正当に評価されていないのですが、参考までに以下のようなプロトコールを紹介します1)

  • デクスメデトミジン投与が72時間以上の患者を対象
  • 月齢6ヶ月未満:クロニジン 2 mcg/kg q6h
  • 月齢6ヶ月以上:クロニジン 4 mcg/kg q6h
  • クロニジンの2回目投与後30分でデクスメデトミジンを50%減量し、3回目の投与後30分でデクスメデトミジンを中止。

ただし、結局はクロニジンの離脱計画を立てなければならないのと、個人的には上記の量は初回の予防策としては少し多すぎる気もしますので、臨床医の現場の判断で修正したら良いと思います。

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References

  1. Liu et al. J Pediatr Pharmacol Ther. 2020;25(4):278-287.
  2. Beitz et al. J Pediatr Pharmacol Ther. 2019;24(6):542-543.
  3. Lee et al. J Pediatr Pharmacol Ther. 2020;25(2):104-110.
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