小児心臓麻酔〜各論〜

文献レビュー:小児集中治療室の血糖管理

今回は、小児集中治療室患者の血糖管理について、知っておいた方が良い主な研究を紹介したいと思います。

はじめに

2001年のNEJMに掲載されたvan den Bergheらの論文(Leuven I study)1)を契機に、血糖コントロールを厳密に行うIntensive Insulin Therapy (ITT)Tight Glucose Control (TGC)の有用性に関する論争が巻き起こりました。成人においては、NICE-SUGAR study2)をはじめとしたその後の研究で、一律のIITは低血糖のリスク・予後との関連から否定されています。

一方で、小児の血糖正常値は成人より低く3)、小児における血糖管理の目標値について成人のデータは適応できません。また、心臓血管外科術後の高血糖は他の重症患者のそれとは高血糖の病態が異なるため、分けて考える必要があります。

小児の集中治療室ではどのような血糖値を目標に管理を行えば良いのでしょうか。結論から申し上げますと、

結論

  • 心臓血管外科:(特に術後早期は)血糖 >250 (〜300) mg/dl
  • 一般PICU患者:血糖 >180 (〜200) mg/dl

となったら治療を開始を検討する。

では、その根拠となる研究を紹介します。

研究紹介

Vlasselaers et al. Intensive insulin therapy for patients in paediatric intensive care: a prospective, randomised controlled study. Lancet. 2009.

要点

  • ランダム化比較試験、n=700(1歳未満317名と1歳以上383名)
  • PICU滞在中、「1歳未満:血糖 2.8 – 4.4 mmol/L、1歳以上:血糖 3.9 – 5.6 mmol/L」にコントロールするintensive groupと、「血糖 11.9 mmol/Lになるまで治療しない」conventional groupに振り分け。
  • 心臓外科術後が全体の70%以上。Intensive groupでCRPが有意に低下し(0 vs. -6, p=0.007)、死亡率が低く[9 (2.6%) vs. 20 (5.7%), p=0.038]、PICU滞在期間有意に短かく(5.51日 vs. 6.15日, p=0.017)、感染症が有意に低かった[129 (36.8%) vs. 102 (29.2%), p=0.034]が、intensive groupで低血糖(BS < 1.7 mmol/L)が有意に多かった[17 (5%) vs. 3 (1%), p=0.001]。

注意点

  • 血糖が目標値に達した以降の計測が4時間毎と少なく、低血糖が有意に多く発生している。一方で、一般的に、PICUに滞在中を通して4時間毎に血糖を測定するのは非現実的。
  • ランダム化された後の他の治療、特に心血管作動薬やステロイドといった血糖値に関与する可能性のある薬剤について、両群のデータなし。
  • 入室時に経口/経腸不可の患者は、初日から15% glucose+アミノ酸+脂質による経静脈栄養されており、少し早過ぎる。血糖が高くなる傾向にあり、intensive groupでメリットが出る可能性あり

Jeschke et al. Intensive insulin therapy in severely burned pediatric patients: a prospective randomized trial. Am J Respir Crit Care Med. 2010.

要点

  • ランダム化比較試験、TBSA 30%以上の熱傷、0-18歳、239名
  • 血糖80-110 mg/dlに調整するIIT群と、血糖140-180 mg/dlに調整するコントロール群に振り分け。
  • IIT群で有意に感染症が少なく(4 (8.2%) vs. 31 (22.6%), p<0.05)、IL-6といった炎症反応が低かった。死亡率には有意差なし。

注意点

  • 平均年齢が10歳近く、比較的年齢層が高い。
  • なぜ3:1のブロックランダム化を行なったのか不明。Power解析についても記載がなく、discussionで少しだけ触れられているのみ。また、どのようなランダム化が行われたのか不明。実際、基本的な患者背景としての年齢やTBSAに有意差がある。
  • ITTにメリットがあるようにみえるが、血糖 <40 mg/dlとなるような低血糖がITT群で有意に多い。

Agus et al. Tight Glycemic Control versus Standard Care after Pediatric Cardiac Surgery. N Engl J Med. 2012.

要点

  • ランダム化比較試験、0-36ヶ月、CPBを用いた心臓外科術後、n=980、(SPECS study)
  • 血糖管理群:血糖 80-110mg/dl (4.4-6.1 mmol/l) vs. 血糖管理なし(目標値なし)群
  • 感染症やICU滞在日数、死亡率、人工呼吸期間などに有意差なし

注意点

  • コントロール群では特に血糖の目標値がなく、現場の判断に任されている。
  • 持続血糖測定値を使っているだけあって、血糖管理群であっても3%しか低血糖が起きていない(vs. 1%, p=0.03)。
  • 持続血糖測定値を全てのPICU患者に用いるのは非現実的であるし、(中央検査室の値に比べ)その正確性にも疑問が残る。

Macrae et al. A Randomized Trial of Hyperglycemic Control in Pediatric Intensive Care. N Engl J Med. 2014.

要点

  • ランダム化比較試験、16歳以下、人工呼吸管理と血管作動薬を12時間以上要した患者、13施設、n=1369
  • 厳格血糖管理:血糖72-126 mg/dl (4.0-7.0 mmol/L) vs, 標準管理:血糖 <216 mg/dl (12.0 mmol/L)
  • 生存期間と人工呼吸期間に有意差なし。非心臓血管患者では厳密コントロール群で病院滞在日数が短縮し、全体・非心臓手術患者でのコストは厳格血糖管理群の方が低い。厳格血糖管理群で有意に多く低血糖が発生。

注意点

  • 60%が心臓血管外科患者であり、それらのサブグループ解析でも厳密血糖コントロールに臨床的アウトカムの優位性なし。また、そのサブグループ解析において、低血糖を起こした患者は有意に死亡と関連している。
  • 心臓血管外科患者に限れば厳密な血糖管理が有用なのではないかという一部の専門家を打破すると同時に、逆に非心臓血管外科患者の方が血糖コントロールのメリットがある可能性を示唆した論文。
  • プロトコール論文に記載されているように、かなり厳密で細かい血糖のチェックとインスリン投与が行われている。ただし、45分毎の血糖チェックは非現実的であり、にも関わらずやはり低血糖が起きているという結果に注意が必要。

Agus et al. Tight Glycemic Control in Critically Ill Children. N Engl J Med. 2017.

要点

  • ランダム化比較試験、32施設、心臓外科は除外、心血管作動薬または人工呼吸器が必要な患者、n=713(HALF-PINT Trial)
  • 低め血糖管理 80-110 mg/dl (4.4-6.1 mmol/L) vs. 高め血糖管理 150-180 mg/dl (8.3-10.0 mmol/L)
  • 低め血糖管理群で低血糖が多く発生したため、早期に中止。ICU滞在日数に有意差はなかったが、厳密に血糖をコントロールした方が感染症の発生と低血糖の発生が有意に高かった。

注意点

  • コントロール群である150-180 mg/dlという設定は、比較的軽度の高血糖さえ許容していない
  • 非心臓血管外科でもITTの優位性を示せず。
  • 低め血糖管理群で感染症の発生が低いのは、生理学的にもこれまでの研究と照らし合わせても、説明ができない。

Chen et al. Tight glycemic control in critically ill pediatric patients: a systematic review and meta-analysis. Crit Care. 2018.

要点

  • 2017年5月まで、16歳未満、血糖管理 <140 mg/dlと標準治療を比較したランダム化比較試験、メタ解析
  • 6つのRCT、4030名の小児、
  • 厳密な血糖管理による病院死亡率の低下なく(OR 0.95, 95% CI 0.62-1.45, I2=40%)、敗血症の発生も有意差なし。低血糖と関連(OR 4.39, 95% CI 2.39–8.06)。

注意点

  • 仕方のないことだが、含まれている全てのRCTでblindは達成できていない(performance bias)。また、研究数が少なく、funnel plotといった方法でのpublication biasについては不明。
  • 1500g以下で出生したpreterm babyも含んだ解析で、年齢によるsubgroup解析は行われていない。
  • 研究毎に、厳密な血糖管理の比較対象である標準管理の血糖目標値の差があるが、それは考慮されていない。

まとめ・感想

高血糖よりも低血糖の方が危険であるため、研究で示されているように厳格な血糖コントロールによって低血糖が起こりうる限りは、小児においてもITTは推奨されないと考えられます。一方で、どこまで高血糖を許容してよいのかは、上記の研究からもまだ明らかでありません。また、心臓血管外科術後患者の高血糖は、CPBやステロイド、カテコラミンの影響で一時的であることが多いため、積極的な血糖コントロールをしていない施設の方が多いのではないでしょうか(今後研究されれば別ですが)。

先天性心疾患の輸血のように、個々の病態によって目標値がそこまで変わるとは考えにくいため、これまでの研究の流れを汲み取り、心臓血管外科術後とそれ以外のPICU患者として判断すれば良いのではないかと思います。

以上をシンプルにまとめますと

  • 心臓血管外科:(特に術後早期は)血糖 >250 (〜300) mg/dl
  • 一般PICU患者:血糖 >180 (〜200) mg/dl

となったら治療を開始を検討する。

といったところでしょうか。

 

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References

  1. van den Berghe et al. N Engl J Med. 2001.
  2. Finfer et al. N Engl J Med. 2009.
  3. Brown et al. Aust Paediatr J. 1980.
ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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