小児心臓麻酔〜各論〜

文献レビュー:乳び胸とオクレオチド

乳び胸は、小児心臓手術後のマネージメントに苦慮する合併症の一つです。今回は、乳び胸に対して時に用いられるオクレオチドという薬剤のエビデンスについて調べたいと思います。

はじめに

乳び胸は、心臓血管外科術後の合併症として遭遇する疾患であり、手術による直接的な胸管の損傷や、Glenn/Fontan手術や右心不全、血栓による上大静脈圧の上昇など、様々な原因が関与します。胸水増加による呼吸不全、低蛋白血症、低グロブリン血症による免疫力低下・感染症といった更なる合併症を引き起こすため、しばしばその管理に苦慮します。

オクレオチドは、ソマトスタチンの合成アナログで、乳び胸の薬物治療として時に用いられてきました。両薬剤ともに脾循環と消化管運動に作用することで胸管内のリンパ流を抑制すると同時に、消化管における脂質の吸収の抑制による胸管内の乳び濃度の低下といった機序が考えられています1)

一方、オクレオチドには高血糖、甲状腺機能低下、腹痛、嘔気、下痢、腎障害、肝障害といった副作用があり、新生児では壊死性腸炎も報告されています。

では、オクレオチドの乳び胸に対する有効性は、どの程度確認されているのでしょうか。

サマリーとしては、

  • 症例報告は数多く存在するが、ランダム化比較試験は存在せず、後ろ向き研究でさえ数少ない。
  • 後ろ向き研究からも、オクレオチドが乳び胸に対して有効であるとは、現時点では言えない。

といった感じになります。

文献紹介

Rosti et al. Octreotide in the management of postoperative chylothorax. Pediatr Cardiol. 2005.

要点

  • 後ろ向き研究
  • オクレオチド(n=8) vs. 標準治療(n=4)
  • オクレオチド群で、fluid loss・術後入院日数が有意に減少し、TPNや胸腔穿刺が必要のなった患者はいなかった。

注意点

  • オクレオチド群ではMCTも併用されている。一方、標準治療群ではTPNが必要となった患者を選んでおり、標準治療群の方が難治性の乳び胸と考えられる。
  • 心疾患や術式はオクレオチド群のみ記載されており、標準治療群については不明。
  • 交絡因子は全く調整されていない。

Church et al. Evidence-based management of chylothorax in infants. J Pediatr Surg. 2017.

要点

  • 後ろ向き研究、NICUとCICU、乳び胸を呈した乳児、n=178
  • MCT vs. NPO/TPN vs. NPT/TPN/オクレオチドの三群比較
  • オクレオチドの使用は、治癒・手術の必要性・死亡率・人工呼吸期間とったアウトカムの改善と関連なし。

注意点

  • 多くは心臓外科術後(82%)であるが、その他の疾患も含まれている。
  • 交絡因子の調整なし。「絶食+TPN」と「絶食+TPN+オクレオチド」の単純比較のみであり、「治らないからオクレオチドを開始した」ため、人工呼吸期間やICU滞在日数が長期であっただけであろう。
  • オクレオチドの開始時期や用量についても記載なし。

Bui et al. Evaluating the Use of Octreotide for Acquired Chylothorax in Pediatric Critically Ill Patients Following Cardiac Surgery. J Pediatr Pharmacy There. 2019.

要点

  • 後ろ向き研究、先天性心疾患術後、乳び胸を呈した患者、年齢と心臓手術で1:1のマッチング、n=32
  • オクレオチド群 vs. 標準治療群
  • オクレオチド群において開始後の日数とドレーン排出量の減少に相関あり。ドレーンが20%以上低下するまでの日数はオクレオチド群の方が短い(6 vs. 8 days, p=0.34)。

注意点

  • 年齢と心臓手術だけのマッチングで交絡因子がコントロールされているとは考えづらい。例えば、Trisomy 21やCVPなどが交絡因子となるだろう。
  • ドレーン排出量低下日数の比較も、標準治療群は胸腔ドレーン挿入後から、オクレオチド群は薬剤開始後から、という比較でありフェアでない。
  • 「オクレオチド群では薬剤開始前のドレーン量はフラットである一方開始後のドレーン排出量が低下している」とあるが、オクレオチドを使用していなくても時間とともにドレーン排出量が減少していた可能性。また、オクレオチド以外の治療介入(輸液管理や栄養管理)についての記載なし。

まとめ

これまでの研究からわかることは、ソマトスタチンまたはオクレオチドによる乳び胸の治療に関して、

  • 症例報告は数多く存在するが、ランダム化比較試験は存在せず、後ろ向き研究でさえ数少ない。
  • 後ろ向き研究からも、オクレオチドが乳び胸に対して有効であるとは、現時点では言えない。

そして、これらの研究を臨床に生かすならば

腎肝甲状腺機能に問題なく、バイタル的にも消化管の循環が障害されていない患者において、乳び胸の治療に非常に苦慮した場合、その使用が許されるかもしれない。

程度かと思います。

 

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Reference

  1. Helin et al. Pediatr Crit Care Med. 2006 (PMID 16878051).
ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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