鎮静薬や鎮痛剤に精通している麻酔科医・集中治療医であっても、小児に関してはプラスαの経験・知識が必要になります。私も小児麻酔・小児集中治療に関わる前は、これが結構ストレスでした。
今回は、私が学んでいるRoyal Children’s Hospital (RCH)のPICUで使っているガイドラインを参考にした鎮静・鎮痛薬の希釈・投与方法をご紹介したいと思います。
そもそも、なぜ小児は特殊なのか
小児の鎮静薬の使い方は、成人のそれとは異なります。例えば
- 体重あたりの計算(/kg)で考えなければならない
- 薬の分布容積が成人より大きい→相対的に必要量が多い
- 代謝(腎機能・肝機能)が未熟→頻回・持続投与で過量投与になりやすい
- 希釈方法に気を使う→濃すぎると0.05mlといった誤差が投与量(mgやmcg)の大きな違いとなり、薄すぎると頻回・持続投与により大きな容量(ml)負荷となる
といった特徴が挙げられます。そこで、以下に小児の希釈・投与方法の例を記したいと思います。
鎮静薬
鎮静薬 | 希釈・持続投与 | ボーラス投与 | 経口 |
ミダゾラム | 3mg/kgのミダゾラムを計50mlに希釈し、
1-4mcg/kg/min = 1-4ml/hrで持続投与 |
0.1-0.2mg/kg
最大 2mg
|
|
セルシン | 持続投与しない | 0.1-0.4mg/kg
最大 10-20mg |
小児:0.04-0.2mg/kg
成人:2-10mg (8-12時間毎) |
ケタミン | 30mg/kgのケタミンを5%ブドウ糖で計50mlに希釈(1unit/mlのヘパリン入り)し、
10-40mcg/kg/min = 1-4ml/hrで持続投与 |
2-4mg/kg | |
デクスメデトミジン | 鎮静:0.2-0.7mcg/kg/hrで持続投与
全身麻酔:5-10mcg/kg/hrで持続投与 |
ローディングを考慮: 1mcg/kgを10分間で投与 |
施設内で決まった希釈・投与方法を周知することは、インシデントを減らす意味でとても重要です。RCHでは、オーダーする際に上記の希釈がテンプレとして存在するため、オーダー時はクリックするだけです。また、シリンジポンプの画面にも、ml/hだけでなく、必ずmcg/kg/minやmcg/kg/hrといった表示も併記されますので、誰が見ても一目でその投与量がわかります。
鎮痛薬
鎮痛薬 | 希釈・持続投与 | ボーラス投与 | 経口 |
モルヒネ | <50kg:1mg/kgのモルヒネを計50mlに希釈し、
20-80mcg/kg/hr = 1-4ml/hr)で持続投与 =開始速度= 新生児:10mcg/kg/hr <5歳:15 mcg/kg/hr >5歳:25 mcg/kg/hr >50kg:50mgのモルヒネを50mlに希釈し、 1-4mg/hr = 1-4ml/hrで持続投与 |
=挿管患者=
<50kg:0.1mg/kg >50kg:1-2mg 最大 2mg =非挿管患者= <50kg:10-20mcg/kg |
|
フェンタニル | <10kg:100mcg/kgのフェンタニルを50mlに希釈し、
2-4mcg/kg/hr = 1-2ml/hrで持続投与
>10kg:フェンタニルを原液(50mcg/ml)で、 5-10mcg/kg/hrで持続投与 |
=挿管患者=
5mcg/kg 最大 100mcg
=非挿管患者= 1-2mcg/kg |
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ケタミン | 5mg/kgのケタミンを 5%ブドウ糖で計50mlに希釈(1unit/mlのヘパリン入り)し、
2-10mcg/kg/min = 120-600mcg/kg/hr = 1.2-6ml/hrで持続投与 |
0.1-0.2mg/kg |
ちなみに、オーストラリアではclonidineやhydromorphoneといった薬も頻用されます。今回は日本で使える薬のみを記載しました。
換算
麻薬の耐性や、麻薬やベンゾジアゼピンの離脱症状が出た際には、薬剤を変更する”ローテーション”を行うことがあります。以下は、その際に必要な、RCHが使っている換算表です。
- ミダゾラム 1mcg/kg/min 持続投与 = ジアゼパム 0.18mg/kg 経口 6時間毎
- モルヒネ 20mcg/kg/hr 持続投与 = モルヒネ 0.24mg/kg 経口 4時間毎
- モルヒネ 50mcg/kg/hr 持続投与 = フェンタニル 1mcg/kg/hr 持続投与
さいごに
当然ですが、これらの薬剤は循環・呼吸に影響を与えます。すなわち、生死に直結します。あくまでこれらの薬剤使用に精通している人が、一度は自分で計算し、自己責任のもと参考にしてください。
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[…] 小児の鎮静薬の使い方 […]
[…] ※小児の鎮静薬の使い方に関しては、こちらを参照してください。 […]