大動脈弓低形成・離断症の周術期管理

以下、大動脈離断症(Interrupted aortic arch: IAA)/ 大動脈弓低形成(Hypoplastic aortic arch)の周術期管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。

目次

解剖・分類

大動脈弓低形成(Hypoplastic aortic arch)は、大動脈が低形成で血流が妨げられる状態である。大動脈縮窄症と比べ、病変部位はより広範囲で重症である。血流が完全に途絶した病態は、離断(Interruption)と表現される。

離断部位によって以下の3つの型に分けられる1)

  • A型:離断部位が左鎖骨下動脈のすぐ末梢(25% ← ただし、日本ではこのタイプが多い)
  • B型:離断部位が左総頚動脈と左鎖骨下動脈の間(70%)。DiGeorge症候群(→低カルシウム血症、無胸腺、耳・顏・口蓋の形成不全)を合併することが多い。
  • C型:離断部位が無名動脈と左総頚動脈の間(5%)。

A型→B型→C型の順に胎児期の上行大動脈への血流が少なくなり、大動脈弓は低形成となる。また、心室中隔欠損症をはじめとして、IAAは様々な心奇形を合併する。また、(特にB型IAAで多く見られるが)右鎖骨下動脈が下行大動脈より起始していることがある1)

病態生理

大動脈縮窄症とほぼ同様の血行動態となる。ただし、上行大動脈と下行大動脈との間に全く交通がないため、どの型であっても下半身の血流は完全に動脈管に依存しており、動脈管の閉塞の影響は大動脈縮窄症よりも大きい。

生直後は症状がないが、数日から数週かけて動脈管の閉塞と共に急激に病態が悪化する。動脈管が収縮するにつれて下肢への血流が阻害され、ductal shockとなる。すなわち、下半身への血流低下から腎不全・肝不全・アシドーシスなどを生じる。また、多くの血流が肺循環に向かうため、急激な左室後負荷の増加、左室拡張末期圧の上昇、一回拍出量低下、肺静脈うっ血、肺高血圧症が引き起こされる。

酸素飽和度の違いは、その型によって異なる。A型では上半身 vs. 下半身、B型では右上肢 (&頭部)vs. 左上肢+下半身、C型では右上肢+右頭部 vs. 左上肢+左頭部+下半身、で酸素飽和度が異なる。ただし、上述のように心室中隔欠損を合併することが多く、心室内のmixingが多い場合には右上肢と下肢の間で差がみられないこともある。

方針

大動脈縮窄症と同様、二期的手術と一期的手術が選択される。

二期的手術

未熟児や全身状態が悪く人工心肺・開心術に耐えられない、合併心内奇形が複雑といった理由で、一期的手術が難しいと判断された場合に選択される。

初回は人工心肺を使用せず、左開胸で行われることが多い。大動脈の近位のみを露出し大動脈を修復する。また、肺動脈絞扼術も同時に施行することで、肺血流を抑え動脈管を介した下半身への血流を確保する。後日、人工心肺を使用して心内病変を修復する。

一期的手術

人工心肺を用い、胸骨正中切開で大動脈弓の修復とその他心奇形の修復を同時に行う方法である。

近年まで、主要大動脈弓手術は超低体温と循環停止下に行われきたが、長期神経学的予後に対する影響が心配されている2)。現在多くの施設では、脳へ持続的な酸素を供給し心筋虚血時間を最小限にするため、大動脈修復中に順行性の脳と心筋灌流を行っている1)

術前チェック項目

心エコーでは、

  • 離断部位:病型の判断
  • 動脈管の血流や太さ:下半身の循環は動脈管に依存
  • 大動脈弓:IAAでは低形成
  • 合併心奇形の有無:心室中隔欠損、大動脈二尖弁、大動脈弁下狭窄、三尖弁へ閉鎖、完全大血管転位、両大血管右室起始症、左室流出路狭窄などを合併しうる1)

周術期管理

術前・術中・術後管理

動脈カテーテルを留置する部位は、IAAの患児では重要である。右鎖骨下動脈に異常がなければ、右上肢に動脈圧ラインを挿入することで、術前・術中の脳灌流圧や酸素飽和度のモニターが可能となる。下肢の血流は酸素飽和度モニターやアシドーシスの有無でモニターすることもあるが、不安な場合は大腿動脈などで下肢血流のモニタリングとする。一方で、右鎖骨下動脈が下行大動脈より起始している場合左鎖骨下動脈では術中のモニタリングができなくなる可能性があるため、大腿動脈に加え、近赤外線分光法を用いた脳酸素飽和度の測定で頭部のモニタリングとする。

動脈管開存のためのプロスタグランジン投与、肺血流を抑えて下半身臓器への血流を保つための呼吸管理(吸入酸素飽和度を低くし過換気を避けることで、過剰な肺循環を抑制)などは、大動脈縮窄症と同じである。術中管理についても、大動脈縮窄症を参考にしていただきたい。

DiGeorge症候群の患児では、輸血製剤の中に存在するリンパ球に起因するGVHDを避けるために、放射線照射血液製剤を用いる必要があるとされている3)。そのため、海外で輸血製剤を依頼する際には「radiation」を選択する。しかし、日本では基本的に輸血後GVHD予防のため(新鮮凍結血漿以外は)放射線照射が行われているため、その選択は必要ない。放射線照射が行われた輸血製剤を使用する際には、高カリウム血症に気をつける。

また、DiGeorge症候群は低カルシウム血症になりやすいので注意が必要である。

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Bellinger et al. N Engl J Med. 1995 Mar 2;332(9):549-55.
  3. Van Mierop et al. Am J Cardiol. 1986 Jul 1;58(1):133-7.
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