医療統計と疫学

線形回帰分析〜その2:最小二乗法

Linear regressionの基礎、読んでいただけたでしょうか。そちらを読めば、modelの数式の意味が理解できたと思います。

今度は、どのように直線の切片や係数を求めるのか、そして、どのようにそれが有意かどうか判断するのか、その理論を解説していきます。今回もpredictorが一つだけのsimple linear regressionを用いて説明します。

前回は、皆さんがお馴染みの数式としてわかりやすくするため、切片(intercept)をa、predictor 1の係数(slope)をb、というようにしていましたが、predictorやcovariateの数が増えると、どのアルファベットが、どのpredictor/covariateの係数なのか、わかりにくくなります。

そこで今後は、切片(intercept)をβ0predictor 1の係数(slope)をβ1、predictor 2の係数をβ2、というように表現します。

やりたいこと(linear regression modelで知りたい値)は、以下の通りです。

ちなみに、βなどアルファベットの上に” ̂”が付く場合、”ハット”と呼びます。“β^1は自分たちが持っているデータ(サンプル)から導き出したmodelのslopeであり、whole populationの本物のslopeである”β1“とは区別して表現します。

βsを推定:Least Squares Estimation

どのように、β0やβ1を求めればよいのでしょうか。目的は、自分たちが持っているデータ全体を最もよく表してくれる直線をさがすことです。

では、「最もよく表してくれる」とはどういうことでしょうか。数学的には、個々の患者のoutcomeである”Yi”と、modelから推測されたoutcomeである”β01*Xi”の差が、全体として最も小さくなる場合、ということができます。すなわち、個々の患者でその差を計算し、(プラスとマイナスで相殺されないために)二乗し、全ての患者で足し合わせたもの(Σ)、それを最小にする、そのようなβ0やβ1を探す必要があります。これが、Least Squares Estimation(最小二乗法)です。

全てのβ0やβ1の組み合わせを試して比べる方法もあるかもしれませんが、実際はsoftwareがスライドのような計算式でβ^0やβ^1を求めています。

Residuals and Variances

先ほど説明した「個々の患者のoutcomeである”Yi”と、modelから推測されたoutcomeである”β01*Xi”の差」というものが、residualと呼ばれます。二乗したものを全ての患者で足し合わせ、平均化したものがMean Squared Error (MSE)と呼ばれ、modelの良さ(fitting)の指標となります。

β^1のvarianceも求めなければなりません。なぜなら、varianceからstandard errorが計算でき、それによりβ^1のt-scoreの計算と検定が可能となります。また、standard errorは信頼区間の計算にも必要になります。

検定

帰無仮説はβ1=0です。そして、先ほど計算したβ^1

やβ^1のstandard errorから、t-scoreを計算します。t-scoreからprobability(p-value)の算出方法がわからない人はこちらを参照してください。

このt-scoreを詳しくみることで、どのような研究で最も良い検出力が得られるかがわかります。

1. 大きなサンプルサイズ:計算式の分子が大きくなるため、t-scoreが大きくなります。

2. 小さなMSE:良いモデルでresidualが小さくなるとt-scoreが大きくなります。

3. Predictor Xの大きなstandard deviation:多岐にわたるXを集めることで、t-scoreが大きくなります。

信頼区間

そして最後に、β^1とβ^1のstandard errorを用いて、信頼区間を計算します。

まとめ

今回は、linear regression modelの数式内にある数字(βs)やその検定方法を説明しました。説明した数字全て、softwareで自動的にoutputされますのでご安心してください。

例えば、df_bwというdata frameにおいて、outcomeをbwt、predictorをlwtとした場合のlinear regressionでは、lm()を使って以下のようになります。

といった感じです。

bwt=2367.767 + 4.445*lwt

というmodelができました。このoutputから、β^1=4.445であり、そのstandard errorが1.713、t-scoreが2.595、p-valueが0.0102ということがわかります。

 

医療従事者に必要な統計学と疫学(目次)へ

Reference

John Orav. BST 213: Applied Regression for Clinical Research. Harvard T.H. Chan School of Public Health
ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本で麻酔・集中治療医として働いた後、オーストラリアで臨床留学も経験。 書籍『絶対あきらめない医学留学』著者。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

POSTED COMMENT

  1. […] 前回は、linear regressionのβの求め方やその検定方法について解説しました。直線のslopeである個々の係数βが知りたい値であり、それぞれのβが有意か否か検定(test)するんでしたね。 […]

  2. […] 以前の記事で説明したように、regression modelでは、それぞれの変数Xの係数βと、そのstandard errorであるse(β)を用いて計算されたp-valueが知りたい値でしたね。 […]

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

error: