純型肺動脈閉鎖の周術期管理

以下、型肺動脈閉鎖(Pulmonary atresia with intact ventricular septum: PA/IVSの周術期管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。

目次

解剖

胎生期の右室流出路閉塞性病変により、三尖弁、右室、冠動脈の異常形成が引き起こされる1)三尖弁は通常よりも小さく、右房は三尖弁逆流の程度に比例して拡張する。通常、右室は肥大し心腔内は小さくなるが、三尖弁の異形成(dysplasia)・逆流が強い場合は右室が著名に拡張する場合もある。PA/VSDと異なり、心室中隔欠損はない(intact ventricular septum: IVS)

約50%において、冠動脈が形成される前の心室栄養血管である類洞(sinusoids)が右室心筋内に残存している1)。類洞は右室腔と直接交通し、右室冠動脈瘻を形成する。類洞の発生率は、三尖弁輪径・右室腔・三尖弁逆流の程度に反比例し、右室収縮期圧に比例する1)。すなわち、中等度から重度の三尖弁逆流の場合は、右室圧が低く、類洞と冠動脈瘻が発達しない。三尖弁逆流が軽度もしくは無い場合は、右室は小さく肥大し、右室収縮期高血圧を呈することで、冠動脈瘻が発達する1)

病態生理

基本的に、新生児期のPA/IVSは単心室循環となる。右室の出口がないため、心房間交通がないと生存できない。一方で卵円孔や心房中隔欠損を介した血流増加は左心系の容量負荷となり、新生児期の左室肥大・拡大、大動脈基部を拡大させる。肺循環には動脈管も必須で、多くは動脈管の閉鎖とともに生後3日以内にチアノーゼを呈する1)

右室冠動脈瘻の影響が少ない患者では、大動脈からの冠動脈血液とともに右室血液が正常の心筋の一部のみを二重に供給する。しかし、PA/IVSの約20%の患者は大動脈からの順行性冠動脈血流が欠如しており、心筋は酸素化されていない全身静脈血液が右室から直接灌流(右室依存性冠循環)されるため、慢性的に心筋虚血となる1,2)。心室中隔の肥大や左室流出路閉塞性病変による左室肥大があれば、冠動脈瘻による心筋虚血が悪化する。

方針

PA/IVSの治療方針は様々である。個々の患者の解剖学的・病態生理学を元に、方針を決定するが、最終的なゴールは大きく分けて以下の3つとなる。

  1. 心房間交通を閉鎖し(または調節し血液混合させた)二心室修復 
  2. 両方向性大静脈肺動脈吻合を用いたOne-and-a-half repair
  3. 単心室としての総大静脈肺動脈吻合(Total CavoPulmonary Connection: TCPC/ Fontan手術)

初回手術

二心室修復(またはone-and-a-half repair)を目指す場合は、右室流出路の閉塞性による右室圧上昇を解除(RV decompression)し、右室を通過する血流量を増やす。肺動脈弁裂開術(開胸 or 経皮的バルーン)やパッチによる右室流出路形成を行う。体動脈肺動脈短絡(modified Blalock-Taussing shunt: mBTS)を同時に行うか否かは、肺血流を増やすか、右室を通る血液を増やし右室の発育を狙うかの、trade-offである。

Transpulmonary valvotomy ± shunt

外科的手技ではあるが、人工心肺を避けることができ心室へのダメージが少ない。また、肺動脈弁逆流が少ない。デメリットとしては、右室流出路狭窄が残存し、右室の発育が期待しにくい可能性がある。

RVOT patch reconstruction ± shunt

右室流出路狭窄を大きく改善できる。肺動脈弁逆流は多くなるが、右室の発育にはプラスに働くかもしれない。ただし、人工心肺が必要であり心不全のリスクとなる。

Balloon valvuloplasty

外科的手術を必要とせず、当然人工心肺も必要ない。ただし、弁輪の拡大は不可能であり、肺動脈弁下の筋切除なども行えない。

右室や三尖弁の低形成が強い場合、二心室修復が難しく、単心室のゴールであるTCPC向かう。その場合は、mBTSのみを初回手術として行う。

また、冠動脈瘻により心筋血液供給が完全に右室へ依存している場合には、右室の減圧により冠動脈から右室に血液が流れ、冠動脈血流量減少により心筋虚血を引き起こす。そのため、右室の減圧を避けなければならなず、初回手術はmBTSのみ1)

追加手術

二心室修復(またはone-and-a-half repair)を目指しているものの、右室を通る血流が少なく右室の発育小さい場合には、肺動脈弁裂開術を追加で行うこともある。

また、心房間交通の閉鎖・調節 [ex. 右房圧<15mmg, 心房間圧較差<10 mmHg (目標 7mmHg)]3)や右室流出路形成、右室内の筋切除による右室容積拡大(RV overhaul4)を行うことも、二心室修復の準備として行われる。

単心室(TCPC)に向かう場合は、その前段階として両方向性大静脈肺動脈吻合(Glenn手術)を行う。

二心室修復 vs. 単心室(vs. One-and-a-half repair)

二心室修復は、直列循環という意味では正常な血行動態であり、一見望ましいように思える。しかし、無理に二心室修復を目指すことで、右心不全・体静脈圧の上昇を引き起こす。長期的には肝硬変や腹水、蛋白漏出性胃腸症といった合併症の危険が高まる可能性があり、それぞれの症例で非常に難しい判断が迫られる。

一般的には、右室のサイズが保たれている場合7)や、右室漏斗部の良好な発達やある程度の三尖弁のサイズ(ex. z-value > -3)がある場合5)は、二心室修復を目指す。

逆に、三尖弁が小さい場合や右室依存性冠循環がある場合には、単心室に向かうことになる6)

根治術

二心室修復

右室流出路形成や三尖弁、心房間交通の閉鎖・調節、mBTSの閉鎖により、左室は体循環、右室は肺循環といった、二心室修復が完成する。ただし、右心不全や三尖弁逆流、肺動脈弁逆流といった、短期〜長期的な問題点も存在する。

One-and-a-half-ventricle repair

全身の静脈還流を全て受け止めるだけの右室でない場合は、両方向性大静脈肺動脈吻合手術を行い、上大静脈から還流する血液は肺動脈へ直接流し、下大静脈から還流する血液は右室を通して左右の肺動脈に流れるようにする。単心室の時のGlenn手術と異なり、右室を介した肺血流(forward-flow)が存在する。そのため、TCPCほどの肺血管床は必要ない。

TCPC

Fontan手術に関しては、単心室循環の他の病態でも同様であるため、別記事で扱う。

これら3つのゴールを明確に設定することは非常に難しく、ゴールは患児の成長過程で変わりうる。実際には、二心室からone-and-a-halfへ、one-and-a-halfから単心室へ、根治からmBTSへのtake-downもみられる。

術前チェック項目

心エコーでは、

  • 右室拡張末期容量:小さいと将来の二心室修復は難しい。
  • 三尖弁の形態と逆流:小さいと将来の二心室修復は難しい。
  • 右室流出路:狭窄病変の有無
  • 三尖弁逆流圧較差右室圧の推定。高いと右室冠動脈瘻が存在する可能性。ただし、右室がそれだけの収縮力を持つ可能性も。
  • 心房中隔欠損と動脈管生存に必須。シャントは十分か。
  • 右室冠動脈瘻の有無:右室依存性冠循環の場合、右室圧を維持する必要がある。

を把握する。

心室機能の冠動脈依存性は、超音波検査のみでは評価が難しい。

周術期管理

術前管理

新生児期のPA/IVSは単心室循環であるため、Qp/Qsを1に近い形を理想とすることは、他と基本と同じである。また、右室冠動脈瘻がある場合は、右室圧の低下により心筋虚血から急変する危険があるため、心電図の観察と右室圧を低下させない管理が肝要である。

術中・術後管理

mBTS, Glenn, Fontan手術の周術期管理に関しては、他の病態でも同様であるため、それぞれの記事を参考のこと。

PA/IVSで肥大し狭小化した右室圧の高い患者では、右室の充満圧を維持、右室腔を虚脱させないようにする1)。人工心肺後は肺循環の後負荷が増加するため、強心剤による右室補助が必要である。換気圧を最小限(機能的残気量で肺血管抵抗が最小)にし、薬剤的に肺血管を拡張させることで、右室後負荷を軽減する。重度の肺高血圧がある場合は、血管床が血流増加に適応するまで、術後早期にNOを使用することもある。

One-and-a-half-ventricle repairは、右室への十分な前負荷と肺血管への上肢からの受動的静脈還流のために肺血管抵抗を低くすることが必要である。換気や血管作動薬の調節とともに、30度程度患者の頭部を挙上させることで、上半身の肺血管床への静脈還流が増加する1)

 

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Kisses MJ et al. J Cardiothorac Vasc Anesth. 2008 Feb;22(1):98-101.
  3. Sano S et al. Ann Thoracic Sure. 2000 Nov;70(5):1501-6.
  4. Pawade A et al. J Card Sure. 1993 may;8(3):371-83.
  5. Bryant R 3rd et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2008 Sep;136(3):735-42, 742.e1-2. Epub 2008 Jun 9. PMID: 18805279.
  6. Cleuziou J et al. Thorac Cardiovasc Surg. 2010 Sep;58(6):339-44. Epub 2010 Sep 7. PMID: 20824586.
  7. Liava’a M et al. Eur J Cardiothorac Surg. 2011 Dec;40(6):1406-11. PMID: 21561788.
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