小児心臓麻酔〜各論〜

ファロー四徴症の麻酔管理

以下、基本的にはファロー四徴症の根治術を念頭に、麻酔科医が把握すべき事項や麻酔管理について解説します。

解剖・分類

「大きなVSD(not restrictive)」、「右室流出路狭窄」、「大動脈の右室流出路騎乗」、「右室肥大」の四徴を持つことから、ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot: TOF)と呼ばれる。

病態生理

肺血流とチアノーゼ

症状の重症度は、酸素化されていない血液が全身循環へシャントする量を規定する右室流出路狭窄の程度に依存する。

右室流出路狭窄が軽度の場合は酸素飽和度が正常だが、大きな非制限性VSDを介した左右シャントから過剰な肺循環から心不全となる。

右室流出路狭窄が強い場合、大動脈が心室中隔に騎乗して右室側に偏位しているため、VSDを通した著名な右左シャントにより肺血流が低下し、重度のチアノーゼを引き起こす。右室流出路狭窄は、肺動脈低形成・狭窄といった変化のない静的要素と、肥大漏斗と筋束線維に起因し右室の圧負荷増加に反応して狭窄が悪化する動的要素が存在する1)血管内容量が低下すると、相対的にこの静的狭窄が顕著になる。また、交感神経系や心収縮力を増加させると、動的要素による右室流出路狭窄が悪化する(spell発作)1)

シャントとチアノーゼを考える上では、右室流出路狭窄の程度だけでなく、全身血管抵抗も大切である。そのため、全身血管抵抗が低下するような状況(低酸素やアシドーシス1))もまた、右左シャントを増加させチアノーゼを増悪させる。

右室肥大

VSDを介した体循環と右室流出路狭窄を介した肺循環という高い後負荷により、右室は肥大する。そのため、心拍出量を維持するために高い充満圧が必要となる。

左室低形成

右室流出路狭窄により肺血流が減少している場合、左心系への還流量が少なく左室の発育が悪くなる。

術前チェック項目

麻酔科医として、最低限以下の項目については術前に把握してく。

心超音波検査

右室流出路狭窄の部位と程度

TOFの重症度判定のため、右室流出路狭窄の程度を把握する。流速(m/sec)や圧較差(mmHg)で表現する。

左室拡張末期容量

前述のように、右室流出路狭窄により肺血流が減少している場合、左心系への還流量が少なく左室の発育が悪くなる。左室の発育は、人工心肺離脱後や術後管理上、非常に大切な指標である。左室拡張末期容量を、正常値と比べたpercentage(%)で評価し、80%以下であれば注意を要する。

冠動脈の走行

TOF患者の5-12%に、冠動脈異常がみられる1)。異常や冠動脈の走行によっては、外科的手術方法や手術のタイミングに影響を与える。

肺動脈・肺動脈弁の形態、狭窄

肺動脈弁や肺動脈の異常もまた、右室流出路狭窄に寄与する。二尖弁や肺動脈低形成(主肺動脈と肺動脈分枝)があれば外科的に介入することがあるで、術前の評価を忘れずに。

その他

VSDのサイズと部位、三尖弁逆流(VSDのパッチ閉鎖により引き起こされる)、ASDといった他の心内病変も把握しておく。

カテーテル検査

TOFであれば術前にカテーテル検査を施行されていない症例もあるが、もし施行されていれば以下の初見をチェックする。

肺動脈圧と右室圧

右室流出路狭窄の程度を表すため、肺動脈圧と右室圧の圧較差を把握する。非制限性VSDのため、右室圧は上昇している。

PA index

根治術を行うためには、生後肺血流がある程度保たれ、肺血管が発育していることが必要である。肺動脈の発育の指標であるPA index200mm2/m2あれば、ある程度発育していると考えられるが、それ以下であれば根治術の適応外として短絡手術を行うことがある。術後肺高血圧や右心不全の危険因子として把握しておく。

冠動脈の走行

超音波検査のみでは冠動脈の走行が不確かな場合は、大動脈基部や選択的冠動脈血管造影が行われることもがある1)

方針

姑息術

患児が小さく(一つの目安は1ヶ月 or 4 kg1))、症状がある場合には、シャント術を施行し、二期的の修復術を狙う。

根治術

根治術を行う時期については、未だ議論が続いているが、多くの施設では1〜3ヶ月という乳児早期の手術が行われている1)。ただし、複数のVSD、冠動脈の走行異常、肺動脈発育不良といった因子があれば、姑息術を施行し成長を待つ1)

多くの場合、transatrial-transpulmonary approachが行われる。主肺動脈を切開し肺動脈弁を観察し、必要があれば切開術(commissurotomy)が施行される1)。右房・三尖弁経由で右室流出路を観察し、漏斗部中隔を切除する。へガールを用いて右室流出路や主肺動脈の大きさを確認し、必要に応じて弁輪や右室自由壁の切開が追加され、transannular patchが用いられる1)。可能な限り右室の心室切開(ventriculotomy)を避けるが、患者が小さく狭窄が強い場合は必要となることがある。

周術期管理

シャントの麻酔管理に関しては、こちらの記事を参照のこと。以下、根治術を念頭に解説する。

麻酔導入・維持

血行動態

患者は、年齢・体重・肺動脈の発育・左室の発育といった観点からBTシャントといった姑息的シャント術を施行されている患者と、姑息的シャントのない未治療患者に分けられる。姑息的シャントのない患者では、spell発作が起きた際に肺血流が著名に減少するため、チアノーゼと低酸素の悪化により循環が虚脱し、致命的となる。

Spell発作はいつでも起こり得るが、特に麻酔導入中(交感神経緊張性の低下とともに相対的に血管内容量が低下し、末梢血管抵抗が低下)と外科的刺激に特に注意する。肺血流が低下するため、突然酸素飽和度が低下し、呼気二酸化炭素濃度が低下する。

麻酔管理としては、右室流出路狭窄を悪化させず、血管内容量を保ち、全身血管抵抗を保つことで、右左シャントを減らす努力をする。

・輸液:右室を充満・右室流出路狭窄を軽減させ、心拍出量と体血圧を増加させる。TOFの右室流出路狭窄に対する治療としては、第一選択となる。例えば、5%アルブミンを5~10ml/kgボーラス投与する。重症例では麻酔導入と同時に予防的に投与することもある。

フェニレフリン5-10μg/kg(1mg/生食20mlに希釈し、0.1-0.2ml/kg)を投与し、全身血管抵抗を増加させる。

・揮発性麻酔薬による麻酔を深くすることで、陰性変力作用による漏斗部攣縮を減弱させることができる1)

・吸入酸素濃度を増加:低酸素による全身血管抵抗の低下や末梢循環不全によるアシドーシスを防ぐため、吸入酸素濃度を増加させる。ただし、確かに高酸素を吸入させることによって低酸素性肺血管収縮を抑制し肺血管抵抗を低下させるが、肺血流低下の主な原因は右室流出路の狭窄であることが多いため、そういった意味ではあまり効果的ではない。

・エスモロール(50-200μg/kg)やプロプラノロール(0.1mg/kg)、ランジオロールといったβ遮断薬により漏斗部攣縮を抑制する方法もある1)が、麻酔中や集中治療室での重症症例に対するβ遮断薬のボーラス投与は著明な血圧低下を引き起こすことがあるため、他の治療を先に試した方が良い。

外科的介入:外科的刺激により重症発作が起きた場合には、外科医に肺動脈周囲の処置を一時止めてもらう。また、大動脈の外科的圧迫し一時的に全身血管抵抗を増加させる方法もある1)

上記の介入でも改善がみられなければ、人工心肺を考慮する。外科医としては出血を減らす意味でも、できる限りヘパリンを投与する前に剥離をすすめるが、麻酔科的な介入で駄目なら早めに臨床工学技士に連絡し、人工心肺への移行を外科医に提言することが大切である。

経食道心エコー

術前の心超音波検査で評価された項目について、もう一度経食道心エコーでも評価する。最低限、

  • 右室流出路狭窄の部位と程度
  • 肺動脈・肺動脈弁の形態
  • VSDの位置と大きさ
  • 三尖弁逆流:VSDのパッチ閉鎖により術後出現することがあります。
  • その他の心内病変の有無

はチェックしておく。

人工心肺離脱後

左心不全

修復後は、左室に流入する血液量が増えるが、前述のように左室は低形成傾向にあり、急な容量負荷に耐えきれなくなることがある。術前左室が小さい場合は、心拍数を増加させて心拍出量を保つため、TOF根治術後患者では心拍数を低下させる薬剤(デクスメデトミジンetc)の不用意な使用を控えるようにする。

右室不全

術前に肺血管の発育が乏しい場合や、右室切開や肺動脈弁下の過剰な筋切除といった術中の外科的要因、人工心肺の影響による肺血管抵抗上昇や、残存右室流出路狭窄により、術後右心不全傾向となる。特に、ファロー術後は右室拡張不全を呈する症例があり、心エコーでは心房収縮期の肺動脈への血流が認められる2)。この心房収縮期の肺血流が心拍出量にとって非常に大切となるため、ある程度の充満圧(ある程度高いCVPは許容)や洞調律の維持、自発呼吸が重要となる3)。また、頻脈は拡張時間が相対的に減少しコンプライアンスの悪い心室が弛緩できなくなるため、拡張不全の患者では頻脈を避ける必要がある。

右心不全や肺高血圧に対する一般的な治療(心拍出量を維持するための充満圧、高酸素、低二酸化炭素、アシドーシスの回避、ミルリノンなどの強心剤、場合によってはNOなど)を考慮する。

また、残存右室流出路狭窄が強い場合には、強心剤が悪影響を及ぼす可能性があるため、場合によっては強心剤フリーで人工心肺から離脱することも考える。

不整脈

根治術ではVSD閉鎖術も同時に施行されるため、術後は房室ブロックや房室接合部異所性頻拍が発生しうる。

残存病変

上記の他にも、残存VSDの有無もチェックする。チェック方法などの詳細については「VSDの周術期管理」を参照。

麻酔終了後

根治術後、血行動態が安定して出血の少ない場合は、手術室やICUで術後早期抜管が可能である。また、昔と比べ手術成績が向上したのに加え、上記のように拡張不全への対応のためにも、鎮静薬は最低限とし、早期抜管が望まれる。

たかがファロー、されどファロー

小児心臓に関わる医師の間では、ファロー四徴症を端的に表す言葉として「たかがファロー、されどファロー」というフレーズがある。

軽症な症例や手術が順調にいった場合は、術当日抜管も可能で術後経過も順調であることから「たかがファロー」と言われる。

一方、左心や右心不全により術後の立ち上がりが悪く、エピネプリンも使用しながら数日間の鎮静・人工呼吸管理も必要となるような症例もあることから、「されどファロー」とも言われている。

 

先天性心疾患の目次へ

References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Sandeep et al. J Cardiothorac Surg. 2019 May 2;14(1):84.
  3. Cullen et al. Circulation. 1995 Mar 15;91(6):1782-9.
ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

POSTED COMMENT

  1. […] 伝導障害は一時的・永久的両方ありうる。心房切開による心房性不整脈や、パッチ縫縮による刺激伝導系の傷害・房室ブロックに注意する。ブロックが発生した場合は、一時的ペーシングワイヤーを留置する。異所性接合部頻拍(Junctional epitopic tachycardia: JET)は1歳未満の患者で多く、特にファロー四徴症のVSD閉鎖術後にみられる1)。 […]

  2. […] DORVでは、両大血管が完全にもしくは主に右室から起始しており、ほぼ全ての患者がVSDを合併する(この定義によると、DORVは多様な疾患を含み、後述するように形態学的にはファロー四徴症(TOF)や大血管転位(TGA)に似たようなものもある)。 […]

  3. […] MAPCAのない最も単純なタイプ(PA/VSD)は、いわゆる「ファロー四徴症(TOF)の極型」と考えられる。ここでは、肺血流の起源が大動脈やその枝から分岐した主要体肺側副動脈(Major aortopulmoary collateral arteries: MAPCAs)に由来するタイプについて解説する。 […]

  4. […] 基本的には小児の心拍出量(Stroke volume × Heart rate)は心拍数に依存することが多いため、ファロー四徴症術後のように心拍数を落とさない管理とすることの方が多い。一方で、Fontan術後は比較的徐脈傾向の方が心拍出量にとっては有利となり、(先天性心疾患患者では徐脈傾向となるため使用に注意の要する)Dexmedetomidineといった薬剤も良い適応となることが多い。 […]

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です