豪州集中治療室のシフト体制

集中治療室に勤務している方々は、どのようなシフト体制で働いていますか?また、どのような勤務体制が望ましいと考えていますか?

今回は、Royal Children’s Hospital (RCH)のPediatric Intensive Care (PICU)のシフトについて、私の感想も含めてシェアしたいと思います。

目次

医師の階級

RCHのPICUにおける勤務体制について理解するためには、オーストラリアの医師階級について把握しておく必要があります。

オーストラリアには、コンサルタント、フェロー、(シニア&ジュニア)レジストラという階級が存在します。コンサルタントがいわゆる指導医で、フェローが専門医としてのトレーニングをほぼ修了した医師、レジストラがトレーニング中の医師を表しています(記事「豪州医師のトレーニング」も参考にしてください)。

診療体制

上記の階級を基に、PICUのシフトをご覧いただきましょう。

二交代制 × 一週間連続勤務

RCHのPICUは、二交代制を導入しています。コンサルタント・フェローと、レジストラでは引き継ぎの時間がやや異なりますが、大まかに言えば日勤・夜勤の二交代です。

そして、それぞれの医師が一週間連続勤務を行います。すなわち、日勤であれば日勤のみを7日間、夜勤であれば夜勤のみを7日間連続で勤めます(ただし、フェローは平日は日勤、週末は夜勤となります)。

ちなみに、一週間勤務した後は、一週間休みになります。驚きですよね。つまりは、一年のうち半分は休み(厳密には年休も年4週間くらいありますので、働いている日は半分もないですね)ということになります。日本では、夏休み以外土日も殆どないという医師も多いのではないでしょうか。労働時間の差に愕然とします。

平日の日勤

平日の日勤は新規入室や退室、追加の検査が加わるため、夜勤帯や週末と比較すると忙しいことが多くなります。そのため、この時間帯はコンサルタント、フェロー、シニアレジストラ、ジュニアレジストラの4人体制でPICUを管理します。

もちろん、コンサルタントが最終責任者になりますが、コンサルタントは現場に常駐することはあまりありません。代わりに、フェローが現場の指揮系統のトップとして機能します。すなわち、シニア&ジュニアレジストラがそれぞれの細かい管理をフェローと相談しながら行い、フェローが全体のマネージメントを行います。そして、タイミングを見計らってフェローがコンサルタントに報告する、といった体制になります。

平日の夜勤

夜勤帯になると、日勤帯に実働部隊のトップとして働いていたフェローは帰宅し、日勤とは別のコンサルタントが勤務を開始します。シニア&ジュニアレジストラも日勤帯とは交代し、3人体制となります。

夜勤帯はフェローがいないため、コンサルタントが現場責任者となります。ただし、夜間は落ち着いていることが多いことや、RCHのレジストラは「ジュニア」という肩書きであってもシニアや他国での指導医であることが多く、大抵の問題は切り抜けることができます。そのため、夜間担当のコンサルタントは、回診が終わればオンコール体制となり、あとはレジストラに任せて帰宅する人もいます。

週末

予定手術がないということもあり、平日よりは人手は不要となりますが、基本的な診療体制は平日と同じです。レジストラは必ず2人常駐し、日勤帯であればコンサルタントが、夜勤帯であればフェローが現場の責任者となります。もちろん、落ち着けば夜間のフェローは帰宅できます。

良い点

患者の把握が楽

前述のように、コンサルタントにしてもフェローにしてもレジストラにしても、基本的には一週間の連続勤務です。そのため、初日に入室患者の経過や治療方針を把握してしまえば、その後の勤務が非常に楽になります。

引き継ぎが楽

勤務が一週間連続であるため、勤務交代時の引き継ぎが非常に楽になります。引き継ぎ前より患者の背景や経過、問題点を既に把握しているため、自分が居なかった12時間に起こった変化を聞くだけで構いません。そのため、どんなに患者が多くても、引き継ぎに30分以上費やすということは殆どありません

治療に一貫性

一週間の連続勤務のメリットはそれだけではありません。チームとしての治療方針に(特にコンサルタントが変わらない1週間は)一貫性が生まれます

日本でよく見られるICU勤務体制の一つに、それぞれの施設の集中治療部のトップが年間を通して統括する、といったものがあります。このような「ワントップ」体制のデメリットは、治療方針・運営方針がその責任者の「好み」に偏ってしまう、ということでしょう。

一方、ICU担当医を日替わりに交代させる集中治療室もあります。この場合、上記のような個人的「好み」に偏ることがなく、治療が他の医師の目に触れやすいというメリットはありますが、治療方針が日々のICU担当医によって異なり、一貫性がなくなる可能性があります。

そういった点、この「一週間単位」というのはとても理に適っているように思います。特に、オーストラリアのコンサルタントはそれぞれが並列の関係にあり、互いを尊重しています。組織のトップだからといって、週番のコンサルタントの方針を無理やり変更させるといったことは起こりません。

ちなみに、コンサルタントとフェロー、シニアレジストラ、ジュニアレジストラは、それぞれ一週間の勤務交代となる曜日が異なります。例えば、コンサルタントとフェローは月曜日、シニアレジストラは水曜日、ジュニアレジストラは金曜日、といった感じです。そのため、チーム全員が総入れ替えされる曜日はなく、前日までの治療の流れが全くわからない、といったことを避けることができます。

長くても12時間の連続勤務

古くから、日本の医師にとって長時間勤務は当たり前のことでした。日勤→夜勤→日勤という36時間労働など普通でしたし、昨今の「働き方改革」も医療現場にどこまで浸透しているか不明です。

一方、RCHのPICUでは長くとも12時間が最大連続勤務時間です。前述のように引き継ぎは30分以内なので、勤務が終われば30分以内に皆帰ります。引き継ぎ時に新規入室があろうと、患者が急変しようと、勤務が終われば終了です。勤務終了後も継続して働くことは許されません

電話はポジション毎に一つ

日本の病院では、個々に携帯電話やPHSが支給されることが多いと思います。病院から支給された院内PHSに応答しないと、自分の携帯電話に自動的に転送されるといった病院もあるのではないでしょうか。

一方、RCHでは勤務している人のみに電話を持つことが許されます。すなわち、電話はそれぞれのポジションに支給されるのであって、個人には支給されません。勤務中には、コンサルタントはコンサルタントの電話を、フェローはフェローの電話を、レジストラはレジストラの電話を携帯し勤務します。そして、勤務が終わると引き継ぎと同時に電話も引き継ぐため、強制的に勤務から引き離されます。

日本では、医師個人が重要視され、上下関係・信頼関係が大切にされ、看護師が電話する際も「〇〇先生に」電話することの方が多いと思います。しかし、オーストラリアでは、ポジションが重要視され、コンサルタント間、フェロー間、レジストラ間は並列です。そのため、個人的な「誰に」ではなく、「コンサルタントに」「フェローに」「レジストラに」電話します。

悪い点

体内時計が狂う

特に夜勤の連続一週間は、思った以上に身体に負担がかかります。もちろん夜勤明けは家に帰れますし、12時間後の勤務まで寝ることも可能です。しかし、急に昼間に寝ろと言われても、数時間で目が覚めてしまい、なかなか休めません。勤務5, 6日目頃になると徐々に体が慣れてきて、昼間に寝られる時間が増えてきます。が、やっと夜間に勤務、昼間に就寝という生活に身体が馴染んだ頃には、一週間の勤務終了です。その後、通常の生活に戻るには、また数日から一週間かかります。治った頃に、また次の夜勤が始まる、といったことだってあります。地球の裏側に行って時差ぼけになり、やっと慣れた頃に日本に帰ってくる、そんな暮らしを繰り返していると言ったら伝わりやすいでしょうか。

日本は確かに36時間連続勤務など普通のことですが、それでも必ず「昼間は起きて働く」ものです。どれだけ夜が忙しくとも、連続何時間勤務だろうが、昼間は必ず起きていなければなりません。すなわち、疲労は溜まれど、体内時計が狂うことはありませんでした。

しかし、オーストラリアでは生活リズムが滅茶苦茶になり、日本とは違った辛さがあります。ですので、こちらでは眠剤やメラトニンといった薬を内服している医療従事者が結構います。

マンパワーが必要

このような、屋根瓦式・完全交代制を導入するためには、ある程度の人数が必要です。一週間の勤務の後、一週間休みだとして単純に計算しても、14人のICU医師が必要になります。RCHでは、小児一般のgeneral ICUと先天性心疾患専門のcardiac ICUの二つのICUがありますので、最低でもこの倍は必要になります。年休や学会、体調不良などで人員が欠けることを考えると、必要数は更に増えます。また、RCHではPICUのメンバーが院内急変担当や院外の搬送などを担当するので、PICU所属の医師は総勢40人近くになります。

まとめ

集中治療室の勤務体制は施設によって様々ですし、それぞれでメリットとデメリットがあります。上記のシフト体制も、勿論メリットだけではありません。しかし、小児病院の中で世界トップ5の一つに数えられるRCHだけあって、見習うべき点も多いと感じました。

良くか悪くか、日本でも欧米のような働き方が望まれるようになってきた昨今です。改革を志す組織の中堅・責任者の方々は参考にされては如何でしょうか。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメント一覧 (2件)

Rapid response system (RRS)の実際|シェアする挑戦者 〜 MD × MPH 〜 へ返信する コメントをキャンセル

英語のコメントは『問い合わせ』からお願いします。

目次