以下、両大血管右室起始症(Double outlet right ventricle: DORV)の血行動態・周術期管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項を解説します。
解剖・分類
DORVでは、両大血管が完全にもしくは主に右室から起始している。DORVについては、Vierordt、TaussingとBing、Neufeldら、Levらにより、これまで多くの定義が議論されてきた2)。中でも1972年にLevらによって発表された定義はそれまでとは異なり、両大血管が必ずしも完全に右室から起始する必要はなく、僧帽弁と大動脈弁、僧帽弁と肺動脈弁の線維的不連続性も必須ではないとした3)。
VSDがほぼ全ての患者に合併するが、大血管の関係性に基づき、大動脈弁下型(subaortic)、肺動脈弁下型(subpulmonary)、両半月弁下型(doubly committed)、遠位型(noncommitted)に分けられ、生理学や循環動態を考える上で非常に有用である1)。それぞれのタイプにおいて、肺動脈や大動脈弁の狭窄病変の有無、大動脈弓の狭窄病変の有無、大血管の位置関係、三尖弁と肺動脈弁との距離は、把握すべき重要な点である4)。
大動脈弁下VSD
VSDが大動脈弁下に位置する。肺動脈狭窄が存在しない場合の血行動態は単純VSDに、肺動脈狭窄が存在する場合の血行動態はTOFに類似する。
肺動脈弁下VSD
VSDが肺動脈弁下に位置する。多くは大動脈下・大動脈弓の閉塞性病変を合併する。しばしばTaussing-Bing奇形として扱われ、肺動脈狭窄のないd-TGA/VSD(II型)に含まれる。血行動態もTGAと類似する。
両半月弁下VSD
VSDが両大血管下に位置する。漏斗部中隔の低形成と様々な程度の両大動脈のVSD騎乗を呈する。
遠位型VSD
VSDは筋性型もしくは膜性部–流入型であり、両大血管から離れている。
病態生理
解剖学的特徴やQp/Qs、血液のmixingという観点から、病態整理や麻酔管理を考える上で特に重要な、VSDタイプ、TOFタイプ、TGAタイプを中心に解説する。ちなみに、Society of Thoracic Surgeons (STS) databaseでは、6つのタイプのDORVを記述している5)。
- DORV, VSDタイプ
- DORV, TOFタイプ
- DORV, TGAタイプ
- DORV, Remote VSD
- DORV + AVSD
- DORV, IVS
VSDタイプ
大動脈弁下型または両半月弁下型のVSDがあり、肺動脈狭窄がないことが特徴である。
このタイプのDORVは、VSDと同様の生理学を呈す。VSDは非制限性(non-restrictive)のことが多いため、左右シャント量は肺血管抵抗と全身血管抵抗の比に依存する。肺血流増加による肺高血圧(high-flow PH)、右室・左房・左室の容量負荷なども、VSDと同様である。VSDが非制限性のため、右室収縮期圧が体循環と等圧となる。放置しておくとEisenmenger症候群へ進行する。
TOFタイプ
VSDタイプと同様、大動脈弁下型または両半月弁下型のVSDがあるが、VSDタイプと異なり右室流出路狭窄を合併する。右室流出路の狭窄は肺動脈弁下のことが多いが、肺動脈弁の狭窄であることもある。TOFと同様、その狭窄に動的(dynamic)要素が含まれることがある。TOFとの解剖学的な相違点としては、大動脈弁と僧帽弁に線維的連続性がなく、VSDから大動脈の距離が長い6)ことが挙げられる。
循環動態は、TOFと類似する。VSD近傍に大動脈弁口があるため動脈血は主に大動脈に流れるが、肺動脈狭窄があるため肺血流量は低下する。肺血流低下による左房・左室への容量負荷減少、チアノーゼ性スペル発作、赤血球増多症なども、TOFと同様である。右室の収縮期圧は体血圧と等圧である。
TGAタイプ
肺動脈弁下型のVSDであり、Taussing-Bing奇形はこのタイプに含まれる。大動脈は肺動脈のやや前方またはside-by-sideに存在する。通常肺動脈狭窄はないが、様々な心奇形を合併する7)。異常な冠動脈、大動脈弓の狭窄病変(大動脈縮窄症、大動脈弓低形成、大動脈弓離断症)や大動脈弁下狭窄を合併することが多い8,9)。
基本的な血行動態はd-TGA(II型: d-TGA/VSD)と同様である。VSD近傍に肺動脈弁口があるため動脈血は主に肺動脈に流れる。大動脈弁はVSDから遠いため動脈血が流れにくく、主に体循環からの静脈血が流れる。VSDを介した酸素化・非酸素化血液が混合(mixing)、肺血流量増加、左房・左室への還流血による容量負荷なども、d-TGA/VSDと同様である。未治療の場合は肺血管閉塞性病変の進展により早期にチアノーゼとうっ血性心不全となる。
その他
遠位型VSDであるremote VSDタイプでは、VSDが肺動脈と大動脈の両者から離れている。VSDは筋性型(muscular type)や流入型(inlet type)であることが多い2)。このタイプのDORVは出生後早期の介入は姑息術となることが多く、根治術は心室内トンネル(VSDから大動脈、VSDから肺動脈+大血管転換術)を要するため乳児期後半に施行される10)。
AVSD合併のDORVは、heterotaxy syndromeや右室流出路狭窄、肺静脈還流異常症と関連する10,11)。AVSDはunbalanced型であることが多く、その場合は(二心室修復ではなく)単心室としての管理を要する。
外科的治療
概要
DORVは、その解剖学的特徴も病態生理学、合併心奇形も様々であるため、それぞれに適応したアプローチ法が選択される。主には、以下の4つの方法がある1)。
- Blalock–Taussig短絡術や肺動脈絞扼術といった姑息術
- バッフルを用いて左室から大動脈への血行動態を作成する心室内修復
- バッフルを用いた左室から肺動脈へ流出路作成と大血管転換術
- 単心室循環として、両方向性大静脈肺動脈吻合(Glenn)と総大静脈肺動脈吻合(Total CavoPulonary Connection: TCPS/ Fontan)へ
以下は、それぞれのタイプの外科的治療について解説する。
VSDタイプ
VSDタイプの外科的治療としては、生後6ヶ月未満で根治術が行われることが多い10)。人工心肺の使用が難しいような患者では肺血流を制限するために肺動脈絞扼術が施行される。根治術は、右室内にバッフルを置くことでVSDから大動脈への血流を確保する。左室流出路狭窄を防ぐため、VSDの拡大を要することもある10)。バッフル留置による修復術が可能か否かの判断には、三尖弁と肺動脈弁の距離(TPD: Tricuspid-pulmonary valve annular distance)が重要である。この距離が大動脈弁輪径よりも短い場合、バッフル留置後の流出路狭窄の危険がある4)。通常は右房アプローチとなるが、VSDの拡大などで右室切開を要することもある10)。バッフルの大きさや右室流出路の形態によっては、肺動脈弁へのtransannular patchや右室と肺動脈の導管(RV-PA conduit)を要することもある。
TOFタイプ
外科的介入は、年齢や体格、合併心奇形、施設の方針によって異なる。早期の外科的介入の必要性は、チアノーゼの程度に依存する。TOFと比較し、必要に応じて姑息的な体肺動脈シャントを先行し、根治術を乳児期後半まで待つ外科医が多い10)。理由の一つは、TOFよりもVSDから大動脈までの距離が長く、根治術には通常左室から大動脈への心室内バッフルを要することが多いことが挙げられる2)。また、漏斗部中隔の切開、右室筋束の切除、漏斗部や弁輪部のパッチ拡大、RV-PA conduitが必要となり、右室流出路の再建もよりTOFより複雑である2)。
TGAタイプ
外科的介入は、併存心奇形によって異なる。近年、新生児期の大血管転換術が増えている8,9,10,12)。しかし、肺動脈弁や弁下狭窄、大動脈弁下狭窄、冠動脈異常がある場合、大血管転換術が相対的に禁忌となる。大動脈弁の低形成や冠動脈異常がある場合、Damus-Kaye-Stansel吻合とRV-PA conduitが選択肢となる。肺動脈弁下狭窄が強い場合、VSDから大動脈へのバッフルとRV-PA conduitの作成によるRastelli手術が施行されることもある。大動脈弓の狭窄病変が存在する場合は早期に大動脈病変を修復し、後に二期的に根治術を行うこともあったが、近年では早期に一期的に修復することも多い12)。
術前チェック項目
心エコーでは、
- VSDの位置による解剖学的分類(4 types)
- 大動脈・肺動脈狭窄の有無:病態生理学的分類(3 types)に必要
に加え、それぞれの型(VSDタイプ、TOFタイプ、TGAタイプ)で必要なチェック項目
VSDタイプ:
- 左室拡張末期容量、僧帽弁逆流の有無:左心系の容量負荷の指標
- 駆出率:長期の容量負荷で心収縮力が低下
- 三尖弁逆流圧較差:肺高血圧の推測
- 三尖弁逆流:VSD閉鎖後と比較するため
TOFタイプ
- 肺動脈狭窄の部位と程度:重症度判定
- 左室拡張末期容量:左心系への還流量低下による左室発育不全
TGAタイプ
- PDA/ASDの有無や循環間混合の程度:チアノーゼ、うっ血性心不全や過剰肺循環の症状・徴候の有無。
- 左室拡張末期容量(左室の術後の機能予測):左室が退行していないかどうか。
- 冠動脈の解剖
を評価する。
心臓カテーテル検査が施行されている場合は、
- Qp/Qs
- 肺血管抵抗/体血管抵抗
- 右房圧、右室圧、肺動脈圧、体血圧
も把握しておく。
周術期管理
麻酔管理も、DORVの型と関連疾患によって異なる。以下、それぞれのタイプについて簡単の述べる。
VSDタイプ
麻酔管理は非制限性VSDの管理と同様である。血行動態の目標としては、体循環への心拍出量と酸素供給量を最適化することである。このタイプのDORVにおいては、過剰な肺血流を制限する必要がある。すなわち、吸入酸素濃度を低くし、軽度の低換気とすることで、肺血管抵抗を上昇させ体循環への心拍出量を増加させる。酸素供給量が不十分の場合は、心血管作動薬が用いられることもある。心室内バッフルやVSD拡大を施行された症例では、術後の心房性・心室性不整脈に留意する。術前肺血流が過剰であった症例では、術後の肺高血圧性クライシスの危険があり、過換気や場合によっては吸入一酸化窒素の使用も考慮する。
参考:単純VSDの管理について
TOFタイプ
麻酔管理はTOFの同様である。体循環への心拍出量と酸素供給量を最適化する必要があるが、肺血流がどの程度増加し体血流が低下しているかは、右室流出路の狭窄の程度に依存する。術前絶飲食の時間が長く前負荷が低下している患児ではスペル発作の危険が増すが、右室流出路狭窄が重症の患児ではスペル発作予防のための輸液により容量過多になっていることもある。気管挿管やライン挿入前の十分な麻酔深度が、スペル予防に重要である。酸素飽和度低下に対しては輸液や輸血、体血管抵抗を増加させる薬剤(ex. フェニレフリン)で対応する。エピネフリンといった心血管作動薬は心拍数と右室流出路の動的狭窄を増悪させチアノーゼを悪化させる。場合によっては緊急の人工心肺が必要となる。
参考:TOFの管理について
TGAタイプ
麻酔管理を考える上で、本病態は低酸素であるが肺血流は過剰であるということを認識する必要がある。つまり、普段以上に体循環への酸素供給量に気を配ることが重要である。尿量や乳酸値、中心静脈血酸素飽和度、NIRSなどを用いて、酸素需給バランスの維持に努める。Taussing-Bing奇形など多数の外科的縫合線が存在する場合、出血量が増えるため血小板やクリオプレシピテートの投与を考慮する。
参考:TGAの管理について
References
- Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
- Spaeth JP. Semin Cardiothorac Vasc Anesth. 2014 Sep;18(3):281-9. PMID: 24659409.
- Lev M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1972 Aug;64(2):271-81. PMID: 5048382.
- Aoki M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1994 Feb;107(2):338-49; discussion 349-50. PMID: 8302052.
- STS Congenital Heart Surgery Database Data Specifications, Version 3.41. https://www.sts.org/sites/default/files/documents/CongenitalDataSpecsV3_41.pdf, Accessed May 8, 2024
- NEUFELD HN, et al. Circulation. 1961 Apr;23:603-12. PMID: 13728501.
- TAUSSIG HB, et al. Am Heart J. 1949 Apr;37(4):551-9. PMID: 18114947.
- Soszyn N, et al. Ann Thorac Surg. 2011 Aug;92(2):673-9. PMID: 21801920.
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- Sridaromont S, et al. Circulation. 1975 Nov;52(5):933-42. PMID: 1175275.
- Fricke TA, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2020 Feb;159(2):592-599. PMID: 31607495.
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