肺動脈閉鎖/心室中隔欠損症/主要体肺側副動脈の周術期管理

以下、肺動脈閉鎖(Pulmonary atresia: PA)・心室中隔欠損(Ventricular septal defect)・主要体肺側副動脈(Major aortopulmoary collateral artery: MAPCA)の周術期管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。

目次

解剖・分類

MAPCAのない最も単純なタイプ(PA/VSDのtype A)は、いわゆる「ファロー四徴症(TOF)の極型」と考えられる。ここでは、肺血流の起源が大動脈やその枝から分岐した主要体肺側副動脈(Major aortopulmoary collateral arteries: MAPCAs)に由来するタイプ(PA/VSDのtype Bとtype C)について解説する。

PA/VSDの分類2)

  • Type A: 自己肺動脈があり、MAPCAsなし
  • Type B: 自己肺動脈があり、MAPCAsあり
  • Type C: 自己肺動脈なし、MAPCAsあり

MAPCAsは、気管支動脈や大動脈(一般的には下行大動脈や鎖骨下動脈など2))から直接・間接的に分枝しており、肺動脈と同様には成長しない。肺実質は、肺動脈、MAPCAs、またはその両者によって灌流される。MAPCAsの大きさや血流の依存度によって、乳幼児期に重症化する症例から、未治療でも成人となる症例が存在する1)

MAPCAsはPA/VSDに合併することが多いが、他の先天性心疾患でもみられる2)

病態生理

側副動脈により肺血流が過剰な場合、肺血流増加とうっ血性心不全になる。側副動脈の重度の狭窄がある場合や肺循環が動脈管依存性である場合は、肺血流は不十分となりチアノーゼを呈する。

側副血行路に中等度の狭窄がある場合は、均衡のとれた肺血流となり、動脈酸素飽和度は80%程度となり症状も最小限である。しかし、最終的には慢性的な左右シャントと容量負荷から左室不全となる1)

方針

最終的には二心室修復を目標とし、

  1. 姑息術:右室の後負荷となる適切な肺血管床を増やす
  2. 根治術:右室と肺動脈をつなぎ(Rastelli型手術)VSDを閉鎖する

を(一期的または)段階的に施行する。

姑息術:肺血管床を増やす

Unifocalization

「多くの血液供給を一つにまとめる(unifocal)」という意味であり、同側にあるMAPCAsを直接・パッチ・導管を用いてまとめ、自己肺動脈やその分枝に吻合する。肺血管床を増やし根治術後の右室の後負荷を減らすことができる1)

一回で全てのunifocalizationを行うが、血管へのアプローチが困難な症例や血管の成長が乏しい場合などは、何回かに分けてunifocalizationを行う(staged unifocalization)2)

unifocalizationでは気道の虚血や肺再灌流障害といった合併症が報告されている2)。また、MAPCAsは閉塞しやすく、成長しにくいといった側面から、積極的に後述のrehabilitationを選択する施設もある4)

また、自己肺動脈の形状や肺動脈分枝の状態、患者の年齢などによっては、根治術と同時に一期的に行うこともある。例えば、生後間もなくhigh-flow(over-circulation)から心不全となるような症例では、肺動脈やその枝が比較的発達しており、unifocalizationが成功することが多いため、根治術を一期的に行うことがある3)

Rehabilitation

基本的な概念としては、MAPCAsを介さず順行性の肺血流を作り出すことで、低形成である自己肺動脈の成長を促す方法である。自己肺動脈は低形成であっても肺実質全体に灌流している(するであろう)ことが成功の鍵である。

肺血流を得る方法としては、体肺動脈シャント(ex. central shunt, Blalock-Taussig shunt)、右室肺動脈導管、Melbourne shunt(主肺動脈の近位部を上行大動脈に端側吻合)、aortopulmonary windowなどが存在する1)。成長とともにシャントや右室主肺動脈導管の拡大・追加が必要になることもある3)

体肺動脈シャントと比べ、右室肺動脈導管には、拡張期血圧の維持、低酸素静脈血の肺血流により効率的な酸素化、導管を介した経皮的バルーン肺動脈拡張術の易施行性(体肺動脈シャントを介したカテーテル肺動脈拡張術は難しい)といった利点がある2)

MAPCAsはunifocalizationすることもあるが、成長が見込めず閉塞といった合併症が予期されるため、結紮(ligation)してしまうこともある。

MAPCAsの支配領域が大きいが狭窄や蛇行などで血流が乏しい場合に、それらを一つにまとめて大動脈からのシャントを介した血流によりMAPCAsの成長を促すことがあり、これも(unifocalizationを用いた)一つのrehabilitationと考えることができる2)

Combined strategy

Unifocalizationとrehabilitationを組み合わせた方法である。例えば、自己肺動脈のrehabilitationを行なった後、自己肺動脈とMAPCAsをまとめるunifocalizationを根治術の前に行う。

 

ちなみに、unifocalizationとrehabilitationのどちらが優れているかというテーマの研究・論文では、施設の「好み」や「主張」により、unifocalizationとrehabilitationの両方行われているにも関わらずどちらか片方の成功例として数えられていることが多いので注意が必要である2)

根治術

前述のような姑息術により肺血管が十分に成長または肺血管床が確保できた段階で、根治術を施行する。心内修復術としては、(弁付き)人工血管を用いて右室と肺動脈つなぐRastelli型手術を施行し、VSDを閉鎖する。

肺血管の灌流が乏しいと、肺血管床が少なく根治術後の右室後負荷が高くなる1)。その場合、右室圧が左室圧を超える「suprasystemic RV pressure」と右心不全になる危険があるため、VSDを開けたままとし、unifocalizationした血管を体肺動脈シャントや右室肺動脈導管と吻合することがある2)

術前チェック項目

心エコーでは、

肺動脈・分枝の形態:低形成の程度は術式に関与

VSDのサイズと部位

三尖弁逆流:VSDのパッチ閉鎖により引き起こされる

左室拡張末期容量:肺血流低下による左室低形成の指標

右室拡張末期容量:術後右心不全を予想

を評価する。

心臓カテーテル検査では

Qp/Qs:MAPCAsによる肺血流量の指標

肺血管抵抗:肺血管床の指標

右房圧・右室圧:肺血管床や右心系の評価

をチェックしておく。

周術期管理

体肺動脈シャントや右室肺動脈導管の周術期管理はこちらを、根治術に関してはこちらを参照。

以下、uniforcalizationの周術期管理について解説する。

術前・術中管理

開胸でのunifocalizationでは、可能であれば片肺換気を行う。体の大きな小児では、(ダブルルーメンチューブや)ブロッカーによる片肺換気により、術野の視野改善と外科的牽引による肺外傷を最小限にすることができる。大量出血が予想されるため、太い静脈ラインが必須である。

通常のダブルルーメン気管内チューブはその太さから小児への使用には向かない。Cook社のArndt気管支ブロッカーは小児に対しても使用可能であり、4.5 mm以上の気管内チューブで5Fr6.0 mm以上で7Fr7.5 mm以上で9Frのブロッカーを用いることができる。

MAPCAsのような体肺シャントがある場合、人工心肺確立後に肺循環へのrun-offが増加し、十分な人工心肺流量にも関わらず脳低灌流となる可能性が有る。そのため、一期的unifocalizationであったも、人工心肺を開始する前に可能な限り多くのMPACAsが結紮・unifocalizeされる1)。それぞれのMAPCAが結紮されるにしたがって、肺血流の比率が下がるため動脈酸素飽和度は低下する。酸素飽和度が70-75%に近づいた段階で、低体温・自己心拍下に人工心肺が開始され、残りのunifocalizationを施行する1)

人工心肺離脱後

人工心肺後は以下のような問題点が起こりうる1)

右心不全

不十分な肺血管床による後負荷増加により発生する。前負荷の最適化、強心剤、NO、肺血管抵抗を減らすために換気条件を調節する。

肺内出血や吻合部からの出血

多数の血管吻合や人工心肺の影響により発生する。場合によっては術後、高いPEEPを用いた人工呼吸管理が必要になることもある。

肺再灌流障害

それまで低灌流であった肺への血流が増加することで発生し、肺水腫、気管支痙攣、換気量低下、低酸素血症が発生する。

 

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Soquet et al. Ann Thorac Surg. 2019 Aug;108(2):601-612.
  3. Soquet et al. Ann Thorac Surg. 2017 May;103(5):1519-1526.
  4. D’Udekem et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2005 Dec;130(6):1496-502.
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