小児心臓麻酔〜各論〜

総動脈幹症の周術期管理

以下、総動脈幹症(Truncus arteriousus)の周術期管理について、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。

解剖・分類

胎児期の大動脈と肺動脈への分離不全が原因であり、1本の大動脈が冠動脈・肺・体循環を供給する1)

心室中隔欠損をはじめとして、冠動脈異常や大動脈病変、その他の心内病変を合併することが多い1)総動脈幹弁の弁尖数は2-6個と様々であり、閉鎖不全や狭窄症を引き起こす1,2)

総動脈幹症は、22q11欠損によるDiGeorge症候群と関係がある。これらの症候群は、胸腺低形成、副甲状腺低形成(T細胞欠乏)、低カルシウム血症、口蓋形成異常、発音・学習障害、精神異常、頭蓋顔面形成異常など心外病変を合併する1)

総動脈幹症の分類方法の一つに、Collett-Edwards分類がある1,3)

Type I

総動脈幹症の70%を占める。主肺動脈が動脈幹から起始し、その後左右の肺動脈に分かれる。

Type II

30%を占める。左右肺動脈が動脈幹後壁から別々に起始しする。左右肺動脈の同士が非常に近接する。

Type III

約1%と稀。type IIと同様に左右の肺動脈が別々に起始するが、側壁から横に向かって起始している。

(Type IV)

現在は総動脈幹症としては認められていない。肺動脈は完全に欠損しており、気管支動脈と側副動脈が下行大動脈から起始し肺に血液を供給する。肺動脈閉鎖/心室中隔欠損(PA/VSD)の一型として定義されており、「偽性総動脈幹症」とも呼ばれている。

病態生理

総動脈幹症では、総動脈幹から冠動脈・肺動脈・全身動脈への血流が送り出される。肺血管抵抗が新生児期早期に低下するにつれ、肺血流量が増えてうっ血性心不全となる。

心室中隔欠損がある場合は、全身循環と肺循環が心室中隔欠損を介して様々な程度に混合する。心室中隔欠損は大きいことが多く、その場合は両心室は等圧となる。

大動脈から肺動脈への血流によって拡張期圧が低下し、総動脈幹弁閉鎖不全症の併発によって増悪する1)。心筋仕事量の増加や心室内圧が上昇するような状況では、拡張期圧の低下によって冠動脈盗血現象により心筋虚血となる危険性がある1)

未治療では早期のうっ血性心不全と肺血流増加により、乳児期に肺血管閉塞性病変に進展する1)

方針

新生児期の根治術が推奨されるが、個々の患者に基づいて手術時期を決定し、生後2-3ヶ月で行う施設もある1)肺動脈絞扼術のような姑息術は、根治術が受けられないようなごく例外を除いては現在殆ど行われていない1)

根治術では、総動脈幹基部から肺動脈を切り離し、欠損部を閉鎖する。心室中隔欠損は心房もしくは心室経由でパッチ閉鎖される。右室から肺動脈へは、弁付きホモグラフトを用いる(Rastelli型手術)。

右室圧上昇が予想される場合には、小さな心房間交通を作成することで右左シャントの抜け道とし、動脈血酸素化低下と引き換えに心拍出量を増加させることもある(「肺高血圧クライシス」参照)。

中等度から重度の総動脈幹弁逆流に対しては、弁形成術、冠動脈移植+double-homograft」術、または機械弁置換術を施行する1)

術前チェック項目

心エコーでは、

  • 総動脈幹弁の形態と狭窄・逆流の有無:形態によっては弁形成や置換術が必要
  • 心室中隔欠損大きさ:多くで合併
  • その他の心内病変

を評価する。

周術期管理

術前・術中管理

人工心肺までの麻酔管理は、Qp/Qs=1を目指すべく肺血管抵抗と全身血管抵抗のバランスをとる。すなわち、過換気や高濃度酸素は肺血管抵抗を低下させ肺循環を増悪、拡張期血圧を低下させるため避けるべきである(「肺高血圧クライシス」参照)

上述のように、総動脈幹症による大動脈から肺動脈への血流と総動脈幹弁逆流の合併は、心筋虚血の危険性を高め、心室性不整脈の原因となる。肺血流を制限し拡張期血圧を上昇させるため、人工心肺前に外科医によって一時的に肺動脈を駆血することもある1)

染色体検査で除外されないかぎり、総動脈幹症患者はDiGeorge症候群があると考えるべきであり、T細胞欠乏症の可能性を考え照射された血液製剤を用いるべきである1))。

人工心肺離脱後・術後管理

人工心肺離脱後は、DiGeorge症候群関連低カルシウム血症や血液製剤由来のクエン酸による低カルシウム血症が危惧される。

新生児期より高肺血流にさらされる本疾患では、人工心肺の影響もあり術後に肺高血圧クライシスが起こりうる1)。特に6ヶ月以降では上述のように肺血管の閉塞性病変が始まるため注意が必要である。肺高血圧症を呈した患者は通常最低でも術後24時間は鎮静し、早期の肺高血圧クライシスを予防する。

心室中隔欠損の閉鎖や右室切開により、右脚ブロック、完全房室ブロック、房室接合部異所性頻脈、心房頻拍などが術後発生する4)

 

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References

  1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
  2. Van Praagh R et al. Am J Cardiologists. 1965 Sep;16(3):406-25.
  3. Collett RW et al. Sorg Clin North Am. 1949 Aug;29(4):1245-70.
  4. Karpawich PP et al. J Thoracic Cardiovascular Surgery. 1981 Aug;82(2):182-9.
ABOUT ME
木村聡
福岡県の研修病院で初期研修修了後、大学に入局。米国オハイオ州に臨床研究で留学するも、知識の欠如を痛感。ハーバード公衆衛生大学院に進学し、MPHを取得。マサチューセッツ工科大学メンバーとの共同研究などに関与。 日本では麻酔・集中治療医として働き、オーストラリアでは小児集中治療を一から学び直しています。 乗り越える壁を見つけ続けることは、なかなか簡単ではありませんよね。アラフォー目前、様々な壁にぶち当たり、それなりに多くの経験をしてきました。私の挑戦や経験・知識、失敗談などが、他の誰かの刺激になり、役に立つことを切に願っています。 プロフィールをもっと詳しく見る

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