以下、三尖弁閉鎖(Tricuspid atresia: TA)の周術期管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。
解剖・分類
TAは、三尖弁の完全な欠損で右房と右室の連絡がない先天性心疾患である。そのため、右室は流入部が欠損し、肉柱部が不完全なと右室低形成となる。左心低形成症候群(HLHS)が右室型単心室に分類されるのに対し、TAは左室型単心室に分類される。先天性心疾患の0.5-1%を閉め、type I, II, IIIへ分類される1)。
Type I
最も多く(70-80%)、大動脈と肺動脈の位置関係は正常である1)。
- Type Ia:心室中隔欠損なし/肺動脈閉鎖(IVS/PA)
- Type Ib:小さな心室中隔欠損/肺動脈狭窄(VSD/PS)
- Type Ic:大きな心室中隔欠損/肺動脈狭窄なし(VSD/PSなし)
Type II
12-25%を占め、大血管の位置異常(TGA)を伴う1)。
- Type IIa:心室中隔欠損/肺動脈閉鎖(VSD/PA)
- Type IIb:心室中隔欠損/肺動脈狭窄(VSD/PS)
- Type IIc:心室中隔欠損/肺動脈狭窄なし(VSD/PSなし)
Type III
3-6%と稀であり、房室中隔欠損や総動脈幹症といった複雑心奇形を合併したTAが分類される1)。
病態生理
TAでは、全身静脈還流は直接右室に流れず、右房からASDや卵円孔(生存のために必須)を通して左房に流れ、肺静脈血と完全に混合する。心室中隔欠損がある場合は、左室からVSDを通して小さな右室へ流れる。左室には、体肺両循環の血液が流入するため容量負荷となる。右室の大きさは、VSDを介した血流量に影響される。
Type I
体静脈血と肺静脈血は左房で完全に混合する。右室流出路狭窄とVSDの大きさー制限/非制限(restrictive/non-restrictive)によって肺血流量とチアノーゼの程度が決まる。
Type Ia(IVS/PA)の肺血流は動脈管に依存しており、動脈管の閉塞は著名なチアノーゼを引き起こす。VSDがないため右室は高度の低形成。
Type Ib(小さなVSD/PS)の肺血流は、肺動脈狭窄の程度とVSDの大きさ、動脈管に依存する。心臓が成長し心拍出量が増加するにつれて相対的にVSDの大きさが十分でなくなり、チアノーゼが増悪することがある1)。VSDが小さいため右室は低形成。
Type Ic(PSのない大きなVSD)では、VSDが大きく肺動脈狭窄がないため肺血流が多く、チアノーゼは少ない。Qp/Qsが増加するに従って肺循環が過剰となり、うっ血性心不全となる。
Type II
大動脈と肺動脈の位置が異常であり、左室が直接肺動脈に血液を駆出する。
Type IIa・IIbといった肺動脈閉塞性病変では肺血流が少なく、動脈管が十分に開いていなければ強いチアノーゼを呈する。
Type IIcでは生後数週間で過剰な肺循環と、うっ血性心不全となる1)。
VSDが制限性(restrictive)であれば、大動脈弁を介した順行性の体血流は制限され、上行大動脈の低形成が発生しやすい。その場合、動脈管を介した体循環となり、生後数日で動脈管が狭小化するにつれ、全身低灌流とショックを呈する。
方針
基本的に単心室であるため、最終的なゴールは総大静脈肺動脈吻合(Total CavoPulmonary Connection: TCPC/ Fontan)となる。そこに至る過程で、病態により様々な姑息術が存在する。
姑息術
– Type IaとIIaでは、肺動脈が閉鎖しており、プロスタグランジンで動脈管を維持しつつmodified blalock–Taussig shunt (mBTS)を施行する。
– Type IbとIIbで、肺血流の制限が軽度でチアノーゼが少なく、うっ血性心不全もないというバランスがとれている場合は、新生児期の手術を必要としない可能性もある。数ヶ月、チアノーゼの経過観察し、6ヶ月までに上大静脈肺動脈吻合(Glenn手術)を行う。
– Type IcとIIcで、うっ血性心不全となる場合は、肺血流を制限するために肺動脈絞扼術を施行する。
– Type IIでVSDが制限性で上行大動脈の低形成のある症例や、大動脈弁下閉塞性病変(Subvalvular Aortic Stenosis: SAS)のある患者では、肺動脈絞扼術を施行すると両大血管への血流が阻害されて心不全となる危険がある。これらの患者は、それぞれの解剖や病態に従って
- 姑息的な大血管転換術(Palliative Arterial Switch Operation: pASO)を施行し、閉塞のない左室から大動脈へ駆出できるようにする2)。肺血流を得るために、VSDの拡大が必要となることもある。場合によっては、体肺動脈シャントも考慮する。
- 上行大動脈を主肺動脈に端側吻合し、大動脈弁下狭窄を除去するDamus–Kaye–Stansel (DKS)手術を行う(肺血流はmBTSやRV-PAシャントによって供給:HLHS参照)。
根治術
前述のように、最終的なゴールは総大静脈肺動脈吻合(Total CavoPulmonary Connection: TCPC/ Fontan)である。
生後3-6ヶ月頃にGlenn手術を、18ヶ月-3歳でFontan手術を行う(それぞれの記事を参照のこと)。
術前チェック項目
心エコーで
- 心房間交通:生存に必須
- 右室拡張末期容量:VSDの大きさが右室低形成の程度に関与
- VSDの有無と大きさ:分類に必要。肺血流量(チアノーゼ)の規定因子。
- 肺動脈閉鎖・狭窄の有無:分類に必要。肺血流量(チアノーゼ)の規定因子。
- 動脈管の有無:PA(Ia)やPS(Ib, IIa, IIb)のある症例では肺血流を保つために重要。Type IIでVSDが小さければ動脈管によって体循環が保たれる。
- 大動脈弁や上行大動脈:Type IIでVSDが小さければ低形成。
- 大動脈弁下狭窄の有無:palliative ASOやDKAを考慮することになる。
を評価する。
心臓カテーテル検査:
GlennやFontan手術前には必要となるが、姑息術前は必須ではない。
周術期管理
基本的に単心室と考えて、Qp/Qsが1に近い形を目指す管理は他と同じである。ただし、機能的心室は(元々体循環を担う)左室であり、大動脈弁は閉鎖していないため冠動脈循環もHLHSほどは脆弱でない1)。そのため、DKSもGlenn/Fontan前の姑息術であるが、HLHSに対するNorwood手術と比較し術後の病態生理学はより安定する。
姑息的ASOは、d-TGAに対する標準的ASOと似ているが、TAが残存しているため、肺血流を保つためにVSDの拡大やmBTSを要することがある。
その他、
- mBTSの管理についてはこちら
- 肺動脈絞扼術の管理についてはこちら
- Glenn手術の管理についてはこちら
- Fontan手術の管理についてはこちら
を参照のこと。
References
1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
2. Heinle JS, et al. Ann Thorac Surg. 2013 Jan;95(1):212-8; discussion 218-9. PMID: 23200238.
コメント
コメント一覧 (5件)
[…] 三尖弁閉鎖、左心低形成症候群、単心房/単心室 […]
[…] 心室中隔欠損症、房室中隔欠損症 etc)や単心室循環(ex. 単心房/単心室、三尖弁閉鎖(Ic, IIc) […]
[…] 上記は基本的に孤発性ASDの病態生理である。左心低形成症候群、三尖弁閉鎖症、総肺静脈還流異常症、純肺動脈閉鎖症といった、心房中隔欠損孔がないと生存できない疾患もあり、それぞれを参照してほしい。 […]
[…] 三尖弁閉鎖(Tricuspid atresia: TA) […]
[…] 左心低形成症候群と三尖弁閉鎖症に関しては、それぞれをご覧ください。 […]