以下、体肺動脈シャントの一つであるBlalock-Taussig shunt(BTS)の周術期管理に際し、麻酔科医・集中治療医が把握すべき事項について解説します。
目的
体肺動脈シャントの主な目的は、先天性心疾患により肺血流が減少している症例において、
- 根治術を施行するまで安定した肺血流を供給すること
- 肺血流を増やすことで肺動脈の発育を促し、肺血管床を増やすこと
である。また、ファロー四徴症などで左心系への肺静脈還流を増やし左室の発育を促すことなどにも用いられる。
種類
“Classic” Blalock-Taussig shunt (BTS)は、鎖骨下動脈を右肺動脈へ端側吻合してチアノーゼを軽減させるものであったが、現在施行されている最も一般的なシャントは、グラフトを用いて腕頭動脈/鎖骨下動脈と同側の肺動脈を結合する“modified” Blalock-Taussig shunt (mBTS)である。
mBTSには、
- シャント側の腕への血流が保たれる
- 両側どちらでも作成できる(※肺動脈との吻合がより中枢となり、後々シャントをコントロールしやすいため、右側が多い)
- グラフとのサイズを選ぶことで過剰な肺血流を避けれらる
といった利点がある1)。
また、解剖学的にmBTSの作成が難しい場合は、主肺動脈と上行大動脈をグラフトで結合する、central shuntという体肺動脈シャントを作成することもある。
施設によってそのサイズ選択は異なるが、例えば
- < 3.2 kg: 3.0 mm
- >= 3.2 kg: 3.5 mm
を一つの目安とし、Glenn手術や根治術のタイミングを考えて最終決定する。
術前チェック項目
mBTSの対象となる疾患は、非常に多岐にわたる。それぞれ基礎心疾患に対し、必要事項をチェックを行う。
周術期管理
術中管理
mBTSが予定されている患者では、シャント開存時に同側の鎖骨下動脈から盗血されるため、血圧の正確に評価するためには動脈圧ラインを逆側に留置する。
mBTSを施行される多くの患者は、肺血流が著しく減少している。肺血流を増やすための人工呼吸管理(酸素投与や過換気)を行い、動脈管開存のためプロスタグランジンが投与されていれば継続する。
通常は人工心肺を用いずに、右開胸か胸骨正中切開で行われる。しかし、患者が肺の牽引や肺動脈のサイドクランプに耐えられない場合は、人工心肺を必要とすることもある。
低用量ヘパリン(100 U/kg)がシャント留置前に投与される。外科的な肺の牽引により酸素化と換気が障害され、肺血管抵抗上昇し酸素化が悪化することがしばしばある。また、吻合中の部分的遮断や主肺動脈の閉塞により同様の低酸素を呈する。適宜、輸液、血管収縮薬、肺血管抵抗を減らすための換気の調節によってコントロールする。
吻合が終了しシャントが開通したら、酸素化は改善する。拡張期にも大動脈と肺動脈の圧較差があるため、シャントでの左右シャントは拡張期にも流れ、run-offにより拡張期血圧は低下する。血圧の変化は、シャント血流の程度を把握する一つの指標となる。
シャント血流によりQp/Qsが突如上昇することで、より多くの血管内volumeが必要となる。拡張期血圧が非常に低い場合は冠動脈血流が減少し血行動態が破綻する原因となるため、迅速に輸液・輸血によるvolume負荷を行う。
施設によっては、フェニレフリン、バソプレッシン、ノルエピネフリンなどの血管収縮薬を投与するところもあるが、血管収縮薬は全身血管抵抗を上昇させ、mBTSを介した左右シャントを増やす可能性があるため注意が必要である。
根治術を施行するまでは抜管・自発呼吸による生活を目指しているため、麻酔のない自発呼吸下での酸素・二酸化炭素濃度に近づけることが理想である。例えば、人工心肺を用いた場合はその肺血管抵抗への影響を考慮し、FiO2 0.5程度で離脱を試み、可能であれば術後に向けてFiO2 0.21へと下げていく。人工心肺を用いない場合は、初めからFiO2 0.21で管理する。
肺血流と体血流のバランスを考えると、酸素飽和度80-85%が望ましい1)。酸素飽和度が高い場合は、過剰な肺血流を示唆し、シャントの大きさを小さくする必要がある。逆に、酸素飽和度が低い場合は、不十分な肺血流を示唆し、より大きなシャントが必要となる。
術後管理
シャントのサイズを把握しておくこと。患児の今後の成長を考慮し太めのグラフトを留置するため、術後は肺血流が過剰気味となることが多い。ただし、4mmのシャントは4kg以下の患児には大きすぎる。シャントが過剰(high-flow)になり冠血流減少・急変すると、シャントにより心臓マッサージも有効でなくなる。High-flowによる急変を予め防ぐことが肝要である。聴診によりシャントの開通性も観察する。
シャント血流の変化が生死に直結するため、一般的には術後の深鎮静下の人工呼吸管理が選択される。麻薬や筋弛緩薬の使用も考慮し、室内酸素濃度で12-24時間の人工呼吸管理を続ける。
その他、横隔神経・反回神経損傷、Horner症候群、乳び胸、シャント血栓といった合併症の可能性がある1)。
術後出血が落ち着いていると判断したら、シャント開存のため低用量ヘパリンを開始する(6-10U/kg/h)1)。プロスタグランジンを3日以上使用している場合は、術後24-48時間かけてweaningする。経腸栄養が開始されたら、根治術まで低用量アスピリンを開始する1)。
References
1. Anesthesia for Congenital Heart Disease, 3rd Edition. Dean B. Andropoulos et al.
コメント
コメント一覧 (11件)
[…] mBTSと同側の鎖骨下動脈や分枝(上腕動脈・橈骨動脈)は動脈圧ラインとし…。内頚静脈から中心静脈を挿入する場合は、深すぎるとGlenn吻合の邪魔になるので注意する。内頸静脈を介した中心静脈圧は、Glenn吻合後は肺動脈圧のモニタリングとして使える。内頚静脈や鎖骨下静脈を介した中心静脈カテーテル留置を血栓予防のため避け、大腿静脈にラインを挿入するを用い、小さいカテーテルを右内頚静脈から術後12-24時間の肺動脈圧モニタリング目的で挿入する施設もある1)。 […]
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[…] 二心室修復(またはone-and-a-half repair)を目指す場合は、右室流出路の閉塞性による右室圧上昇を解除(RV decompression)し、右室を通過する血流量を増やす。肺動脈弁裂開術(開胸 or 経皮的バルーン)やパッチによる右室流出路形成を行う。体動脈肺動脈短絡(modified Blalock-Taussing shunt: mBTS)を同時に行うか否かは、肺血流を増やすか、右室を通る血液を増やし右室の発育を狙うかの、trade-offである。 […]
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[…] 二心室だけでなく、単心室にもTAPVCが合併することがあり、多くがheterotaxy syndromeである。いずれFontan手術へ向かうため、PVOのない心臓型(II: Cardiac TAPVC)は、経過観察とされることもある。単心室の心外型TAPVC(I, III, IV型)では、BTシャントや肺動脈絞扼術といった姑息術と同時、Glenn手術と同時、またはFontan手術と同時に修復術が施行される6)。 […]